馬たちと私
本日、二話同時投稿。
これの前にもう一話あります。
「んみゅ………」
兄に本を読んでもらい、ぐっすりとしたお昼寝から覚めると、そこには既に兄の姿はなかった。予想はしていたが、やはり寂しい。
「目が覚めたのですね、ライカ様。お水はいかがですか?」
「ちょーらい」
「はい、少々お待ちください。準備してまいります」
「メイラ、にいしゃまは?」
「フォルト様でしたら、ライカ様がお休みになられてすぐに、部屋に戻られました」
メイラに確認しても、やはり兄はいない。兄だから、やることが済んだらすぐに部屋に戻ったに違いない。
まあ、兄が本当は優しい人だってことは分かってるよ? でも、こんなに冷たい態度を続けられるとさすがに悲しいんだ。
うん、兄は優しいよ。確かに優しいさ。前、兄のところに駆け寄ろうとしたとき、躓いて転びかけたんだけどその時にかなり焦った兄が支えてくれたのだ。まあ、起き上がったらすぐに離れちゃったけどさ。
「お待たせいたしました。どうぞ」
しょんぼりしながら待っていると、メイラが水を持ってきてくれる。ので、ありがたくちょうだいし、こぼしつつもいただいた。
「メイラ、にいしゃま、すぐにかえったの?」
「……………はい。ライカ様がお休みになられてすぐ、お戻りになられました」
うん、やっぱりすぐに戻っちゃったんだね。分かっていても、やっぱり悲しい。
「ああ、泣かないでくださいライカ様」
そう思っていると、突然メイラからそのような言葉がかかる。でもね。
「ないてないよ!」
「それはようございました。ところで、夕飯まではまだ時間がありますが、どうなさいますか?」
「んー、どうちよ……」
兄もいないし、本もさっき読んでもらったばかり。それで本を読んでいたら、ご飯までに読み終わらないはずだし。
うーむ、うーむ。どうしようか。………あ、そうだ。
「おんましゃんに会いにいってきていーい?」
「馬に、ですか。………では、誰かに共をさせましょう。夕飯までには戻ってきてくださいね」
「あい!」
やた、許可降りた。シリウスとルシウス、ミリアンに会いに行ってきます。ちなみに、ミリアンというのは兄の馬だったりする。厩舎に行くたびにかまってるから、今や兄以上に気に入られているらしい。
ちなみに、この国では女性が自分の馬を持つということは基本、ないらしい。ただ、時々女性の当主がいたりして、そう言う人のみ、自分の馬というものを持っているそうだ。
というわけで、私ももちろん自分の馬というものは持っていない。なので普段は祖父や父、兄の馬を可愛がっている。
「ライカ様、私の目の届かない場所には行かないでくださいね。約束ですよ」
「あいっ!」
元気に返事をしつつ、まず目についたミリアンの元へと駆けていく。
「ミリアン、げんきにちてた?」
私が問うと、ミリアンは嬉しそうに鼻を鳴らす。うん、可愛いぞミリアン!
そうしていると、周りから文句のようなものが聞こえてきた。あ、そこにいたのねシリウス、ルシウス。
「しりうしゅ、るしうしゅもげんき?」
問いかけるとすぐに元気そうな声が返ってきた。ええい、二匹とも可愛いんだからっ!!
―――――って、例によってグルーミングすんな! 髪が! 髪がぁっ!
「しりうしゅ、るしうしゅ~」
ふええええ~。涙ぐみながら、この二匹に懇願する。お願いやめて。髪が引っ張られて地味に痛いのです。
「シリウス、ルシウス。ライカ様が困られていますよ。そろそろおやめなさい」
そうやってずっとはむはむと髪を食まれていると、そこでようやく一緒に来た騎士の人が二匹を諌めてくれました。が、二匹ともどこ吹く風。ちくしょー!
うわーん、涙が浮かんできたよ、ちくしょうっ!!
そうやって泣いてしまったのがよかったのか、そこで二匹はようやくグルーミングをやめてくれた。泣かせてまですることではないと考えてくれたようだ。
そして次は、ペロペロ? ベロベロ? と顔を舐めてくれた。…………くちゃい。
「おや、ようこそいらっしゃいました、ライカ様。シリウスやルシウス、ミリアンだけではなく、ほかの馬とも触れ合いませんか? 仔馬がいるのですよ」
「こうましゃん!?」
そうしてペロペロと舐められていると、厩舎の馬の世話係? まあ、お世話担当の人が来て、いいことを教えてくれた。仔馬ですと!? 見たい、見たいよっ。
「では、こちらへ。ですが、あまり近寄らないでくださいね。危ないですから」
「あいっ!」
うん、ちゃんと近寄らずに離れて見るから、会わせてください。
―――――――かわええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!
「ちっちゃい! かわいい!!」
「これで、生まれて一月は経っているんですよ。これからどんどん大きくなりますね」
「この仔馬しゃんも、るしうしゅたちみたいに大きくなるんらね」
「はい。たくさん食べて、大きくなりますよ。そうすれば、あっという間に大きくなりますね」
おおう、やはり仔馬も馬。あっという間に大きくなるのはちと悲しいよね。でも、可愛いから許す!
「ところで、この仔馬しゃん、おとこのこ? おんにゃのこ?」
「女の子ですよ。男の子より、可愛いでしょう?」
「おんにゃのこ? ライカと同じ!」
ほう、ほうほう。この仔馬はメスか。…………この子、私の馬にしちゃダメかな。私の馬にして、ちまちま面倒を見に来ちゃダメかな。
うむう、これに関しては祖父を説得するべきか、父を説得するべきか。うむ、どうしよう。
「ねー、この仔馬しゃん、ライカの仔馬しゃんにしちゃだめー?」
「……陛下にお伺いを立てなくては、私一人で決めることはできません。それに、動物を育てるということは大変なのですよ? ライカ様はまだ幼くていらっしゃいます。もう少し大きくなってからでもよいのではありませんか?」
「でも………」
「我々がお手伝いするにしても、それでも大変です。ライカ様にそれができますか?」
「できる! するもん!!」
「動物だって、生きています。きちんとお世話できないと、すぐに病気にかかったりしてしまうのですよ」
「しゅるもん………、できるもん………」
「何にしても、陛下にお伺いを立てなくてはなりませんね」
「じゃあ、今からじいしゃまのところ行く!!」
徹底的な反対が帰って来る中で、何とかしようと今すぐ祖父のところへ行こうとする。
だが、駈け出そうとしたその瞬間についてきていた騎士に止められた。
「ライカ様は、もうすぐ夕飯のお時間です。夕飯を食べて、お風呂に入って、休みましょう。陛下の元を訪ねるのは、明日以降です。先に明日訪問する旨を伝えておきましょう」
「えー」
「ダメですよ。いきなり訪ねては、陛下も困られてしまいますから」
「じゃあ、明日じいしゃまとおはなししゅる!」
明日は祖父の説得だ!!
というわけで、今晩はいっぱい食べて、お風呂に入って疲れを癒して、ぐっすり寝て体力を回復させよう。そして元気いっぱい祖父を説得するのだ。
というわけで、祖父。覚悟しておいてね―――――?