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兄が私を認めるまで  作者: 神埼未来
四歳児編
24/28

視察と私

考えるのに相当の時間がかかりました。

気に食わないと思ったら、

こっそり改稿してるかもしれません。


 今日の私の任務。それは、王都の隣の町の視察―――についていくことである。視察の主は父と兄で、私は参考までに見ておいで、と祖父から優しいお言葉を頂戴した。

 但し、もちろん条件付きだ。


「ライカ、いいか? 絶っ対に、フォルトから離れるんじゃないぞ。フォルトも、ライカから離れるなよ」

「あい!」

「分かりました」


 うん、父じゃなく兄って辺りが祖父らしい。でも、大丈夫だよ祖父。ちゃんとべったり引っ付いてます。






 ―――とか呑気に思っていた時期がありました。

 現在、(ワタクシ)迷子中です。子供の本能をバカにしちゃいけなかったよ。本能には抗えず、ついつい兄から離れちゃってたよ。

 うーん、どこにいるのか、兄。兄を探さねば。ひとまず、さっきまでいた場所を探さなくては。

 ここまで、どうやって来たっけ。ここに来るまでの道を探さなくては。

 迷子の時の鉄則は、基本的には動かないことだけれども、今はもうちょっと人通りの多いところに行かないと、見つけてもらえなさそうだ。

 と言うわけで、適当におそらくこっちから来たであろう道の方を向いて、しゅっぱーつ!


「お嬢ちゃん、どうしたんだい?」


 しようと思ったら、偶然そこを通りかかった人に声をかけられた。………が、なんか怖い。目が危ない。


「ど……どうもしてない、です」

「ああ、分かった。迷子だろう。おじさんが親御さんを探してあげようか」

「いーです。だいじょーぶです」

「遠慮しなくていいさ。ほら、行こう」


 ので、必死に逃げようとしたのだが、腕を掴まれた。……キモチワルイ。


「や! はなして!!」

「離して、はないだろう。ほら、とっとと歩け。イーとこに連れてってやるからよ」


 やだ、やだ、やだ。笑ってるけど、その笑みがなんか下卑てる。怖いよぅ。


「やだ! はなして!!」

「……チッ。うるせえガキだ。しばらく寝てろ」


 必死に逃げようとしていると、私の手をガッツリと握るその男が、そう冷たく告げて私の意識を刈ろうとするが、咄嗟に逃げた。


「この………ガキが! 大人しくしてろってんだよ!!」


 そうやって逃げたのが悪かったのか、その男が完全に切れた。

 今、冷静に振りかぶられたその手が見ていられる。もうじき、私に振り下ろされるであろう、その手を。





 ――――――そして、頬に衝撃が走り、私の体は横に吹っ飛んだ。

 そして吹っ飛ぶと同時に、頭に衝撃が走る。……ああ、頭をぶつけたのか。……意識が、薄くなっていく。

 ゆっくりと痛む頭に手を伸ばすと、ぬるりとした感触が伝わり、それと同時に、私の意識は完全に闇の中へと沈んでいった。



 次に目が覚めたとき、私は城に戻ってきていた。城の自分の部屋のベッドに寝かされ、そのそばには父と母がいた。


「目が覚めたのね、ライカ」

「か……さま………」

「怪我はどう? 痛くない?」


 そんな両親の方を見ると、二人はすぐに反応し、心配そうにこちらを見る。………ああ、そう言えば頬をぶたれて、頭はぶつけたんだっけ。………自覚したら痛い。


「あたま…………いたいのぅ……」

「すぐに医者を呼ぼうね。それまでは我慢してくれ」


 その痛みに耐えかねて、半泣き状態で父たちに訴えると、父たちはすぐに医者を呼んでくれた。

 その医者が出してくれた薬を飲んでようやく、だいぶ痛みが引いた。が、薬苦い。

 そういえば、兄はどうしているんだろ。部屋にいるのかな。謝らなきゃ。私が勝手にどこかに行って、祖父との約束破っちゃったから、きっと兄は叱られたはずだ。だから、謝らなくちゃ。


「とーさま、にーさまは?」

「フォルトは部屋で休ませているよ。フォルトもついていたいと言ったが、夜も遅くなった頃に部屋に戻らせた」

「よる?」


 あれ? 何言っちゃってるの、父。明るいよ? 今、お昼とか夕方じゃないの?


「ライカ、お前は昨日襲われてから、ずっと眠ってたんだ。今は、翌日の朝だよ」

「あさ?」

「そうだ、朝だ」


 ……………え? 朝、ですと? つまりなんだ。私は昨日あの変なのに頬をはたかれた後に、頭をぶつけてそのまま寝こけてたということですか。びっくりだ。

 そう思いつつ、はたかれた頬に手を伸ばす。………うん、腫れたりもしてない。冷やしてくれたんだろうなぁ。でも、さすがに頭の傷は一日では治らなかったわけだ。

 その結果、ここで寝かされてたってことか。


「失礼します、父上! あいつが目を覚ましたと……っ」


 そんなことを考えていると、突然部屋の扉が開かれた。あ、兄だ。


「にーさま」

「………よか、った。ちゃんと目が覚めたんだな。―――悪かった、僕が離れたせいで………」

「ちがうのー。ごめんなさい。にーさま」

「違う、僕が悪かったんだよ。子供が本能の赴くままに動くことを忘れていた僕が悪かった。痛いだろう? ゴメン」

「ちがうのー。ライカが、にいさまからはなれたのがわるかったの」

「違う。僕は、子供がどんなものか、分かってたはずなんだ。それなのに………」


 うん、何だろうねこの謝り合戦。私は、今回の件は私が悪かったんだけど。兄は悪くないぞ?


「にーさまわるくないの! わるいのはライカなの!」

「違う! 小さいお前は悪くないんだ。僕の方が年上なんだから、僕の方が悪いんだよ!」

「ちーがーうーのっ!」

「だから、僕の方が悪いんだ! そうでしょう? 父上、義母上」

「あ…………あー、何というか、二人とも悪いな、うん」


 おいこら父!! そんな半端な回答すんな! 私が悪いの!!


「とーさま! ライカがわるいの、にーさまわるくないの!」

「あ、ああ分かった分かった。だからほら、寝ていなさい。無理をすると傷が開く」

「にーさまわるくないもん! ………! じーさまにも言わなきゃ!」


 そうだ! 祖父にも私が悪いんだから、兄を怒らないでくれと言いに行かなくては!!


「分かった分かった。分かったから! 頼むから大人しく寝ててくれ」

「や! じーさまにも言わなきゃ!」


 だから父! 無理やり寝かしつけようとすんな! 祖父に言いに行くのだ!!


「―――――――――――――ライカ?」


 だが、そんな私の暴走を止めたのは、母だった。静かに私の名を呼ばれたその瞬間、恐怖で私の体が硬直した。そしてそれを狙ったのか、母がそのまま私をベッドに横にし、そのまま押し付けた。げ、体起こせない。

 それでもまだ祖父に訴えに行きたいので、とにかく体を起こそうとしているのだが起こせない。さすがに母の力に、幼児の力では勝てないか。


「じーさまとおはなししたいのー! にーさまわるくないのー!」

「ああ、安心しろ。僕が悪いということで、陛下には報告している。お前が重ねて報告する必要はない」

「ちーがうのー! ライカがわるいの、にーさまわるくないもん!」


 でも、祖父に訴えるのは忘れないよ。兄が既に訴えた後だろうが何だろうが、私が悪いんだからそれを自分で言うんだ! ついでに、心配をかけたはずだから謝りたいのだ。

 ……………って、あ。そう言えば、父と母にはまだ謝ってなかったよ。兄には謝ってたけど。

 だから、忘れる前に謝らなくては。


「とうさま。かあさま。あのね、しんぱいかけて、ごめんなさい」

「ああ、本当に心配したよ。でも、無事で本当によかった」

「そうね。ライカがこうやって目を覚まして、ここにいる。それで、母様はいいわ」

「あのね、だからね? じーさまとばーさまにもね、ごめんなさいって言いたいの」


 私が言うと、父と母は、横になっている私をギュッと抱きしめた。


「分かった。お爺様は仕事中だから今はまだ無理だろうけれど、お婆様なら来れるだろう。呼んで来ような」

「あい」


 うん、呼んでください。よく考えれば、祖母と会う機会もあまりないのですよ。忙しいらしいんですよ。だから、会えるのは歓迎なのです。



「ライカ!」


 そうしてベッドに横にされたまま待っていると、焦った祖母が現れた。


「ばあさま! あのね、しんぱいかけてね、ごめんなさい」

「よかった………、よかったライカ………」


 そしてギュッと抱きしめられる。あったかー、きもちいー。


「ごめんなさい、ばーさま。ライカ、だいじょーぶ」

「痛くない? ……いえ、痛いでしょう。可哀想に」

「だいじょーぶだよ。いたくないよ」


 うん、今はさっき薬飲んだから痛くないの。平気だよ、祖母。元気だから。

 だからさ、泣かないで祖母。私、平気だって。だから。だからさ。


「ばーしゃま、なかないでー」

「あ、ああ。ごめんなさいね、ライカ。すぐに泣き止むからね」


 目を潤ませながら祖母に泣かないでと懇願すると、祖母は一度謝り、すぐに涙を拭いて笑ってくれた。


「ライカ、怪我が治るまでは安静にしていてね。余計な心配をかけないでね? お願いよ?」

「あんせー?」

「そう。おとなしく、ベッドで寝ていてね」

「たいくつ」

「退屈でも、寝てなさい。寝てないと、ずっと痛いわよ?」


 でも、その後に告げられた言葉はちょっとひどいぞ。怪我が治るまで寝っぱなしって、退屈じゃんか。

 だがやはり、返ってくる言葉はさらにひどかった。きゃうん!


「ライカ? 怪我をしたときは安静にしていなきゃいけないの。分かる? 分かってね」

「でも、たいくつだよー?」

「ライカ。お婆様を困らせちゃいけません。怪我がよくなるまでは、お母様がずっとそばにいて、本を読んであげるからね」

「………僕も、たまに遊びに来る」


 なにぃ!? なら、返す言葉は決まってる。


「あいっ!!」


 母がいてくれる上に、兄も遊びに来てくれるのならば大人しく部屋で寝ていますとも!!


「いい子ね。お婆様、素直ないい子は大好きよ」

「ライカもばあさまだいすき!」


 えへへへへー。うふふふふー。



 ちなみに、私の怪我は二週間ほどすれば、完全に治ったのだが、場所が場所で頭だったため、それから数日間ベッドに拘束された。大事をとってと言うが、もう大丈夫なんだけどなぁ。


 そして、それからまた三日後、ようやくベッドから解放されて、また、私から兄の部屋へと遊びに行く日々となっている。

 が、兄。罪悪感かなりあるね? 私が行っても大した抵抗なくなった。嬉しいって言えば嬉しいけど、なんか悲しい。

 兄、今回の件は悪かったのは私です。兄じゃないぞ。だから、いつも通り接してください。


 優しい兄、怖い。



優しく接して怖がられる兄も哀れと言うか何というか……


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