兄と私Ⅱ
短いです。
あはははは。兄の態度が元通りになりました。
うん、でもこっちのほうがいい。だって、優しい兄は怖かった。咄嗟に、連れて行ってくれた侍女の背に隠れたくらいに、怖かった。
だってさ、あの兄が、笑顔で話しかけてくれるんだよ? 「どうした? ライカ」って。怖いよ!!
まあ、怪我してる間はずっと母がそばにいてくれたから、母に隠れてたけどさ。母はにこやかに見てたけどさ。
「ふふふ。大丈夫よライカ。ほら、フォルトが優しいじゃないの」
「やーなの。にーさまがやさしいのこわい」
「あらららら」
このころ、まだ薬が切れたばかりの頃とか本気で痛くて、そのたびに母に泣き付いていた。その最中に、あの無駄に優しすぎる兄だ。泣くわ、これ。
そもそも、薬が切れた時の痛みで大泣きしてる時に、優しい兄っていうのが普段と違いすぎて怖いんだよ。
「いちゃい~! いちゃいのかあしゃまぁ~!!」
「大丈夫か? もうすぐ医者が来る。それまでの我慢だ。な?」
痛みに耐えかねて号泣。そこで優しい兄、登場。
「にいしゃまこあい~!!」
結論。私、さらに号泣。
「どうしたのですか? 殿下。ひどく痛みますか?」
それはそれは、痛み止めの処方に来た医者を困らせるほどに。
「殿下、お薬ですよ。飲んだら痛くなくなりますから」
「あい………」
「はい、口を開けてください」
「あむっ」
その後、医者の処方してくれた薬を飲み、またベッドに横にされる。ちなみにその時も兄が優しすぎて怖かった。
だって、兄が手を貸してくれたんだよ? 兄の手を借りて横になったんだよ? 怖い。つい、横になった瞬間に反対側にいた母に、母の腕にしがみついたよ。
「大丈夫よ、ライカ。ほら、フォルトもライカを心配してるんだからね」
「でも、やさしーにいさまこあいのぅ」
「怖くないじゃない。優しいんだから」
「こあいー!!」
ぴぎゃーん! 再び、涙腺決壊。
「落ち着いて、ライカ」
完全に涙腺が決壊するとすぐに、母が私を抱き上げてくれた。ええい、母の胸に顔をうずめて泣いてやる!
「どうしてそんなに泣くんだ、お前は。泣くな」
「かあしゃま~」
兄が怖い!!
「大丈夫よ、ね?」
大丈夫じゃない! 超怖い!!
その結果が、大号泣なわけだが。
「ふええ~ん、こあいのぉぅ!」
「ほら、泣かないの。大丈夫よ、お母様もいるからね」
「かあしゃま~!」
「だから、泣きやみなさい。泣いてたら、痛いでしょ」
「いちゃいー。でも、こあい~」
そうやってぎゃんぎゃん泣き叫び、泣き叫びに泣き叫び続けて、ようやく私は泣き止んだ。というか、泣き疲れて軽く噎せた。おかげでかなり母に心配されたよ。
「大丈夫? 医者を呼んで、診てもらいましょうか」
と、母が本気で言いだすほどに。
「だいじょぶ。ライカ、へーき」
「無理しなくていいのよ? 診てもらいましょ」
「へーき」
「誰か、医者を呼んでちょうだい」
…………母。大丈夫だって言ってるのに、平気だって言ってるのになぜに呼ぶ。でも、心配をかけたのは私だから渋々ではあるが、受け入れることにした。ゴメン、医者。
事実、呼ばれた医者は何かあったのかと、かなり大急ぎで来てくれたらしく、息切れしていた。
「王子妃殿下、ライキアーナ殿下に何か……?」
「さっき、たくさん泣いて噎せちゃって。大丈夫か心配になったから、診てもらえないかと思って……」
「そう言うことですか。大丈夫だと思いますが、一応診ておきましょう。失礼いたします、ライキアーナ殿下」
その後、目を見られたり首元に触れられたりなどして、結局問題なしで診察が終わった。ちなみに、その間兄はそばでちょこちょこと優しい言葉をかけてくれていた。…………怖い。
その恐怖のせいで、ようやく引っ込んだ涙がまた出てきそうになる。………そして、それを見かねた母が兄を部屋へと戻した。
いなくなると寂しい。でも、いると怖い。ううむ、どちらがいいか。
「しっかり休んで、早く怪我を治せ」
いなくなる寸前、兄はそう言っていた。それがさらに怖い。今まで兄に優しい言葉をかけてもらったことなんてなかったから、今の兄に違和感が濃くて、怖いんだよ。
そんな兄は、私の怪我が治り、怖いから今までどおり接してほしいとお願いするまで続いた。
まあ、その結果と言うか何というか。
「部屋へ戻れ」
やっぱりそうなりますよねー。
でも、これぞ兄。あはは、お互い笑っちゃってたよ。
これで、いつも通りだ。