サーリーの日記
番外編。
サーリーとライカが遊んだ際のサーリーの日記
きょう、おうちをでた。
おうまさんおおきい。
たいようぽかぽか。
きょう、そらからおみずがおちてきた。
おうまさんぬれた。さむそう。
きょう、あたたかい。
おうまさんきもちよさそう。
きょう、いいてんき。
おはながたくさんさいてるところでごはん。おいしい。
きょう、おしろについた。
いっぱいねた。
ライカにあった。あそべなかった。
ちょこっとないた。
*****
「何を見ているんだ?」
国境沿いの砦の近くにある、小さすぎず大きくもない屋敷の中で、一人の女性がくすくすと笑いながら何かを見ていた。それを見た、夫である青年が静かに近寄り、尋ねる。
「あら、あなた」
「何を見ているんだ? 随分楽しそうじゃないか」
「先日、王都へ行ったでしょう? その間、時間があるからあの子に日記を書かせてみたの。最近、少しずつ文字も覚えて来ていたから、練習にね」
「へえ。俺にも見せてくれ」
「いいわ、一緒に見ましょ」
彼女―――レイアが見ていたのは、先日一緒に王都に行った可愛い娘、サーリーに書かせた日記だった。
三歳児らしく、ミミズののたくったような字ではあるが、それでも読めなくはない。それどころか、彼女たちからすれば十分な成長を感じられるモノ。
そして、ここからはその日記の閲覧者が増える。ジルヴァル・ロイ・スタローン。スタローン伯爵家の二男にして、この国境沿いにあるナミス砦を守るナミス騎士団の団長である。
普段は国境沿いの砦を守る騎士団の団長らしく、部下に厳しく自分により厳しい素晴らしい団長ではあるが、娘のことに関しては、それは適用されなかった。
「何々………?」
*****
きょう、ライカとあそんだ。
おはなでかんむりをつくった。まけた。くやしい。
ライカのはきれいだった。
つぎはかつ。
*****
「花の冠か。俺もサーリーの作ったものが見たかった」
「さすがに無理よ。王都からここまで帰って来るまでに枯れちゃうじゃない」
「うむ。……では、そのうちこの辺の花で………」
「今のサーリーのブームは、読書よ」
「……………」
「さ、次を読みましょうか」
*****
きょう、ライカとほんをよんだ。
メイラによんでもらった。
ライカもときどきよんでた。
サーリーはまだよめない。
サーリーもほんいっぱいよむ。
*****
「ほう。さすがはライキアーナ殿下。賢くていらっしゃる」
「ライカ様ですもの。でも、そのおかげでサーリーもやる気を出してくれたわ」
「………ところで、サーリーはどうして読めないのにこの日記は書けたんだ?」
「書きながら、何度もどう書くか聞かれて、お手本は書いてあげたから。多分、あまり理解できてないでしょうね」
「なるほど。で、次は……と」
*****
きょう、ライカとおわかれした。
さみしい。いっぱいないた。
おうまさんあんまりみえない。
いっぱいなく。
またあいたい。
ライカすき。
ライカおともだち。
ライカもないてた。
ばしゃにのった。ライカがみえない。
ライカがないてるこえがきこえた。
サーリーもなく。いっぱいなく。
ねてた。
*****
「……………なあ、この珍しくいっぱい書かれた悲しい文章の最後は一体なんだ?」
「だって、馬車で泣き疲れて寝ちゃったもの」
「……ああ、そういうことか」
「ちなみに、この日記も泣きながら書いてたわ。……ほら、ここ、濡れて紙が歪んでるでしょ?」
「………そのうち、またサーリーを王都に連れて行かなきゃなぁ」
「でも、ここの守りも大事でしょう? 無理しないでちょうだい」
「ああ。せめて、お前たち二人が王都へ行けるようには頑張るぞ」
ぐっすりと眠るサーリーの横で、レイアとジルヴァルは起こさないよう気を付けながら、この後も続くサーリーの日記を読んでいく。
時折、ミミズののたくりレベルが尋常ではなく読めず、書かれた文字を推理しつつ、それでも楽しそうに、二人笑って読み進めていた。
*****
おうちかえってきた。
とうさまにとびついた。
とうさまわらってた。
とうさまだいすき。