僕とあれ
とことんライカを否定する兄の気持ち。
僕の名は、フォルティス・シエラ・ゴルティア。第一王子である父と、農民だった母の間に生まれた子だ。
僕は、王子の子供というだけで城に住まわせてもらっている。僕に流れる血の半分は農民だというのに、父は僕を可愛がってくれる。そして、父の正妃である義母上も、僕を邪険にはしない。それを考えると、お二人とも好きではある。
だが。だが、あれは僕の妹とは認めない。僕とあれは他人だ。たとえ父は同じかもしれないが、あれの母君は隣国の姫。僕の母は農民。それだけで、身分にかなりの差がある。
あれは、今はまだ何もわからないから僕に寄ってくるのだろう。大きくなれば、僕に近寄らなくなるはずだ。
事実、あいつを僕の部屋に連れてくる侍女は、僕をよく思っていない。城で働くのは、大体が貴族の子女だ。かつては、父の寵愛を求めていたのだろう。
だが母は、父が偶然町に視察に出た際に知り合い、城へと迎え入れられた。そして、僕が生まれた。
だが、母は僕を産まず、父に出会わない方がよかったのだろう。
母は城に来て、父の寵愛を奪ったとして、かなりの貴族の令嬢から嫌がらせを受けていたらしい。
それに、僕が正妃である義母上の子よりも早く生まれたのも、母への嫌がらせに拍車をかけたのだと思う。
義母上は、気にしないと言ってくださっていた。むしろ母に、元気な子が生まれるといい、と笑顔で言ってくださっていたらしい。
そして、僕が生まれた時も自分のことのように喜んでくださったそうだ。
―――そして、母が心労で亡くなった後は、義母として僕と接してくださった。
そんな、義母上と父上の間に生まれた子供、ライキアーナ。
僕の大切なお二人の子供。それを考えると、可愛がるべきだったのかもしれない。
でも、僕はその子と関わってはいけない。冷たい目を向けてでも、冷たい言葉を投げてでも、僕からあの子を離さなければならない。
ライキアーナ。お前は、この国の第一王子である父と、隣国の姫であった義母上の子供。正統なる、王家の姫。
そんな高貴なものが、農民の血の混ざる僕に関わろうとするな。関われば関わるだけ、お前の評判が落ちるだけだ。
お前は、将来この国を率いて行かなくてはならない。それには、僕は邪魔なんだ。
だから、関わるな。
お前は、僕を嫌う貴族たちに守られていろ。そうすればお前の身は安全だ。そうすれば、父上も、義母上も悲しまなくて済む。僕は、父上の義母上を悲しませたくない。
だからね、ライカ。僕は、お二人を悲しませないためならば鬼にでもなる。お前をいくら悲しませても、構わない。父上と義母上が笑ってくださるのならば。
――――そのためならば、僕は何にだってなる。
ライキアーナ、分かったら僕に近寄るな。僕の近くにある物は、毒が仕掛けられている物も多々ある。大半は捨てているが、たまに残っているんだ。
僕は、その毒にお前をあたらせるわけにはいかない。あの二人を悲しませるわけにはいかない。
ライキアーナ。実は僕は、お前が生まれた時、嬉しかったんだ。妹が出来た、と。でも、周りの貴族の声を聞いて、その考えは変わった。いや、根本的なことは変わっていない。でも、表面上はお前を嫌う必要があった。そうすれば、貴族たちはお前を可愛がってくれるだろう、守ってくれるだろう。僕についている貴族なんてほとんどいないから、お前の敵はほぼ無いに等しい。
無事で、いてくれライキアーナ。死ぬな。傷つくな。
―――泣くな、とは僕は言えない。何度も泣かせているから。
だからね? 泣くくらいなら、近寄るな。それが、お前のためだから。
ライキアーナ。ライカ。――――本当は、愛しているよ。
兄のライカ拒否は、ライカを想ってのことですが、
ライカは逆に傷ついているので、
ぶっちゃけ有難迷惑というものです。