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ねた、ろく〜がーるずらぶ(※もどき)。

もどき、です。

十二月八日の活動報告掌編の加筆版です



「あのさぁ?」


 卒業まであと三ヶ月の十二月初旬。月末の期末考査に向けて、彼女らは自室にて試験範囲の勉学に励んでいた。

 ――お互いにそれぞれの机に向かっていたのだが、ユウがいきなり後ろを向いてケイに話しかけてきたのだ。


「何でしょうか?」


 ケイも仕方なく後ろを向く。くるりと、腰まであるふたつのおさげが踊り、一瞬だけ彼女の視界を邪魔した。ケイは邪魔だとばかりにおさげを手で後ろにやり、眼鏡をくいっとおしあげ、溜め息をつきながらユウを見た。

 腰まで滝のように見事に流れ落ちる髪は、赤銅色だ。真新しい十円玉の色。髪質は憎いまでにさらさらでまっすぐ。そして整った顔はまるでフランス人形で、瞳は上流の川の淵のような澄んだ翠色。ユウはクォーターだ。ただし、日独ハーフの日本国籍の父とヨーロッパ出身の母とのクォーター。日本よりあちらのお国の血筋の方が濃い。確かフランスかイタリアだかのヨーロッパ大陸の南欧あたりに母方の家系があるらしい。このクオリティで日本人って詐欺だろう。ほぼ外国人じゃないかとケイはいつも思う。


「おざなりと、なおざりって違うの?」


 可愛らしく小首をかしげれば、さらさらと音をたてて髪が垂れ、柑橘の甘く爽やかな香りがケイに届く。ケイの胸がどきんと強く脈打った。その感覚にケイは苛立つ。苛立ちを隠せないまま、ユウの問いに答える。


「違います。御座おざなりはその場しのぎ、その場の間に合わせ。等閑なおざりは注意を払わない様子を指します」


 ユウはこんなクオリティでも帰国子女だ。家の都合であちらで育った。だから、日常会話以外の日本語がかなり理解できていない節がある。読み書きはもう壊滅的かつお涙ちょうだいな成績である。よくこの私学に入れたもんだ。超難関なのに。


「日本語、難しい。わからないわ」


 今だって、現代国語の教科書を開いて、困ったというか今にも泣き出しそうな顔をしている。美形はそんな顔をしても綺麗なのかとケイは腹立たしくなった。

 ――館山薊花たてやまけいか、齢は十八。

 “真面目を擬人化した”と評判なな高校三年生。スカート丈はもちろん膝下、髪はもちろん黒でおさげ、チャームポイントは縁なしメガネ、極めつけは学級委員で成績はトップで寮の監督生。

 そんなケイは、本当は絵にかいたような真面目ちゃんではない。


(なんであんなに可愛いんだよあいつはぁああ! ああもう愛でてぇ、なでなでしてぇ、ぎゅってしてぇ! はぁはぁ匂い嗅ぎてぇ!)


 今だって必死に耐えてる。同室のユウの可愛さに耐えてる。悶えている。恋情に燃えている。変態である。

 ユウのちょっとした仕草、ちょっとした言動、それらひとつひとつにいちいち反応する。

 それらを堪えるために、顔が不機嫌に見えたり(ゆるむのを我慢)、眉間にしわがよったり(ふにゃけ防止)、溜め息をついたり(叫び出したくなるのをまぎらわす)。

 ユウこと、高原ユージェニアは可愛い。華奢で、背が高いのに出るとこでた女性らしい体格、髪はさらさら、お肌はつやつや。そして良い匂いがして、ふわふわで。ケイはユウの全てがいとおしい。たとえその恋情が狂っていても、変態のレッテルを押されても。

 ユウを他人の目にさらしたくない、さらしたくない。どこかに閉じ込めてしまいたい。あの綺麗な瞳に映る異性はケイだけでいい。あの声が呼ぶ異性の名前はケイだけでいい。

 今は良い。卒業して、ユウが制服を脱いだら。学生でなくなって、他の異性の前に出たら。ユウは狼の群れに放り込まれるに違いない。狼たちは可愛いユウを手に入れんと群がるだろう。

 ケイは耐えられない。今だって、腹立たしい。あの綺麗な顔をこちらだけに向かせたい。綺麗な顔が他を向くと、独占欲が高まる。あの声がケイ以外を呼べば今以上に狂いそうになる。

 でも、でも。今は、まだ。


「あ、あたしちょっと厠に!」


 ユウが突然あたふたし始めた。

 厠、トイレ。でもユウの厠は違う語句を指す。


「鏡、でしょう。鏡はトイレットではありません」


 この寮のシャワー室にある鏡を見る。それを厠という。今もそわそわしながらも、高い声をさらに高くしてパニックになりながらシャワー室に駆け込んでいった。

 バタバタ、バタン。

 騒がしく消えた同室者を見て、ケイは溜め息をついた。


「――ヅラも胸もずれてねぇっての」


 ケイは、はっきりいって口が悪い。

 乙女なのに口が悪い。だから普段は意識して敬語だ。だって、ケイは元ヤンだもの。油断したら地が出るのだ。

 ヤンは中学で卒業したのだ。明るい未来のために、お堅い職業につきたいのだ。明るい未来のために、この口調はいけない。大変よろしくない。

 それに、同室者にばれてもいけない。

 十一月という季節外れの他国からの転入生、高原ユージェニア。お人形さんのような美少女。

 けれども彼女は彼女ではない。

 ユウ――ユージンは気付いていない。彼女が彼であり、某国のさる高貴な血筋の令息だとばれていないと思ってる。

 けれどもケイは気付いている。

 彼がケイの気持ちに気付かず、ケイを自分の事情に巻き込まないために色々立ち回っていることを。

 彼は知らない。

 ケイが彼を狂うまでに慕い、彼を独り占めせんがために――お堅い職業について、彼の力になるために暗躍しているなんて。

 ケイは隠密の稼業の血筋、暗躍や情報収集は朝飯前だ。それが愛を捧げてやまない相手ならなおさら。




 二人はまだ知らない。

 実はお互いにお互いを慕い、お互いを独占したいとヤンデレているなんて。






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