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相生様が偽物だということは誰も気づいていない。  作者: 大野 大樹
十三章 未来を想う
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3-1.変わっていくのは、紅葉だけじゃない

「‥私たちは、紅葉が総て。今まで守護臣霊になることは当たり前のことだと思ってた。‥でも」

「鮮花」

 珍しくどこか思いつめた顔で話し始めた鮮花の言葉を、「聞きたくない」というアピールだろうか、月桂が遮る。

 こんなことも珍しい。

 聞きたくないなら、いつもの月桂のように「聞かなければいい」のだから、「言わせたくない」「言わせない」が正しい理由なのだろう。

 ‥「それを言ったら、おしまいだ」だろう。

「私たちが、紅葉の中にいたら紅葉は子供を呼べない」

 そんな月桂の「制止」を押し切って、否、無視して鮮花が言った。

「‥‥‥」

 何度目かわからない臣霊会議。この頃は、もう入れ替わり後のフォローの為の情報交換も以前ほど必要ではなくなってきた。

 でも、三人は時々集まる。紅葉についている臣霊・月桂と鮮花が希望するからだ。

 月桂と鮮花は、同じ臣霊である四朗の様子を華鳥から聞きたがった。だが、別に四朗を心配しているわけでは、しかしながらない。

 人間の子供として産まれてきた臣霊の例が実物としてそこにいるから。それが四朗だから。ただそれだけだ。臣霊なんてそんなもんだ。他者に興味を持ったり、ましてや心配したりすることはあまりない。

自分に正直な鮮花が「四朗可哀そうね」と言ったところで、それはその時の感想を言っただけに過ぎない。可哀そうだね、とただそれだけ、なのだ。

Sympathy

同情ではなく、同感。アダムスミスが道徳情操論について述べたことと同様だ。臣霊にだって常識やら、感情が無いわけではない。

悪は悪だとわかるし、たとえ、マスターの為と言えど、犯罪に手を染めるようなことはないだけの一般常識もある。

あるが、「それならそれをどうにかしなければ」と言った、「その後についての」情熱とか判断とかいったものがマスター以外に向けられることはない。

つまり

「四朗は、可哀そう」

 だから、何とかしてあげたい、にその感情が発展することはない。ただそれだけのことだ。

 しかし元々は、「内なる正義」というものは、「そういうもの」なのであるらしい。

 臣霊たちは、辛うじてある「正義」の根底となる考えに基づいて、公序良俗に基づいた行動をしている。

 『世間』から、多少ずれた感があるのは、常識の欠如云々という問題ではなく、他人にどう思われたいという感情がないからだ。

 社交辞令や人間関係を円滑にする為の遠慮やお世辞・建前・美辞麗句、そういった総ての『無駄』を本当に自然に取り払って、臣霊は生きている。

 好きは、好き。嫌いは、嫌い。好きか、嫌いか、嫌いじゃない、か。好きならとことんその人の為に尽くす。嫌いなら、無視する。嫌いじゃなくても、だけどどうでもいいから無視する。

 臣霊たちは、自分の性格の欠点を熟知している。どうにもならないし、どうしようとも思わないから改めようとは思わないけれど、熟知している。

 だから、そんな『社会不適応者』が果たして、人間社会でやっていけるのか、には関心がある。

 自分たちの後々の生活の実例だと思うわけではない。‥実は、そんなこと考えたくない。別に今のままの生活に満足している。

 戒めだ。

 自分たちは、このままの方がいい。人間として産まれるということは、今の四朗の様な苦しみを味わうことになる。だから、それは望んではいけないことだ、と。

今の四朗はどうだ。マスターである桜の元でずっと彼女を守ることも、彼女の想いを尊重することもなく、自分の人生について悩んで、しかし、マスターの愛を求めている。‥マスターの愛にも気付かずに、愛を求めて悩んでいる。

これは果たして、臣霊なのだろうか。

臣霊としてのアイデンティティを奪われたら、果たしてこのような滑稽で哀れなことになるのだろうか。紅葉が自分たちから、臣霊としてのアイデンティティを奪っていくとは考えらないが、でも、果たしてどんなことが起こるか分からないのが人の世だ。

明日は我が身と、言い切れない。

それは、可能性として考えておかなければいけない。

ただ、

 紅葉の一番近くで、紅葉の為だけに、紅葉だけを守りたい。

 だけど、紅葉が子供を望むのであったら、自分たちの願いと紅葉の願いは一致しない。

「私たちが紅葉の中に居たら、間違いなく子供として生まれて来るだろう。紅葉の子供として呼ばれるであろう魂は、私たちがいるから、近づけない。‥桜様みたいに霊感が強すぎてもともと魂を呼べない方なら、仕方がないし、桜様も子供として臣霊を産むことを望んだ」

 いつもとは違う思いつめた表情と、抑揚のない口調で言葉を繋いでいく鮮花。

「でも」

 月桂は何も言わない。ただ、無言で前を向いている。

 聞いているのは、明らかなのだ。時々、ぴくり、と眉を顰めたり、拳を握りしめたりしている。

「紅葉は違う。紅葉にはそう霊感はない。紅葉には西遠寺の表の力は遺伝されているけれど、裏の力‥つまり霊感は遺伝していない。‥全くってわけでもないみたいなんだけど」

 そして、冒頭の言葉につながるわけだ。

 ‥私たちが、紅葉の中にいたら紅葉は子供を呼べない。

「紅葉さんは、子供が産めるってことですか? 」

 と、ここで今日初めて華鳥が口をはさんだ。

「問題ないと思うわ。私がいつも調べているもの」

 鮮花が頷く。そして、さっき華鳥に向けた視線を前に戻すと、

「私たちは、紅葉の近くに居すぎた。守護臣霊になる程に、紅葉を愛しすぎた」

 ぽつり、と懺悔する様に呟く。

「‥四朗のことを聞いているのは、執着を失った臣霊の記憶やら能力についてのことが知りたいから」

 懺悔のように、ただ、独り言のように。

 そして、やっぱり月桂は何も言わない。

「‥まさか、貴方たちも執着を封印したいって言うんじゃないでしょうね」

 華鳥の表情が一気に険しくなる。

「だって、そうしなきゃ、紅葉は子供が‥」

 鮮花は華鳥を見ない。ただ、泣きそうな顔で前を向いている。

「‥でもその話は、貴方だけがする話じゃないはずだわ。紅葉さんや桜様にも相談しなきゃならない話、じゃない? 」

 今、彼女を説得することの困難さと、無意味さから、華鳥はため息をついて、問題の先延ばしを選択すべく、優しい口調で言った。

 でも、

「執着を封印されて、四朗様はずっと悩んでこられた。そして、桜様ご自身も。それだけは覚えて置いて」

 と、それだけは冷たい口調で告げ、すっと消えた。

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