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兄が私を認めるまで  作者: 神埼未来
四歳児編
25/28

視察と僕

前話、視察と私 のフォルト視点。

話が被る部分もありますので、気になる方はスルーしてください。


 この日、僕は父上たちと視察へ行くことになった。

 ……が、なぜにあいつまで? 危ないと思わないのだろうか、陛下も父上も。

 だが、一応危険は考えていらっしゃるらしく、僕とあれとそれぞれに、互いから離れないようにと命が下る。

 ………子供と言うものは、本能に任せて適当に動き回る。つまり、あいつのあの元気な返事は頼りにならない。

 ―――――僕が、あいつから目を離さないようにしなくては! あいつを危険な目に遭わせないようにしなくては!



 …………と思っていたのに、どうしてあいつを見失うんだ、僕は! くそう、僕の馬鹿馬鹿馬鹿っ!!


「父上、僕も探しに行ってきます!」

「あ、こら待てフォルト。騎士を連れて行きなさい!!」


 すみません、父上。それを待っていられません。この間にも、あいつは迷子なんだから不安なはずなんです! だから僕は、待てません!


「あ、こら! くそう、騎士! 早く追いかけろぉっ!」

「は、はいっ!」


 くそう、くそう、くそう! どこにいるんだ、あいつは! 早く探さなくちゃ。早く、見つけなくちゃ。―――早く、あいつに安心をあげなくちゃ。

 必死に駆け回る。あいつが、小さな子供が興味を持ちそうな場所を。ただひたすらに、走り続けていた。


「フォルト様! あちらを!!」


 そうやってしばらく走っていると、騎士が一人、慌ててそう告げる。その方を見ると、あいつが何者かに連れ去られそうになっている。ちくしょう、あいつからその汚れた手を離せ!!

 ちくしょう、遠目だったせいで、今走って行っても時間が………って、何をあいつの頬をはたいとるかっ! コロス! あいつコロス!!


「ライカ!!」


 騎士ども、あいつを頼むぞ!! おいっ、大丈夫か? おい!

 ちくしょう、頼むから目を覚ましてくれ。頼む、頼むから!!


「フォルティス殿下。ライキアーナ殿下は頭を打たれているようです。揺らしてはなりません。今、医者を呼びました」

「こいつは、大丈夫なのかっ!?」

「分かりません。フォルティス殿下は、ライキアーナ殿下の傷を抑えて、止血をお願いします。大丈夫です、頭は出血しやすい場所なのです。血の量に怯まないでください」

「あ、ああ。どこを抑えればいい? どこを抑えれば、血が止まる?」

「ここ、です。この部分を抑えていてください。ハンカチが血を吸い込まなくなったら、取り換えず、上から新しいものを当ててください」

「わかった」


 騎士の、その言葉に少し冷静になる。そうだ、今僕ができることは、こいつの流している血を止めるくらいだ。傷口を清潔なハンカチを取り出してそれで抑える。だが、こいつの流す血はなかなか止まらない。

 ハンカチが血で完全に染まるたびに、騎士たちからもハンカチを借りて、抑えていく。


「フォルティス殿下! シュバルツ殿下と、医者がいらっしゃいました」

「父上! ライカが!」

「聞いている。フォルト、ライカから離れなさい。診察の邪魔になる」

「は、はい………」


 それをしばらく続けていると、父上と医者が揃ってやって来、父から離れるよう命が下ったので、大人しく離れた。すぐに、やってきた医者があいつを診る。

 医者、あいつは大丈夫なのか? たくさん血が出ていたぞ。ちゃんと、生きているんだよな!?


「落ち着け、フォルト。ライカは大丈夫だ」

「ですが……」

「大丈夫だ。ぱっと見た感じ、きちんと呼吸もしている。頭はどうしても出血が多くなるから驚くが、きっと、大丈夫だ」

「は……い………」

「ひとまず、止血剤を塗りました。ここではこれ以上はできませんので、病院へ運びましょう」

「分かった。ライカは俺が運ぼう」


 不安を隠しきれなかったのか、父上が僕の頭に手を置き、安心させるようにそう告げる。すると、取り急ぎの処置が終わったらしく、父があいつを抱き上げた。


「フォルト、お前は城に………」

「戻りません!」

「フォルト」

「戻りません! あいつがこんな怪我をしたのは、僕が悪いんです! だから僕は……せめてそばに………いたいんです」

「……………分かった。だが、邪魔はしないように」

「分かりました!」


 それと同時に僕には城へ帰るよう命が下るが、申し訳ありませんが、拒否します。僕は、今はあいつのそばにいたい。夢の中でくらい、あいつに謝りたいんだ。

 ライカ。ライカ。ライカ。僕が悪かった。僕がいけなかったんだ。死ぬな。頼むから。


 あいつを病院へ運び、父上は医者と共に処置室へと入るが、僕は一人待たされる。大丈夫なんだよな、あいつは。くそう、一人で待たされるのがここまで悔しいなんて―――



「フォルト、城へ戻ろう」

「父上! だいじょうぶ……なのですか?」

「ああ。城へ戻って、寝かしておこう。大丈夫だ、薬も出してもらっている。戻ろう」

「はい……」


 父上が戻ってくると、その腕の中には、頬に湿布を貼られ、頭には包帯が巻かれているあいつがいる。その見た目が既に、非常に痛々しい。

 僕が………僕が目を離したせいで、こんな痛い思いをさせてしまった。怖い思いをさせてしまった。城へ戻ったら、この件をしっかりと陛下に報告し、罰を受けなくては。そうでもしなければ、こいつに悪すぎる。

 馬車の中で、父上に抱かれたまま眠るあいつを見ながら、決心した。もっと強くなる。人の気配を読めるような人間になる。そうすれば、突然いなくなっても、分かるはずだ。


 城へ戻ると、義母上が入り口で待っており、父上が馬車から降りると同時に父上に抱かれたあいつへ向かう。

 その後、みんなであいつの部屋へ向かい、あいつをベッドに寝かす。だが、あいつは全く目を覚まさない。本当に大丈夫なのかと疑いたいほどに、目を覚まさない。


「父上………」

「大丈夫だ。大丈夫だよ、フォルト」

「しかし………」

「大丈夫だ。それに、お前は悪くない。自分を責めるなよ?」

「しかし……僕が目を離したから……」

「お前は悪くないよ。ライカくらいの年の子は、どうしても興味のある方へ行ってしまうからね」

「だからこそ……僕が、見ていなければならなかったのにっ!」


 守らなくちゃいけなかったのに。僕が。僕の方が年上なんだから、きちんと守らなくちゃいけなかった。



「フォルト、もう部屋に戻って寝なさい。何かあったら、すぐに知らせるから」


 夜も更ける。あいつは、まだ目を覚まさない。ずっとついていたいが、さすがに夜も遅くなったため、父上から寝るように命が下る。だが、僕は。僕はまだあいつについていたい。


「何かあったらすぐに人を遣るから。だから、お前は寝なさい。睡眠不足は成長に悪い」

「はい………」


 だが、やはり僕は父上の言葉には逆らえない。そのため、重い足取りで部屋へ戻り、着替えてベッドに横になった。

 それでもやはり、なかなか寝付けない。寝ようとすると毎回、あいつが苦しそうにしている。

 ゴメン。ゴメンなライカ。僕が、きちんと見ていなかったから。

 ――――あいつを思い、ぽろぽろと涙を流しながら、眠りに落ちた。


 翌朝。いつも以上に味気なく感じる朝食を取っていると、侍女が、あいつが目を覚ましたと知らせてくれる。

 すぐに、行かなくては。この目で、きちんと確認を――――


「フォルト様。食事はゆっくり、しっかり噛んで食べてくださいね」


 急いで食べていたら、小さい頃から僕についてくれている侍女に窘められた。


 そして、しっかりと噛んで食べて、その後すぐにあいつの部屋へと向かう。


「失礼します、父上! あいつが目を覚ましたと……っ」

「にーさま」


 早歩きであいつの部屋へ行き、扉を開くとそこでは、扉の開いた音に反応したあいつが、こちらを見ていた。

 ああ。ああ! ちゃんと目を覚ましている。よかった、本当によかった。


「ごめんなさい、にーさま」


 なあ、何故謝る? 悪いのは僕なのに。ゴメン。ゴメンな。――――ゴメン。


「にーさまわるくないの。ライカがわるいの」

「だから、違うんだ。今回の件、悪いのは僕なんだよ」

「ちがうのー。にいさまわるくないのー」

「違うってば。僕は、小さい子供がどういう行動をとるか、ちゃんと分かっていたはずなんだ。それなのに……」

「ちがうの。ライカがわるいの」

「違う。僕が悪い! そうでしょう、父上、義母上!?」

「………あー、二人とも、悪いということでいいんじゃないか?」


 あーもう! どうしてそんなに自分を責めるんだ、お前は。お前はまだ小さいんだから、悪くないんだよ!

 だが、父上に尋ねると、二人とも悪いという返事が返ってきた。父上! 僕が悪いんです!


「フォルトは、ライカから目を離したのは悪かったし、フォルトから離れないという約束を破ったライカも悪い。そういうことだろう?」

「しかし、その約束はこいつのような小さい子なら、守ろうにも無理なものでしょう。だからこそ、目を離してしまった僕が悪いんです!」

「フォルト、お前は自分を責めすぎだ。お爺様にも、昨日そう報告していたな?」

「はい。だって、僕が悪いですから」


 だからこそ、僕は昨日あいつの様子を見に来た陛下に、自分が悪いのだとそう報告した。


「フォルト、お前は自分を責めすぎだ。だが、お前の気持ちも考えて処断する」


 その際、陛下からはそのような言葉が返ってきたので、陛下だから厳しい罰を下さるだろう。

 そう思っていると、あいつはとことん自分が悪いことにしたいのか、陛下を呼んで陛下にお伝えするとまで言いだし、実際に妃殿下がいらっしゃる。


「本当に、兄弟だよお前たちは………」


 その際、父上が小さく呟いていたその言葉は、故意に聞かなかったことにした。



 その後、妃殿下からあいつに絶対安静の命が下るが、あいつは本気で嫌がっていた。まったく、仕方ない。


「僕も………、たまになら遊びに来る」


 だから、安静にしていろ。安静にして、早く怪我を治せ。


「あいっ!」


 まったく、返事だけは本当にいいんだから、こいつは。



 ちなみに、この件で僕に下った罰は、一週間、あいつの部屋へと行くこと。それ以外、部屋から出ないことだった。陛下、罰が甘すぎませんか? もう少し厳しくしないと示しがつかないとも思うのですが。

 まあ、どこまで反論しても、陛下の僕への罰はそれにしかならないので、諦めた。


「にいしゃま、だいすきっ!」


 そして、罰のせいでさらにあいつに懐かれたのはちょっと想定外だった。

 だが、冷たい態度はとれない。あいつのあの傷は、僕が原因だから。だからね、ライカ。僕はできるだけお前に優しく接しよう。

 お前に害が出ない程度に、優しく。ただ、僕はそう言うのが下手だ。その時は、今まで以上にひどい対応をするかもしれない。

 できれば、それで離れてくれ。危険に、足を踏み入れるな。




 ―――これ以上、怪我などをしないでくれ。頼むから。



「やさしいにいさま、こあいでしゅ」


 だが、僕のそんな気持ちは、あいつのその言葉で霧散した。

 そうかそうか、お前は今までの僕の方がいいか。冷たい僕の方がいいか。なら、今までどおり対応してやろう。

 だから、ね?


「帰れ」


 部屋へ戻ってろ。


そして兄の態度は軟化はするものの、

やはり冷たいままとなる。


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