父と母とメイラ
ライカがお昼寝中につき、
ライカ視点とはなっていません
「メイラ、ライカはどうしている?」
ライカのお昼寝の時間、父、シュバルツ・シエラ・ゴルティアと母、ミルシア・スカラ・ゴルティアが揃ってライカの部屋を訪ねていた。
「はい。少々ごねていらっしゃいましたが、先ほどお休みになられました」
「ごねた? 何かあったのか?」
現在、いい子のライカはぐっすりとお昼寝中である。ただ、眠る前にあったひとつのことは、しっかりとメイラは主であるシュバルツに伝えた。
するとシュバルツも普段ごねずに寝ることを知っているため、不思議そうな顔をして理由を問う。
「お休みになられる前に、本を読んで欲しいとのことで読んでいたのですが、途中で眠たくなられたようなのでお休みいただこうと思ったのですが、途中だから、と……」
「なるほど。だが、睡魔に勝てずに寝た、というところか?」
「いえ、起きたらまた最初から読みましょう、と提案したらお休みになられました」
「……本の続き、か。ライカは本が好きなのか」
「そのようです。最近は兄君さまの元へ向かわれないときは、よく本を読んで欲しいと来られます」
「なら、今度ライカと本屋にでも行ってきますわ。あなたはお仕事、頑張ってくださいね」
「それはずるくないか? ………ああ、それならフォルトも連れて行かないか? あの子も城へ引きこもってばかりだ」
「いいですわ。ただ、ライカが初めての外でしょう? フォルトを連れて行くのはその次でいいかしら? ……ライカが何をするかわからないですし」
「ああ、それで頼む。―――愛しているよ、ミルシア」
「私もですよ、シュバルツ様」
その中でライカのお気に入りを知ったためか、シュバルツとミルシアはライカの初めての外出を計画する。
ライカは、城から出たことがない。―――正確には、城の敷地から出たことがない。城の敷地内であれば、厩舎などには侍女と行って、動物たちと戯れたりとはしていたが、門より外は危ないからと、出たことがなかったのだ。
それをライカに伝えれば、ライカはどのような反応を返すだろうか。シュバルツとミルシアは、ライカの反応を心から楽しみにしていた。
そうして騒がしくしていたのが悪かったのか。
いつの間にかメイラはシュバルツとミルシアの元から離れており、代わりに二人のそばでは、起きたものの、二人のそばによったところでまた力尽きたらしいライカが眠っていた。
「うん? どうしてこんなところで寝ているんだ?」
「私たちの話し声がうるさかったのかしら。さ、ライカはベッドで寝ましょうね」
それを確認したミルシアは、ぐっすりと眠っているライカを抱き上げて、再びベッドへと運ぶ。だが、その途中でライカが目を覚ました。
「……かあしゃま」
「あら、起きちゃった?」
「……とうしゃま」
「まだ眠そうだね。もっとお休み?」
「ん………」
目を覚ましたライカに、シュバルツとミルシアが優しい言葉をかけて、再度寝かしつける。さっきまで寝ていたライカはまだ眠たかったらしく、それであっさりと眠りについてしまった。
だが、その際にミルシアの服をがっちりと掴んで、逃がさないようにすることはしていたが。しかも、無意識に。
「あらあらあら」
「ふふっ。離れたくないんだなぁ」
「みたいですね。………しばらく、動けないわね」
二人がそうやって話している間も、ライカはミルシアの服を離さずに気持ちよさそうに眠っている。その寝顔は、天使のようである。ライカの髪は、母譲りで銀色であるためか、その寝顔はまさしく天使のようなのだ。まあ、ミルシアたちに言わせると、寝ていなくても天使、なのだが。
そうやって二人が話していると、今の今まで二人の時間を邪魔してはならないと離れていたメイラがそばに来、現在のミルシアの状態に気づく。
「ミルシア様、その………ライカ様のお手なのですが……」
「そのままで大丈夫よ。気にしていないから」
「ですが、服が伸びてしまいませんか……?」
「それもそうね。でも、この状態のライカの手を、離せるの?」
「はい。ゆっくり一本ずつ離していけば………」
「じゃあ、お願い」
「畏まりました」
ミルシアの状態に気づいたメイラはすぐに、だがゆっくりとライカの手をミルシアの服から離していく。ゆっくりと、だがしっかりとすべての指をミルシアの服から離したときには、随分と時間が経っていた。
―――――そう、ライカがお昼寝から覚める時間になるほどに。
「かあしゃま」
「おはよう、ライカ。よく眠れた?」
「あい」
「それはよかった。ライカ、父様には何もないの?」
目を覚ましたライカはまず、起き上がってすぐにそばにいたミルシアに抱き着いた。そんなライカにミルシアがキスを落とすと、ライカもお返しとばかりにキスを返す。
ちなみに現在、シュバルツは傍観中である。だが、それでは耐えられなかったのか、口を挟んだ。
そしてシュバルツのそんな言葉を受けたライカは、まだ若干寝ぼけ眼でシュバルツの頬にキスをした。
その後の、シュバルツの反応は見事なものであった。狂喜乱舞し、ライカの顔中にキスの雨を降らせる。
さすがにそこまでキスをされるとしっかりと目が覚めたのか、ライカ自身が「とうしゃまやー!」と訴えたことによって、事態は収束することとなった。
ちなみにその後、ライカはメイラに「おかおふいて?」と可愛らしく頼み、優しく微笑んだメイラに顔をきれいに拭いてもらっていた。その際にシュバルツが悲しそうにしていたのは言うまでもない。
「ねえ、あなた? 女の子が父親のキスを受けてくれるのも、今だけですよ? その今で悲しんでいたら、あの子が結婚するとき、どうなさるんです?」
そしてそれを見ていたミルシアがシュバルツに問うと、
「ライカは嫁にはやらん! 絶対に、やらん! 政略結婚など、知るもんか!!」
と、国の第一王子としては言ってはならないであろう言葉を堂々と放ったという。
そしてこの話はメイラのほかの侍女たちの噂話となり、城中で伝わり、貴族の耳にも入ることとなった。
「殿下は、娘殿下を大層可愛がられているようだ」
という話が貴族中に広がり、第一王子の関心を得たければライカに覚えてもらえ、と言うことが貴族たちの目標となった。
「ばっかもーん! 第一王子たるものが、堂々と政略結婚を貶すでないっ!!」
そしてこの話を聞いた国王であるライカの祖父に、シュバルツは後日呼び出されて叱られていたという。
「いってぇだろうが、クソ親父! 知るか! あんなかわいい子を嫁にする奴は俺が許さん!」
「やかましい! 少し頭を冷やせ、馬鹿モンが!!」
だが反省しないシュバルツであった。
小さい子供を持つ父親って、こんな感じですかね?