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ねた、さん〜薔薇子、危険につき



 何でだろう、といつも思う。


「ちょっと、あんたうざいんですけどー」

「眼鏡の地味子がちょーしのってんじゃねーよ」


 何で、わたしが絡まれる。

 わたしは私立の女子高校に通う十八、受験生だ。だから放課後は図書館に通って勉学に励む日々だ。今日も図書館に向かう道すがら、他校生に絡まれる羽目になった。何故だ。


「……」


 無視して道を進もうなら、阻まれる。あなたらは分身の術が使える忍者か何かか。邪魔なんだが。受験生にとって時間は無駄に出来ないんだが。


「――……」


 右、阻まれる。左、阻まれる。二人しかいないのに、何でそんなに阻めるんだ。この道、そんなに狭くないんだが。


「無視してんじゃねぇよ」

 無視するさ、喧嘩と文句は買わない主義だ。

 こんなときに限って、住宅街だというのに人がいない。わたしも運が悪い。

 ああ、時間がもったいない。いい加減ロスが増加しすぎた。志望校が遠ざかるじゃないか。


「て、逃げるなよ!」


 来た道を戻り始めた私の背中に、怒声が投げられる。誰が振り向くか。いい迷惑だ。だいたい逃げるなといわれても、逃げるだろうこの状況。


「――この野郎!」


 む、何か投げてきた。あれか、右前方の電柱にぶつかって転がってるやつ。ビー玉、おはじき? 高校に通う年齢になって恥ずかしくないのか、人様に物を投げつけるなんざ最低だな。


「むかつくんだよ、ブスの癖に!」

「アキラくんから離れろよ!」


 む、アキラだと?

 誤解も甚だしい。

 ひとつ、振り向いて優しく教えてやろうではないか。人間違いだと。


「わたしは木原薔薇子ではないが。よく似ているんだが、わたしは伊原薔薇子だ。ちなみに木原薔薇子はおさげが腰までであって、わたしは胸までだ。眼鏡だって木原薔薇子は黒縁だし、わたしは銀縁だ。ちなみに木原薔薇子は一年であってわたしは三年だ、きちんと下調べをしてから絡んでくれ」


 彼女らは勘違いをしている。我が校始まって以来の性別問わずの人たらし、人ハーレムの製作者木原薔薇子。他校のイケメンやら美女やらを虜にする、天然ハーレム製作者、イケメンファンクラブの敵。木原薔薇子は目をあわせれば人をたらす、木原薔薇子が振り向けばハーレムがいる、木原薔薇子が笑えばもう戻れぬ別の世界へご招待。

 わたし、伊原薔薇子はやっこさんにそっくり、らしい。わたしと目があえば相手は石化する、わたしが振り向けば腰を抜かす、わたしが声をかければ――。


「ひいっ!」

「すみませんでしたああ!」


 人間違いだと微笑んで声をかければ……何で土下座してひれ伏すんだ。


「これで怒りをお納めを!」

「ひらにご容赦を!」


 ……何で、お菓子を差し出すんだ。まあお菓子は好きだし、お菓子に罪はないから頂くとしよう。


「伊原さま、もし田山地区にて不自由がありましたらアリーナの名前を出してください、さすれば我がグループがお力になりましょう」

「伊原さま、もし絡まれたら鈴木エリザベスの名前をお出しくださいまし、さすればあなたに危害を加えるものはいなくなるでしょう」


 ――ああ、どうしてわたしが振り向けば舎弟が増えるんだ。

 あれか、素で笑う子を泣かすこの顔か。顔か。木原薔薇子とパーツは似たり寄ったりなんだが、何でだ。



 伊原薔薇子、本日も歩けば誤解を招き、本日も振り向けば舎弟を作り、本日もいらぬ伝説を達成した。

 般若もびびる氷の冷たき無表情、それが標準装備の彼女は知らない。

 伊原薔薇子の声は麻薬である。

 聞いてしまえば、恐れたくなり、謝りたくなり、緊張から固まり、威圧感から腰を抜かす、そんな――百獣の王の声なのだと。

 そして、今日もこうして伊原薔薇子の舎弟が増えた。


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