祖父と私Ⅱ
仔馬を見た翌日、お昼ご飯を食べてすぐに祖父が少し時間をとってくれたので、祖父のいる執務室へと向かった。ちなみに、同伴してくれるのはメイラが付けた侍女と、昨日の騎士だ。え、だって直接話を聞いてた人がいた方がいいじゃん。
というわけで、祖父のところへ行こうではないか!! ………ついてきてくれた侍女の人にせがんで、抱っこしてもらって祖父のところへと向かった。ただの体力温存です。
「陛下、失礼いたします」
そうしていると、いつの間にか祖父の執務室についていたらしい。侍女、降ろして。
「よく来たね、ライカ。どうしたんだ?」
「あのね、えっとね………」
「うん?」
「昨日、おんましゃんに会いにいったの……」
「それで?」
「そしたらね、仔馬しゃんが生まれてたの………」
「ひょっとして、ライカは自分でその仔馬を世話したいのか?」
「そうなの!」
降ろしてもらった後はすぐに祖父に駆け寄る。その瞬間に一瞬、祖父の表情が崩れたが、侍女や騎士もいるため、瞬時に元に戻った。すげえ。
そしてそこからは説得の時間なのだが…………回りくどく話していたつもりなんだけど、何でそんなあっさりわかっちゃうの、祖父。
というわけで、元気いっぱい答えておく。祖父、あの仔馬、育てたい!!
「個人的には反対だが、シュバルツたちにも確認すべきだろうな。ライカ、この返事はもう少し待て。シュバルツと相談して決めるから」
「や! そしたら、いつお返事もらえるかわかんないっ!」
「まあ、シュバルツも忙しいしそうなるな」
「や! まってると、仔馬しゃんおっきくなっちゃう!」
「そうしたら、また新しく生まれた馬を可愛がればいいだろう」
「や! あの仔馬しゃんがいいの!!」
祖父! 父と相談する必要がどこにあるの! 祖父はこの国で一番偉いんだから、祖父が決めてっ! 私はあの子がいいのだ。あの子の潤んだ瞳を気に入ったんだい!
がすがすがす! 地団駄を踏みながら祖父の説得に励む。あの仔馬がいいの! 他のはいらないの!!
「ああもう、分かった。シュバルツを呼ぶから。それでいいだろう?」
「あいっ!」
というわけで、祖父が父を呼んだのだが、…………母もいるよ。何で?
「さて、ここじゃ狭いし、移動するか」
「そうですね。ライカ、こっちへいらっしゃい」
「あい、かあしゃま」
まあいいや。呼ばれたので駆け寄る。するとすぐに抱っこしてくれたので、そのまま抱き着いた。
「ライカは、何のわがままを言ってるのかしら?」
「わがままじゃないもん! おねがいだもん!」
「じゃあ、何のお願い~?」
「あのね、おんましゃんにね、仔馬しゃんがいるの」
「それで?」
「ミルシア、その話は移動してからにしよう。ライカもね」
「そうですね。さ、ライカも一緒に行きましょうね」
「あい!」
母に抱きついたままで移動し、少し広い部屋につくとすぐに、全員がテーブルに着く。するとすぐに侍女たちがお茶を準備してくれた。早い。
ちなみに私は母の膝の上です。父たちが自分の膝の上に乗せようとしていたのだが、母がにっこり笑顔で黙らせた。
「で、わざわざ仕事中に呼び出した理由は何なんだ? 親父」
「ライカが、この間生まれた馬の面倒を見たいと言い出した。どうする? シュバルツ。お前が親だ。判断しろ」
「馬ァ? いきなりどうしたんだ、ライカ」
「この間、おんましゃん見に行ったの。そしたらね、仔馬しゃんうまれてたの。可愛かったの」
「それで?」
「だからね、お世話したかったの」
「それで?」
………え、それだけだよ? と言わんばかりにきょとんとしてやる。
「ライカ。生き物を育てるというのは大変なんだよ? 毎日面倒を見てあげなくちゃいけないし、何かあったらライカの責任だ。…………ライカには、まだ難しいね」
「だいじょーぶだよ! きちんと面倒見る! できる!」
「何かあって、悲しむのはライカよ。そんなライカ、お母様は見たくないわ」
う! た、確かにその馬に何かあったら悲しむと思うけどさ。でも、それを理由にしてたら、これからずっと何かを育てたりってできなくなるじゃないか。
それにさ、昔本で読んだんだけれど、小さい子供には何かを育てさせるのが情操教育にいいって書いてあったんだ。その考えがこっちにもあれば、あっさり賛成を貰えると思ったんだけどな。
「ライカが何かを育てるのは、もう少し大きくなってからにしようね。それか、もっと小さい生き物にしよう」
えー。せっかく仔馬から育てて自分にしっかり懐かせて、ついでに乗馬の練習もしてそれを話題に兄と話そうと思っていたのに。
だが、今のこの三人の様子では私が仔馬の面倒を見ることはできなさそうだ。………ていうか、小動物ならいいわけ?
「じーしゃま、とーしゃま、かーしゃま」
「うん? どうしたライカ」
「どうしたんだ? 父様に言ってごらん」
「どうしたの、ライカ。母様に教えて?」
「おんましゃんじゃなかったら、いーの?」
「もっと小さい――――子犬とかならいいんじゃないか?」
「仔馬しゃんは、ライカがいくつになったらいーの?」
……いいのかよ! 馬はダメでも、犬はいいのか!
ていうか、育てるっていう意味では、馬も犬も大して変わらないと思うんだけどね。でも、この三人の中では違うんだろうな。
というわけで、今回は犬で譲歩します。馬の面倒を見たいけど、今は無理なら犬の面倒が見たいです! 可愛いわんこ希望!
ちなみに、犬は私が懇願した三日後に部屋に届けられました。
フィリステア・フィリッツァーという種族だそうです。前世の記憶にないから、この世界特有の種族だろうか。
「シトラス、おて!」
名前はシトラスとつけました。………単純に、シトラスを見た時にシトラスの匂いが思い浮かんだからだったり。ゴメンねシトラス。安直な名前を付ける飼い主で。
でも、シトラスはこの部屋で飼えることになったからそれは嬉しいと思う。
だって! 四六時中一緒にいられるんだよ!
まあ、四六時中一緒にいるということは、侍女の負担を増やすことにもなるわけですが。でも、みんなほほえましい目でシトラスと私を見てるからいいと思う。
「シトラス、おいで~」
ちなみに、今の私ではきちんとシトラスと発音できなかったりするのだが、間違えて覚えられても大変なので、意地できっちりと名前を呼べるように頑張りました。
そのかいもあってか、シトラスは自分の名前をきちんと憶えてくれたらしく、名前を呼んでおいでと言ったら尻尾を振ってきてくれるようになりました。
「シトラス、おさんぽいこー」
「わんっ!」
そう言って、シトラスの首輪にリードを付けて、護衛の騎士と共にお散歩コースである城をめぐる。………さすがに、医務室と調理室とかにはいかないけれど、それ以外の場所は散歩でまわり、ついでに会った人たちには笑顔で挨拶しておきました。
そうやってしばらくめぐって、体力のない私の限界が近づいてくると、散歩はおしまいだ。
「シトラス、お部屋かえろーね」
部屋に戻り、お風呂に入って軽く汗を流し、髪を乾かしてもらった後は本を読んでもらいながら、お昼寝だ。
このときはシトラスも一緒に寝る。とはいっても、一緒のベッドで寝ていたら、シトラスが自分のベッドを覚えられないため、さすがにベッドにあげることはしていない。
でも、そろそろうとうとして来たよー。シトラスも自分のベッドに戻って、寝ようね。
シトラスが自分のベッドに落ち着いたのを確認して、私ものそのそとベッドに上がる。あ、メイラ。今日は本はいいよ。本が無くても眠れそうだもん。……………ぐう。
ちなみに、私は犬より猫派だったりします。
ですが、猫は自由気まますぎて
書きづらいので、犬にしています。