父と私
父と私、と言うサブタイを付けつつも、
実質は母と私、かもしれません。
「ライカ、今日は母様と父様の訓練の様子を見に来ないかい?」
父にプレゼントを渡した翌日、さっそくその手袋を使ってくれる予定なのか、人伝いに父からそんなお誘いが入る。ちなみに、もちろん見に行くと伝えてもらいました。だって、見てみたかったのさ。
「見学はお昼からですね。お昼前にミルシア様がいらっしゃられ、お昼をご一緒されてから見学だそうですよ」
「かあさまとごはん!? やったあ!」
「さあ、今日はお昼寝までにいろいろと運動しますからね。朝のうちに少しお休みくださいませ」
「ねむくないよ?」
「ですが、ここで寝ていないと、王子殿下の訓練途中に寝てしまいますよ」
「…………ねる」
父の訓練途中に寝たくないので、大人しく午前のうちは寝ておこう。と言うわけで、一度着替えさせてもらったのだが再び寝巻に着替えさせてもらい、ベッドに入る。
「子守唄を歌いましょうか」
「あい!」
そして、侍女の子守唄を聞きながら、のんびりと眠りへと落ちた。
「ライカ。ほら、起きなさい。お昼よ」
それからぐっすりと眠って、ぼんやりと意識が覚醒しはじめたころ、母のそんな声で完全に意識が覚醒した。
「かあしゃま!」
「おはよう、ライカ。よく眠れたみたいね」
「あい」
「じゃあ、お昼を食べたらお父様の訓練を見に行きましょうね。……今日は、フォルトもいるらしいわ」
「にいさまも!?」
「ええ。フォルトもきっと、ライカがプレゼントした手袋を使ってくれるわ。楽しみね」
何と! 兄もその訓練に参加するとな!? 楽しみすぎじゃまいか!
「さ、食べましょうか。しっかり食べて、たくさんお父様たちを応援しましょうね」
「あい!」
あぐあぐあぐ、んぐんぐんぐ。頑張って咀嚼しつつ、飲み込んでいく。時折こぼしつつ、口の周りについたものを拭ってもらいつつ。
とにかく、ゆっくり、しっかり噛んで飲み込むようにして食べる。噛まないと喉に詰まるし、消化に良くない。
「ごちそうさまでした」
そして満腹一歩手前までおいしくいただいて、ご馳走様。今日のご飯もおいしかったです。
「さ、お茶を飲んで少し休んだら、訓練を見に行きましょうね。お父様がきっと首を長くして待ってるわ」
「あい!」
うん、それは賛成。………とは言っても、今の私じゃまだお茶が苦くて、白湯なんだけどさ。まだ普通の水とか冷たいのじゃ、お腹を壊すかもしれないということで飲ませてもらえない。冷たい食べ物は、デザートにたまーにちょっとだけでるけど。
そしてやはり私の前に置かれたカップに入っているのは、白湯だった。…………と思ったら果実水だった。おいしい。
「ライカ様の飲み物は、ライカ様のお好きなリュナーの果実を絞ったものを水で薄めたものです。味がさっぱりして、飲みやすいと思いますよ」
「うん、おいしい!」
そして、おいしくお茶も頂戴した後、母と共に訓練場へと向かう。
…………………………兄、かっこいい!!
「まあ、いいタイミングだったわね。ほらライカ、フォルトが訓練中よ」
「あい! にいさまかっこいい!」
「そうね。……あ、ほら。ライカがプレゼントした手袋、使ってるわ」
「え? あ、ホントだ! かあさま、もうちょっと近くで見たい!」
「それはダーメ。これ以上近づいたら、弾かれた剣が飛んでくるかもしれないでしょ。訓練用の剣とは言っても、あたるとかなり痛いのよ?」
あー、それもそうか。でも、ここからじゃ遠くてあまりよく見えないんだよね。さて、どうしよう。
「王子妃殿下、我々がお守りいたしますので、もう少し側へ行っても大丈夫ですよ」
「ですって、ライカ。よかったわね」
「あい! ありがとー」
そうしていると、騎士の一人がそう告げて私と母を前のほうへと連れて行ってくれる。これでよく兄が見える。
「にーさまがんばれー!」
「ん? …………って、何でそんなところに!! ……義母上まで……」
「殿下の訓練の様子を見に来たのよ。フォルト、あなたも訓練をしていたから、ちょうどよかったわ。ライカったら、かっこいいかっこいいって、ベタ誉めだったわ」
「………義母上。お願いですから、これ以上あれを騒がせないでください。集中できないんです」
「まあ。ふふ、分かったわ。でも、ライカったら可愛いから、ついライカの可愛さに夢中で忘れるかもしれないわ」
「………………できるだけ、お願いします」
だが、騒ぎすぎたようだ。兄が文句を言いに来た。でも兄、兄がかっこよすぎるのが悪い! 兄がかっこいいからつい、騒いじゃうんだよ。
………あ、ところで父はまだ? 父のかっこいい姿もみたいなぁ。
「かーさま、とうさまはまぁだ?」
「あ、ほら。お父様があっちにいるわ。ほら、ライカに手を振ってる。ライカもお父様に手を振ってあげなさいな」
「あい!」
言われてみた先には、確かに父がいた。嬉しそうにこちらに手を振っている。父―! 頑張れー! という意味を込めてこちらからも手を振る。
「ラーイカー! 今から父様がするからねー! 帰るなよー!」
父はそう言いながら、私たちがプレゼントした手袋をはめたその手をぶんぶんと振る。
「とーさま、がんばれー!」
なのでこちらも、大きな声でそう言って、思い切り手を振った。
父の活躍は、素晴らしかったです。騎士数人がかりで父に挑んでいったんだけど、あっという間に父が挑んでいった騎士たちを倒してた。まさにあっという間。
ちなみに、兄もその騎士たちに交じって父に挑んでいたのだが、いとも簡単に負けていた。父、どれだけ強いんだ。
でも父曰く、兄もその年にしては強い部類に入るらしい。兄、かっけえ!
「ライカ、今日は父様目いっぱい頑張ったから、ご褒美にキスが欲しいな」
まあ、父も確かにかっこよかったので、その日の夜、寝る前にちょっと顔を出しに来た父がそう言った際、その頬に願いどおりキスしてやった。
するとまあ、何というか。私がやった以上のキスが父から返ってきた。いつものことながら、愛情表現が過激。
そう思いつつ、疲れ切った体に襲い掛かる睡魔に、抗うことなくあっさりと眠りに落ちて行った。
今日の感想。父と兄、かっけえ。
GW中にじわじわと書き溜めたストックが尽きました。
次からは書きあがり次第投稿します。