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4/5

嫉妬

「じゃあこの書類、今日中に片付けておいてね。…期待してるよ、佐々木君」

「はい、任せてください」


俺が部長からある程度信頼を得たのは入社してから4ヶ月が経った頃だった。

大きな仕事なども、たまに回ってくるようになり、俺はこの4ヶ月の間で随分成長した、と、上司達に誉めてもらう事も多くなった。


そうなると、つまらないのが高宮さんだ。

俺が多部署の上司からも誉められ、それを嬉しがると、その都度嫌な顔をする。

前に一回、あまりにも上司に声を掛けられた回数が多かった時、

「あまり俺以外の男と話すな」

と、軽い注意を受けたことがある。

その時は一応「はい」と返事をしたものの、あまり深刻に考えていなかった。

しかし、それが裏目に出てしまった―――



「ただいま」

誰も居ない、電気も付いていない静かな家に俺は帰った。

最近は「離したくない」という高宮さんの頼みにより、高宮宅に泊まる事が多かったのだが、今日は珍しく高宮さんが先に帰って行ったので、俺は自宅に帰る事になった。


別に見るわけでもないのだが、物音一つしないというのは、どこか寂しく感じたので、テレビの電源を入れた。

冷蔵庫から、キンキンに冷えきったビール缶を取り出し、ソファーに腰をかける。


今日は1日で大量の書類をまとめるという、巨大なノルマを達成するため力を尽くしたので、肩、腰、首、至るところの関節が痛かった。


……風呂にでも入るか

俺はテレビの電源は付けたまま、飲みかけのビール缶をテーブルの上に置き、バスルームへと向かおうとした。その瞬間、ソファーの上に置いてあった携帯から着信音が鳴った。

「……こんな時間に誰だ?」

俺が携帯を手に取ると、

「……高宮さんっ!!??」

画面には高宮さんの名前がはっきりと出ていた。


俺は急いで電話に出た。


「もしもし、佐々木です。…こんな時間にどうしたんですか?」

俺が尋ねると、高宮さんは少し間を置き、

「……家に来てもらいたい」

と元気なさげな声で言った。

俺は即答した。

「判りました。直ぐに向かいますっ」

高宮さんは、それを聞き、安心したのか、少し笑みをこぼしたような感じがした。


俺は急いで上着を羽織り、携帯電話を上着のポケットに入れ、長財布をズボンの後ろポケットに入れた。

付けたままのテレビの電源を、リモコンで遠隔操作して切り、飲みかけのビールの中に埃が入らないように、缶の口の部分にハンカチを被せた。


勢いよく家を飛び出したはいいが、何しろこんな時間だ。午前2時を回っている。

終電はとうの昔に発車してしまったらしく、駅の電気は真っ暗だった。


「……困ったな。タクシーで行くしかないか」

俺は駅に向けていた足を逆に回転させ、近くのタクシー乗り場へと歩を進めた。


いくら深夜とはいえ、車の通りは未だに多い、そこそこの都会だったため、タクシーは案外直ぐに捕まえれた。

「狭川町までお願いします」

「判りました」

この会話は二度目だ。

前もタクシーのドライバーに狭川町まで行きたいと頼んだことがある。

確かあの時は、酔った高宮さんが一緒で………


等と考えていると、

「お客さん、狭川町、着きました」

タクシーは『狭川町』と書いてある標識の近くで停まった。

「…あっ、有り難うございます」

俺は直ぐに代金を払い、急いでタクシーから出て、高宮さん宅まで走った。


――ピンポーン

チャイム音が鳴って、暫くしてから、

「開いてる」

高宮さんの短い返事が返ってきた。

「失礼します」

俺は静かにドアを開けた。


「………?」

部屋の中は電気が付いておらず、真っ暗だった。

「………高宮…さん?」

心配になり、俺は手探りで電気のスイッチの場所を探った。

スイッチを見つけ、付けてみると――

「…………っ!!!???」

目の前には乾ききっていない赤い液体がリビングへと続いていた。

「………た、高宮さんっ!!!」

俺は衝動に駆られ、リビングへと全速力で走って行った。


そこには、ベッドに仰向けに寝そべる高宮さんの姿。…そしてベッドまで続く赤い液体。液体はベッドの一部をも赤く染めていた。


「嫌ですっ!!何してるんですかっ!!高宮さんっ!!!」

俺は寝転んだまま苦しそうにしている高宮さんの頬に手を当てながら叫んだ。


傷口は首元だった。

幸い浅い傷だったため、命に別状はなさそうだ。

とはいえ、この血液の量だ。放っておけば、それこそ命に危機が及ぶだろう。


「救急車っ、救急車呼びますね!」

俺は焦りに震える手で携帯を開いた。

…と、高宮さんの手がゆっくりと俺の手に触れる。

「………っ!!??」

高宮さんを振り返ると、彼はわずかに瞼を開いていた。

そして首を横に振る。

「……ダメですっ!!このままじゃ死んじゃう!俺は死んでほしくないんだ!…貴方が居なくなったら俺…」

そこまで言って口を詰むんだ。

彼の瞳から涙が伝っていたからだ。

「…高宮さん」

俺は涙を指で拭いた。

そして、

「ちょっと待ってて下さいね。…応急措置しますから。…これでも血が止まらなかった場合、救急車呼びますからね」

大事な事を述べ、包帯を探しに救急箱の入っている棚へ急いだ。


*†*


「……説明、してくれますよね?」

「……あ、えっと、その…だな…」

「はっきり言って下さい!!」

「はっ、はぃぃぃぃ!!!」


高宮さんの流血が完全に治まり、まともに話せるようになったのは、午前4時を過ぎた頃だった。


「……で、何であんな危険な事をしたんですか?」

俺がベッドに寝転んでいる高宮さんに聞く。

彼はおどおどしながら、

「そっ、それは…だな…。最近あまりにも佐々木が他の奴と喋っていて…」

「……それで?」

「…う。…そ、それで、嫉妬…して。こうでもしないと佐々木は俺の事しか見てくれないと思って…」

「………はぁ」

俺の腕の中で、恥ずかしそうに答える高宮さんに俺はため息を付いた後――

「心配しなくても俺は、何時でも高宮さんの事を思っますよ」

高宮さんの胸元に深く顔を埋めた。

高宮さんは、びくっと反応してから、恥ずかしそうに、そして嬉しそうに、

「そうか…。なら良かった」

と言い、俺を力強く抱きしめた。



午前6時。

目覚まし時計の音で俺は目を覚ました。

ここ(高宮宅)から会社は近いため、これくらいの時間に起きても出社時刻には余裕で間に合う。


俺は自分の腕の中でまだすやすやと眠っている高宮さんの髪を優しく撫でた。

彼は小さく声を洩らし、ゆっくりと瞼を開けた。

「おはようございます、高宮さん」

俺が挨拶をすると、上半身を少し起こし、

「…ん、おはよう」

彼はまだ寝たいのか、挨拶をした後また俺の腕に頭を乗せた。


……仕方ないですね

俺は「ふっ」と笑みを溢し、

「朝食、どうしましょう?」

彼に訊ねた。

彼は、まだ眠そうに、

「んー…、佐々木が作ってくれるんじゃないのか?」

と、言ってきた。

…俺が料理出来ないの、知ってるくせに。


「別に作っても良いですけど…。凄い代物になりますよ」

俺がいたずらっぽく言うと、

「それは困る」

と、彼は苦笑した。


4分が経った頃だろうか。彼は朝食を作る気になったらしく、身体を起こしキッチンへと足を運んだ。


「食材が少ないな…。…スクランブルエッグとハム、コンソメスープとグレープフルーツ辺りで良いか?」

彼は冷蔵庫を開けて、俺にそう訊ねてきた。

彼が作ってくれるのなら、何だって良い。

「それだけあれば充分ですよ。…あ、今日仕事帰りにスーパーでも寄ってきましょうか?」

俺は掛け布団を畳み直しながら彼に言った。

彼は苦笑し、

「…まさかお前、今日俺が出社しないとでも思ってるのか?」

と聞いてきた。

………え、何で判ったんですか?

俺がそう訊く前に、

「"寄ってきましょうか"っておかしいだろ。普通"寄りましょうか"だろ」

彼は、「まぁ、傷口も浅いし、出社くらいするよ」と言い、微笑んだ。

高宮さんと居ると楽しい。本当に安心する。

やはり俺は高宮さんの事が好きなんだ――

この時そう、改めて実感した。



*†*



「今日も2人揃って出社かぃ?仲が良いことだ」

会社に着くなり中谷さんが笑顔で接してきた。

俺と高宮さんは「おはようございます」と言い、会釈をしてその場を通り過ぎようとした。その時――

「佐々木ぃー!」

背後から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

振り返ると、他部署の上司が立っていた。

「おはようございます」

俺は再び会釈をした。

上司は、

「朝っぱらから言うのもなんだが、今夜一緒に呑みに行かないか?」

と、笑顔で訊いてきた。

……弱ったな。

今夜は先約があるのだが……

「…俺、先に仕事してくるな」

俺が暫く無言でいると、高宮さんはさっさとその場を去って行ってしまった。

「えっ…あっ、高宮さんっ」

俺が呼び止めたのも虚しく、彼は席に着き、PCを起動させ始めていた。


俺は上司に正体し、正直に言うことにした。

「すみません。今夜は先約があるもので…」

上司は、

「なんだなんだ~?彼女とでも過ごすのか?」

と、からかうような口調で言ってきた。

俺は苦笑しながら、

「彼女……。まぁ、恋人と過ごしますね」

と正直に答えた。

「幸せ者めが!」

上司は軽く俺の肩を叩き「じゃあまた今度な」と言い、自分の部署へ帰って行った。


他部署の上司が完全に見えなくなってから、ちらっと高宮さんの方を見ると、彼も此方を見ていたのか目が合った。

俺が会釈をすると、彼は微笑み手招きしてくれた。


彼の席は俺の席同様、机の上に沢山の書類が山のように積まれていた。

「…凄い量ですね」

「これ、一週間で片付けろってよ。…どう考えても無理だってのに」

高宮さんは苦笑ながら言った。

「そう言えば、佐々木も最近仕事増えただろ。大変だったら何時でも呼べ。手伝うぞ」

そして、自分だって大変だというのに、そんな事まで言ってきた。

俺は首を横に振り、

「俺は大丈夫ですよ。…そんな事より、高宮さんの方が大変じゃないですか。俺、高宮さんのためだったら何でもしますよ?手伝いますよ?」

善意を込めて言った筈だったのだが――

「…佐々木、バレるぞ」

高宮さんの冷静な指摘により、自分の失言に気が付いた。

『高宮さんのためだったら何でもしますよ』

この言葉、勘が鋭い人が聞けば、すぐに俺と高宮さんの仲の事に気づくだろう。


「…すみません」

俺は高宮さんに頭を下げた。が、彼は俺を叱る事なく、寧ろ嬉しそうに

「気にするな。…俺としてはバレた方が会社内でもイチャイチャできるから好都合なんだがな」

と言い、俺の頭を撫でてきた。

こんな事で一気に紅潮してしまう俺は、バカなのだろうか…



昼食の時間。

正午だ。食堂は込んでいるため、俺と高宮さんは社内にあるバルコニーというのかベランダというのか、そんな所で出社前にコンビニで買ったサンドイッチ等を食べていた。


「今夜、家寄るよな」

高宮さんが話題を切り出した。

「はい。ついでに泊まらせてもらうつもりですが…」

俺がそう答えると、彼は「待ってました!」と言わんばかりに笑顔になり、一度周りを見渡して近くに人影が無い事を確認した後に、

「毎日俺の家に通うのは苦痛だろう。…これを期に同居しないか?」

夢ではないかと思う程、耳を疑うような事を言ってきた。

俺は少し戸惑った後、

「高宮さんが良いと言うのであれば、是非!」

と、微笑みながら言った。


嬉しかった。本当に嬉しかった。

高宮さんと同居するなんて、夢のまた夢だと思っていた。

それなのに今、長年の夢が叶おうとしているのだ。


「今週末には荷物、全部運んでこい」

高宮さんはそう言うと、「じゃあ」と短い挨拶をして、仕事場へと戻って行った。


――夢なのだろうか。

もし、今の出来事が夢ならば、どうかこの夢が覚めないでいてくれる事を願う―


「佐々木くん」

ぼーっと青空を見上げていた俺の名前を誰かが呼んだ。

振り返るとそこには――

「…夕霧さん!?」

一人の女性が立っていた。

俺の知り合いだ。…だけど、なんでこんな所に…


俺は彼女をまじまじと見た。彼女は恥ずかしそうに目を反らしながら、

「久しぶりだね。元気そうで良かったよ」

と挨拶をしてきた。


彼女――矢野夕霧さんは、高校時代の同期生だ。

成績優秀で、確か大学は留学してハーバード大学に行ったという噂もある。

そんな彼女が何故、このような中企業の印刷会社の社員として居るのだろうか。


「…夕霧さんは、確かハーバード大学を卒業されたとか……」

俺が訊ねると、

「はい。先月帰国してきました。向こうの暮らしにも大分慣れたんだけど…」

彼女は語尾を濁した。

「けど…?」

彼女は俺に背を向け、言った。

「…好きな人が、日本に残っていたから。だから帰国して、この会社に勤めたんです」


…好きな人……


俺は此方に背を向けたままの彼女に訊ねた。

「好きな人は、この会社に勤めているのですか?」

彼女は小さく頷いた。


――夕霧さんの好きな人…

夕霧さんが美少女なため、相手の人も相当な美男なんだろう。

そう考えると、心当たる人が一人居る。

「…高宮さん…ですか?」

声が震えた。

彼女はどう思ったのだろうか。

彼女は顔付きを険しくした。

「高宮…壮介さんでしたか?私が一番嫌いな人ですよ」

……え?

「高宮さんの事が嫌い?」

「はい」

…あり得ない。彼の事を嫌う人が居るなんて…


彼女は「では、また」と言い、手を振って去って行ってしまった。


雲一つ無い青空の中、俺は複雑な想いを胸に、立ち尽くしていた――




*†*




「佐々木、これは?」

「ダメです。予算オーバーですよ。…もう少しちゃんと計算してから篭に入れて下さい…」


夜8時を少し過ぎた頃――

俺たちは高宮さんの冷蔵庫の中身があまりにもお粗末だったため、スーパーで買いだめをしていた。


「じゃあ今日の夕食はシチューだけだな」

高宮さんはニンジンを手に取って、言った。

「…まぁ俺は高宮さんが作ってくださるのなら何でも良いですけど…」

俺が何気なくそう呟くと…

「………っ!!!???」

急に背中が重たくなった。

「ちょっ…、高宮さんっ!何やってるんですか!公共の場ですよ!?」

俺が静かに叫ぶと、彼は

「そう言いながらも内心嬉しがってるように見えるのは俺だけか?」

と耳元で囁いてきた。

「……っ!!」

しまった。これには返す言葉が無い。


俺が暫く無言でいると、彼はそっと俺から離れた。

「…あっ」

自然に漏れてしまった声を、彼は聞き逃すはずがない。

再び俺の傍に寄って来て、耳元で

「安心しろ。今夜は可愛がってやるから」

と、微かな笑みを含んだ声で囁いた。

「…………っ!!!」

顔を紅潮させた俺を見て、彼はただただ微笑み続けた。



「…い、いただきます」

「…ん、どうぞ」


夜9時30分を過ぎた頃――

俺と高宮さんは夕食を食べていた。

……って言っても食事もろくに喉を通れない状況なんだけど…


「佐々木、顔真っ赤だよ?何かあったのか?」

「なっ、何って…。とっ、取り敢えず口移しだけは止めて下さいっ!!」

俺は高宮さんに抱かれながら口移しで食事をしている。

高宮さんはソファーにもたれているのだが、広げた高宮さんの脚の中に俺の身体が填まっている状態だ。


「え?止めろって?…止めたら佐々木、飯食わねぇだろ?」

…ぎゃ、逆ですよ!

「止めてくれないと、まともに食事出来ませんっ」

俺は高宮さんから逃げようとする。――が、

「離れるな」

直ぐに引き戻されてしまう。

抱き寄せられ、耳元で、

「…俺の事、嫌いになったのか?」

「そっ、そんな事は…っ」

焦る俺を見て彼は、

「…ん、可愛い。あぁー、もう我慢出来ねぇ!…今から…良い?」

ソファーの上へと押し倒してきた。

「…えっ、ちょっ…。こんな所で…っ」

俺は蕪さってこようとする高宮さんを押し返し、急いで身体を起こした。

高宮さんは「仕方ないなぁ」と言って、

「よいしょ」

俺を抱き抱えた。

「えっ、ど…何処に行くんですかっ!?」

俺は彼の腕の中で暴れた。

彼は微笑み、

「寝室。…ソファーじゃ嫌なんだろ?」

即答した。

「……っ!!」

俺はその後、何も言い返せなかった。




*†*




「あっ…くふっ…や、やめっ…」

「声、漏れてるぞ」

静かな部屋に響く水音。

「もっ…ダメですっ…。高宮さんっ…あっ!」

「もう限界か?…指だけでイくのは許さねぇ。…俺のモノを挿れるまで我慢しろ」

高宮さんはそう言うと、ゆっくりと指を抜いた。

「…ふ」

思わず声が漏れた。

高宮さんはベッドの上で脱ぎ出し、モノを俺のナカに挿れる準備をした。

そして――

「…いくぞ」

低く透き通った声と共に、俺の身体に何かが入った。

「…いっ!」

……痛い。

涙を浮かべる俺に高宮さんは優しく言葉を掛けた。

「大丈夫だ。心配するな。…そのうち直ぐに気持ち良くなる」

「……っ!!」

その言葉と裏腹に痛みが増す身体に耐えきれず、俺はシーツを握り、痛みを耐え忍んだ。

「……あっ、あぁっ!!」

モノは奥へ奥へと突き進み、痛みは益々酷くなった。

「…んっ」

高宮さんも苦しそうだ。

…無理しなくて良いのに……

俺はシーツを握る手の力を強めた。

とてもじゃないけれど、この痛みには耐えきれない。

そう思い、俺は身体をひねらせ、高宮さんのモノから逃れようとした。

だが高宮さんはそれを許さない。

抵抗する俺の腰を掴み、動きを止めてきた。

「うっ…、あっ…嫌っ」

涙ぐんだ声が響く。

高宮さんは俺の腰を優しく撫で、宥めようとした。

高宮さんの指が俺の腰に触れた時、俺の身体が"びくん"と動いた。

………気持ちいい

その感情が生まれてきたのだ。

高宮さんは俺の身体の異変に気付いたらしく、

「動かすぞ」

腰の動きを早くしてきた。

「あっ…、あぁ」

自然と甘い声が漏れる。

高宮さんは、満足げに微笑み、

「大分感じてるようだな」

耳元で囁いてきた。


暫く時間が経ち、高宮さんの腰の動きが止まると、俺の意識は朦朧としてきた。

「……ふ、あ…」

高宮さんのモノが抜かれる気配。

……もっと。もっと繋がっていたかった。

けれど今の俺にはそんな事を言う気力も無く、結局何も言えないまま、無事高宮さんのモノは俺の穴から離れていった。



俺が目を覚ましたのは午前4時半あたりの頃だった。

正直、昨夜の記憶はあまり無い。

ただ、何時も以上に高宮さんの行動が優しかった事だけは、鮮明に覚えている。


「…ん」

目を擦り、身体を起こすと、高宮さんは窓辺に立っていた。

カーテンを開き、朝日が差し込む。

彼は暫く焦点の合っていないような目をしながら窓の外を見ていたが、俺の起床に気付いたらしく、此方を見て微笑んできた。

「おはよう、佐々木。よく眠れたようだな」

俺は痛む腰を押さえながら、

「おはようございます。…はい、何とか」

苦笑した。

彼はまた、目を泳がせ、何やらソワソワし出した。気になった俺は、声を掛けてみる。

「…高宮さん?さっきから落ち着きが無いようですが…。どうかしたんですか?」

彼は、ビクッと肩を震わせ、

「え…、あ、いや…」

口ごもった。

「絶対何かありましたよね?…隠し事でもしてるんですか?」

咄嗟に出た言葉がそれだった為、俺は「しまった」と思い、慌てて口を押さえた。

彼は少し無言だったが、重々しく口を開いた。

「……お前、俺に黙って彼女作ったのか?」

「…………え?」

彼の目は真剣だった。

俺にはそんな心当たりはない。

「何が言いたいんですか…?俺が好きなのは貴方だけなのに…」

「じゃあ」

俺の言葉を遮るように彼の言葉が次いだ。

「…じゃあ、これはどういう意味なんだ…?」

彼は胸ポケットから携帯を取り出し、誰から来たのかよく判らないメールを見せてきた。

携帯を手に取って見てみると、そこには――

「………っ!!!???」

「やはり知り合いか」

矢野夕霧さんと俺との2ショットが映っていた。

恐らく昨日の昼間の時の写真だろう。

……でも、一体誰がこんなもの…………

「彼女か。彼女だな?彼女なんだよな?」

高宮さんは俺の手から携帯を奪うように取り、上から冷たい目で見てきた。

「…っ、違いますっ!!誤解ですっ」

俺は高宮さんの腕にすがり付いた。

彼は少し硬直したが、

「じゃあ誰なんだ、この女は!!…少なからず、佐々木の知り合いなんだろう?」

俺の手を振り切った。

俺は遠心力に負け、そのままベッドに寝倒れる。

「あ……っ!!」

途端に腰の痛みが襲う。

「……っ、佐々木っ」

倒れた俺の上から何かが優しく包む感じがした。

……高宮さん

――と、俺の背中を何やら流れる物の気配に気付いた。

「…うっ、うっ」

「…高宮さん?」

それが高宮さんの流した涙だと気付き、俺はどうしたら良いのかが判らなくなってしまった。

「……高宮さん、泣かないで下さい。本当に誤解なんです。…彼女は高校時代の同級生で……」

俺は誤解を解くために、夕霧さんと俺の関係を洗いざらい全て話した。

高宮さんは納得したのかしてないのか、泣き止んでくれた。

「…ねぇ、笑って?」

俺が高宮さんの頭を優しく撫でると、彼の身体が小刻みに震えているのが判った。


暫くの沈黙の後、

「……明後日の為に準備してくる」

そう言って、高宮さんは奥の部屋へと入っていった。


「……明後日の準備?」

暫く意味が判らなかったが、昨日の言葉を思い出して、顔が一気に紅潮する。

そうだった!!今週末から高宮さんと同居するんだった…!!!

俺は嬉しさのあまり、今すぐに彼の元へ行きたくなった。

まず、近くに置いてあった下着を着用しようと思い、手を伸ばしたのだが…

「あぁぁぁぁっ…!!!!」

「…佐々木!!!???」

俺の叫び声に反応して、高宮さんが奥の部屋から駆けつけて来た。

「どうした、佐々木!?…痛いのか!?」

高宮さんは悶える俺の腰を優しく撫でた。

「あっ…、ダメっ」

俺はまだ裸だ。直接腰に触られると、また感じてしまう。

俺の弱々しい声を聞き、高宮さんは開けていた窓を閉じ、俺の腰に唇を近付けてきた。

「ひぁっ…!!」

身体が反応する。

高宮さんは、ふっと息を吹き掛け、

「身体は素直だな」

微笑んできた。

「うぅ………」

涙目の俺に、彼は優しく抱きついてきた。

「えっ、あっ…あのっ!!」

「少し…、充電中だから黙れ」

………まだ朝なのに。

今から出社するっていうのに。


暫くの時間が経った後――4分は経ったであろう頃、高宮さんはそっと手を離した。

「……ふ」

自然に声が漏れる。

……ちゅっ

高宮さんは俺の瞼に優しく口付けてきた。

「…………好きです」

自然に言葉が出る。

「…………知ってる」

彼は微笑む。


………幸せなんだ。俺は今、この人と一緒に居る事が出来て、本当に幸せなんだ


彼はベッドから降り、此方を振り返って言った。

「そんな状態じゃ会社なんかに行けねぇだろ。…今日は休め」

…貴方が汗を流しに行くというのに……?

「高宮さんが仕事をしているのに俺だけが此処に居るのはおかしい事じゃないですか…?」

俺は高宮さんを見上げた。彼は、う~ん、と考えた後、

「自宅でも出来るような作業はあるぞ」

と、言って分厚いファイルを投げ渡してきた。

「……っと」

それを受け取り、中を開くと大量の資料と報告書が目に飛び込んできた。

高宮さんは苦笑しながら、

「凄い量だろ?社長が今週末までに片付けておけって…」

困るよな、簡単に言う高宮さんだが、こんな大仕事を任されるなんて、やっぱり高宮さんは凄いと思った。

「…頑張ります!」

俺はファイルを胸に抱え、高宮さんに向けて言った。

彼は「悪いな」と言って、

「…じゃあ、行ってくる。…あ、朝食作れなくてごめんな…。パンと牛乳、置いておくから。…じゃあ、行ってきます」

俺に気を使いながら、上着を羽織り、玄関へと向かった。

「行ってらっしゃ…」

「…っと、忘れ物」

俺が言いかけた時、高宮さんが戻ってきた。

「……?何を忘れたんですか?」

ベッド上で訊ねる俺に、高宮さんは微笑みながら、

「とても大切な物」

と言って、ベッドに上がってきた。

……え

俺と高宮さんの距離が、どんどん縮まり、

……え、え…

「行ってきます」

再び高宮さんが言った。

「………っ!!!!」

彼の言っている意味が判った。

俺は声が少し裏返りながらも、

「…い、行ってらっしゃい」

顔を上げた。

…と、高宮さんは俺の顎を上げ、口付けてきた。

短く、何回も何回も…

「…ぷはっ」

頭がくらくらする。

高宮さんは口元を舌で舐め、俺の頭を撫でてきた。

「…ん、最高。今日一日頑張れる気がする。…大人しく待ってろよ?」

……優しい。大好きだ…。

「…気を付けて下さいね?」

俺が手を振ると、彼も手を振り返し、会社へと出社して行った。


高宮さんが外で働いてくるんだ。…俺も少しでも高宮さんの仕事を減らせるように、頑張って資料をまとめておこう…!!


俺はファイルに挟まった書類を取り出し、ベッド上でノートパソコンを開いた。

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