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占いなんて信じていないけど

 それは小学五年生だったときの、ある雨の日の帰り道の出来事。


 陽菜ひなが僕に言ったんだ。


「あたしと桂汰けいたくんの相性ってすごく良いらしいよ」


 屈託なく朗らかに彼女はそう言った。


「僕は占いなんて信じないから」


「えー、だけど嬉しいじゃん、良い結果なら」


「つーか、なんで僕との相性を調べているんだよ」


 委員会活動が一緒で居残りしていた僕らは、傘を並べて歩いていた。同じマンションの同じフロアに住む幼なじみなのだ。


「まぁ、なんとなく?」


 明るく笑う彼女は、恋だの愛だのとは無関係な様子だった。





 中学も高校も同じところに通ったが、付き合うようなことはなかった。


 陽菜は思春期を迎えて可愛らしく成長し、異性にモテた。僕が彼女の隣の家に住んでいると知って嫉妬した連中に絡まれもしたけど、意外と僕は喧嘩に強かったのでしつこくされることはなかった。多分、陽菜はそのことを知らない。


 彼女とは付き合わなかったが、僕にはカノジョができていた。だから、陽菜とはどんどん疎遠になった。自然と距離が開いて、完全に他人になるだろうと思った頃、唐突に陽菜が家に来た。


「ねぇ、桂汰くんは卒業旅行、どうするの?」


 僕も陽菜も推薦で進路は決まっている。それはたまたま推薦対策講義を同じ教室で受けていたからだし、進路の先生から話も聞いていた。別々の道に進むということは、直接話さなくても知っている。それは彼女も同じなのだろう。


「行く予定なんてねぇよ」


 素っ気なく答えると、陽菜はにっこりと笑った。


「じゃあ、あたしと行こうよ」


「は? なんで陽菜と行くんだ?」


「ほら、だって進路別々だし」


「お前と行くくらいなら、カノジョと行くさ。そっちだって、カレシと行けよ」


「カレシなんていないよ。そもそも、桂汰くん以上に相性の良い相手なんていないだろうし」


「それって、どういう……?」


「桂汰くん、今フリーなの知ってるよ? あたしと一緒に行こう」


「う……」


 確かに、冬休みに入る前にカノジョとは別れた。僕と同じ大学に行きたかったらしいカノジョは親に反対されて、その結果僕を逆恨みした。恨み言をたくさん言われたが、僕は別に大きな痛手を被ることなく別れることになった。冷めてしまったのだから、仕方ない。


「ね、決まりだから」


 予定をしっかりと伝えて、陽菜は帰ってしまった。彼女の意図がわからない。





 世の中の受験生にとって二月は勝負の時期なのだろうが、僕たちはゲレンデにいた。


「雪が降れば良いのにね」


 陽菜は鉛色の冬空に願う素振りをした。せっかくスノボーをしようとスキー場に来たものの、今年は雪が少ないらしい。上級者コースのある高いところにはいくらか滑れる程度の雪があるが、僕らが求めていた中級者向けのコースは閉鎖されていた。


「こればかりはしょうがないさ」


 ホテルのカウンターでスキー場の情報を仕入れた僕たちは、部屋に入ることにする。そこではたと気付いた。


「なんで、同室なんだよ?」


「このホテル、一人部屋はないからね」


 すべての段取りを彼女に任せていて、全く予期していなかった。


「そういう意味じゃなくて」


 困惑する僕の手を引いて、陽菜は部屋に入ると鍵を閉めた。


「お前、どういうつもりで――っ!?」


 壁と彼女に挟まれたと思ったときには、唇を塞がれていた。


「桂汰くん、抱いて」


 初めてとは思えない情熱的な口付け。銀糸の伸びる口元が、色っぽく笑む。


「お前……」


「思い出を作りたかったの、桂汰くんと」


「…………」


「ダメ、かな?」


 断る理由は特になく。僕は陽菜をその場に押し倒した。


「たいていの男は、お前みたいな女に誘われたら断らねえよ」


「ありがとう」





 そのまま玄関で、次は湯けむりの漂う部屋風呂で、むちゃくちゃにしてやった。望むように、求められるままに。


「ずっと好きだったんだ……ありがとう」


 陽菜は笑う。


「今から始めてもいいんじゃないか?」


「え?」


「これから、好きになっても構わないだろ?」


「うん……」


 はにかむ彼女はとっても可愛くて。


 僕は陽菜にとっておきの口付けを落とす。


 恋を今から始めよう。


《了》

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