3-2.何でも私に話してよ!
「紅葉。話があるの」
『覚悟が決まったら』と猶予を貰ったのは、昨日。で、今日の呼び出しだ。「もう覚悟は決まったかしら」と言われるのだろうか。紅葉は、今までにない緊張した面持ちで、桜の前に座った。
しかし、桜の言葉は全く違ったものだった。
「貴女は、貴女の臣霊たちと一度、ゆっくり話をする必要があるわ」
紅葉は目を見開いて桜を見る。
「え? 臣霊たちと‥ですか? 」
「華鳥が、私に鮮花が悩んでいるらしいと伝えに来てくれたの。そのことについては‥私も含めて、話した方がいいと思って来てもらったの。修学旅行前の忙しい時期だとは、分かっているのだけど‥」
「桜様も含めて? 」
桜の気遣いに「いいんです」とだけ断って、しかし、話の本筋に会話を戻す。
「ええ」
「むしろ、私が居なければ意味がないかもしれないわ」
と、そこで桜が昨日、華鳥から聞いた話をかいつまんで話す。
一に、鮮花と月桂は、今は紅葉の守護臣霊である。
二に、鮮花は、「自分たちが紅葉の中に居たら、紅葉は、好きな人と一緒に子供を呼ぶことが出来ない。‥好きな人との子供を産むことが出来ない」と悩んでいる。
心の奥、月桂と鮮花がいる辺りがざわざわとなって、胸が苦しくなる。
‥やめて、紅葉に聞かせないで‥、紅葉聞かないで‥
鮮花の苦しそうな声が聞こえてくる。
だけど、紅葉は
『聞かなければならない事だ』と、強い心を持って、苦しそうな鮮花の声を切り捨てた。
三に、紅葉が呼ぶ魂を退けないためには、自分たちが守護臣霊でなくならなければならない。その為に、自分たちを守護臣霊としている『紅葉への愛(=執着)を除かなければならないと考えている。
‥止めて。やめて、やめて!
鮮花の声は最後には、悲鳴の様に響いた。
「執着を封印されて、四朗君はずっと苦しんできたんでしょう? 桜様から聞いたわ。‥貴方たちをそんな目に合わせられるわけないじゃない! 」
桜の前であることを、一瞬忘れて、紅葉は鮮花に叫んだ。
鮮花は、何も言わない。ただ、泣いているのが分かった。
月桂も何も言わない。
ただ、歯を食いしばっているのが分かった。
そんな二人が急に、幼い子供のように思えてきた。
ああ、私の子供‥。
そんなこと思った瞬間、胸がいっぱいになった。
「なんでそんな大事なこと自分たちだけで決めようと思うの? 私たちのことじゃない! それに‥私、鮮花たちのこと家族だと思ってるんだから‥。何でも私に話してよ‥っ! 」
もどかしくって悔しくって、でも、それだけじゃなくって‥。
「私、いっぱい子供を産むわ。鮮花と月桂を産んで、そしたら心は空っぽになるんじゃない? それで、魂をいっぱい呼んで、いっぱい子供を産むわ」
言ってるうちに、そんなこと何でもなくって出来るような気がしてきた。
悩むようなことじゃない。そんなこと。
そんな気がしてきた。
紅葉は、相変わらず泣きそうで、でも精一杯満面の笑みを浮かべた。
「私は、貴方たちとも一緒に生きていきたいの! 」
鮮花と月桂の心に直接話しかけるみたいに、優しく楽しそうに、言った。
紅葉
紅葉様‥
泣きながら、月桂と鮮花が何度も頷くのが分かった。
「紅葉‥。ええ、そうね。きっとできるわ。きっと素敵でしょうね」
向かい合って座っている桜も泣いているようだった。
「ええ。ええ。きっと出来ます‥」
紅葉も気が付けば泣いていた。
いつの間に横に来ていたのか、小菊が、ハンカチで紅葉の涙を優しくぬぐってくれた。
桐江が、優しい微笑むを浮かべてお茶を入れてくれた。
ぬるめのお茶が心にしみていくようだった。
泣きすぎて目が真っ赤になっている。そのまま帰宅すると、きっと千佳が心配(心配というか‥怒る?? )するので、久しぶりに紅葉は桜に鏡の秘術を掛けてもらった。
『紅葉』の顔。
いつも通りの、紅葉の顔。
そして、気付いた。
ああ、そうか。
泣きたいとき、苦しい時、それをそのまま表情に出しちゃ駄目だから、桜様はずっと『仮面』を被って生活されているんだ。
って。
ホントは、悲しいことだって、つらいことだってあったんだって。
仕方ないことかもしれない。でも、それはなんて悲しいことだろう。‥せめて、誰かがその悲しみを聞いてあげられたらいいのに。それを、‥私は出来るだろうか? 桜は、それを自分に許すだろうか? ‥許さないなら、気付かないでいた方がいい。
きっと、そんな優しさだってある。
『家族』だから、って土足で踏み入ってはいけない領域はある。
それを埋めるのが、桜様にとっての『臣霊』だった?
私にとっての、『臣霊』、四朗君、桜様にとっての『臣霊』
桜様にとっての『臣霊』は、多分今、四朗君だけだ。その、四朗君が自分の手から離れて、考えて悩んで、でも前に進もうと懸命にあがいている。それを見つめる桜様は、一人の親である以外何も、ない。
そして、四朗君も桜様の息子であることは、間違いない。何にも変わらない。
‥子供かあ。咄嗟にあんなこと言っちゃったけど。‥考えてみたら、凄い発言しちゃった‥。恥ずかしい‥。




