メイラと私
「メイラ、ご本読んで」
「はい、どの本がいいですか?」
この日、兄に部屋を追い出されて、取り次ぎさえしてもらえなくなったため、後は部屋でメイラに本を読んでもらうこととした。字の勉強の一環だ。
と、メイラからのオッケーが来たところで、既に読んでもらおうと持っていた本をメイラに手渡す。………まあ、私が本を持っていたからメイラがいいと言ってくれた可能性も高いが。隠したくても、この小さな体じゃ隠せないからね。
「これ! このご本読んで!」
「畏まりました。では、テーブルでお茶を準備してから飲みましょうか」
「わぁい! ありがとーメイラ」
そして、メイラに抱きかかえられてテーブルの、私用の高い椅子に座らせてもらい、メイラは一言断ってお茶の準備に向かった。
少し待つと、メイラは自分には水を、私には白湯を持ってきてくれる。ちなみに私が白湯なのは、お腹を壊さないためである。
「お待たせいたしました。では、読みましょうか。…………むかしむかし、あるところに……」
ちなみに、私がチョイスした本は子供用の童話である。だって、三歳児が難しい本を持って行ったら怪しまれるでしょ? でも、イラストたくさんの童話なら、ほほえましい目で見てくれるのだ。ついでに言うと、この世界の童話は日本とはまた違って楽しい。
ちなみにメイラは、私が本を読んでほしいとねだるのは文字を覚えるためだと分かっているのか、一文字ずつ、指で字を追いながら読んでくれる。
「………すると草むらから一匹の犬が飛び出してきました」
「わんわ!!」
「そうですね、わんちゃんです。では、続きを読んでもかまいませんか?」
「あい!」
そして途中、話に犬が出てくるので、つい子供らしい犬の呼び方で言ってしまったぜ。邪魔してゴメンね、メイラ。だがメイラは優しく微笑みながら、続きを読んでくれた。
「出てきた犬は………」
そうして読んでもらっていると、少しずつうとうととし始めた。やばい、せっかく読んでもらっているんだ、寝るのは失礼だ。
だが、メイラはそんなことも気にならないらしく、持っていた本を閉じ、私を抱き上げてベッドまで運ぶ。
「ライカ様はお昼寝のお時間ですね。本は、お起きになられた後にまた読みましょう」
「や………ねない………」
今はまだ、本を読んでほしい。寝たら、この小さな子供の脳じゃ今までの話を忘れるじゃないか。そしたら、今覚えたことがすべて水の泡になる。だから、寝ないもん。
「随分と、眠たそうになさっていますよ? 今は、寝ましょう」
「ねむく、ないもん………」
だから、寝かされないためにも強がる。本当は眠たいが、とことん強がってやる!!
「……どうなさったのですか? もしや、具合がお悪いのですか……?」
と、徹底的に粘ると、今度はメイラが異常に心配そうな顔をして、私の額や首元などに触れてくる。
まあ、普段は基本的にお昼寝の時間になったらいい子に寝てるからね。ここまでごねることが珍しいからそうも思うのかもしれない。でも、大丈夫だよ? 元気だもん。
「熱は………ありませんね。大丈夫ですか? ライカ様」
「だいじょーぶだよ?」
「では、今日はどうしてお昼寝が嫌なのです?」
「だって、ご本、とちゅうだもん」
「え?」
「とちゅうだから、まだねないの……。ぜんぶ読んだら、おひるねする」
「では、ライカ様がお昼寝をした後にまた最初から読みましょう。そうすれば、途中ではありませんよ。そうしましょう」
「とちゅうじゃ、ない?」
「ええ、最初から読むのですから、途中ではありませんね。では、寝ましょうね」
「あい」
まあ、とことん心配はされたが、理由を話すと新たな提案をしてくれた。また最初から読み返すのならば、また学べる。なら無問題。
そう考えていると、一気に睡魔が襲い掛かってきた。既にベッドの上にいるけれども、まだ横にはなっていなかったので、ちょっと焦る。
「ほーら、眠たいでしょう? 今は、ゆっくりとお休みください」
その後、メイラが私の体を横にして、きっちりと毛布を掛けてくれたので、安心して睡魔に身をゆだねる。……おやすみなさーい。