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兄が私を認めるまで  作者: 神埼未来
三歳児編
12/28

兄と私Ⅲ


 サーリーとレイアがレイアの夫のいる国境沿いに戻った翌日、別れを告げたその日は徹底的に泣き暮らし、泣きに泣きに泣きまくってさんざん泣いて、翌日ようやく部屋を出る気になれた。


「にいしゃま………」

「部屋に帰れ。………って、えらく元気がないじゃないか」

「にいしゃま、ご本よんでくだしゃい」

「帰れ」

「ご本……よんでくだしゃい」

「部屋で、侍女に読んでもらえ」

「や……でしゅ。にいしゃま、よんでくだしゃい」


 お願いします、兄よ。本読んでください。部屋に一人でいたくないもん。お願い、兄。一緒にいて。サーリーたちが帰っちゃって寂しいんだもん。

 だから、お願いします兄。読んでください。一緒にいてください。寂しい。寂しい。寂しい。


「にいしゃま、おねがいちましゅ……。いっちょに、いてくらしゃい……」


 いつの間にか、涙が浮かんでいた。……寂しいんだ。どうしても、寂しいんだ。


「なぜ泣いている。どうした」

「サーリーとレイアが………」

「ああ、お前の乳母たちか。帰ったといっていたな」

「あい…………」

「だからと言って、なぜここに来る。母上のところにでも行けばいいんじゃないのか?」

「かあしゃま、おちごと……だから、ライカ、ダメなの……」


 ふふん、甘いです兄。母のところは先に行きました。でも、お仕事だからと、たくさん謝られて追い返されたのです。だから、兄。かまってください。一緒にいてください。


「母上がお仕事中ということは、父上もか………。ったく仕方のない」

「いっちょにいてくれう!?」

「そら、部屋に戻れ」


 そうしていると、兄がため息をつきながらそんな言葉を言うので期待する。が、それはあっさりと霧散した。しょぼん。


「ほら、さっさと戻れ。どうせもうすぐ昼寝の時間だろう。寝るまでなら、一緒にいて本を読んでやる」


 が、またすぐに期待が復活した。ホントですか、兄!!


「そんなに目を輝かせてこっちを見るな。やっぱりやめるぞ」

「ごえんなしゃい! 読んでくだしゃい!」


 と、テンションをあげすぎたがゆえに兄からお叱りが飛んできたのですぐに謝罪しておく。だって、せっかく兄が本を読んでくれるって言ってるんだ。貴重だもん!

 よし、兄の気が変わらないうちに部屋へ戻ろう。お昼寝まで、じっくりしっかり、読んでいただこう!



「めーら、本は? にいしゃまが読んでくれるのー」

「まあ、フォルト様が。では、どの本になさいますか?」

「クリーナのぼーけん!」

「クリーナの冒険ですね、分かりました。では、用意してまいります」


 ちなみに、クリーナの冒険という話は、栗から生まれた女の子が旅をして、最後は悪い化け物を退治して一国の王妃となる話である。

 ………まあある意味、桃太郎に近い感じがあるかもしれない。桃が栗になり、主人公が男から女になり、鬼じゃなくて化け物を退治すると変わるだけだしね。

 うん、異常に楽しみだ。兄が優しく接してくれることなんてほとんどない。だから今を徹底的に楽しんでやる!

 ちなみに、こうやって待っている間にお昼寝間近の私は、ほかの侍女に寝巻に着替えさせてもらっている。自分で着替えてもよかったんだけれども、小さな手じゃ上手にできないし、子供だからいいかと、着替えさせてもらってます。

 ついでに今日は、ピンクのワンピース型の寝巻です。

 そうやって待っていると、私の言った本を持ったメイラが戻ってくる。


「ライカ様、本をお持ちいたしました。それと、途中でフォルト様に会いましたので、一緒に参りました。――――ではフォルト様、お願いいたします」

「ああ。ほら、早くベッドに上がれ。読んでやるから、とっとと寝ろ。寝た方が子供は成長するんだ」

「あい!」


 言われてすぐに、ベッドに上がる。すると兄はベッドのそばに椅子を置き、そこに腰かけた。そして本を開く。


「昔々、あるところに一組の若い夫婦がいました。夫婦がある日、山へ栗を拾いに行くと、そこには大きな大きな栗が一つあります」

「おっきい栗って、どのくらいおおきいのかなー」

「さあな。………夫婦はその栗にいたく興味を持ち、その場で割ってみることにしました。すると、あら不思議、栗の中には小さな小さな少女が眠っていたのです」


 ここまで見ると、まだほとんど桃太郎だ。桃が栗になっただけで、持ち帰るのがその場で割っただけ。

 でも、兄が読んでくれるのは貴重なため、しっかりと聞いておく。


 が、やはりベッドの上でそうやって読んでもらっていると、どうしても眠たくなる。まあ、時間がもうお昼寝の時間だからというのもあるのだろうが、眠たい……。


「眠いなら、寝ろ。寝て、大きくなれ」

「おやしゅみ、なしゃいにいしゃま………」

「ああ、いい夢を」


 うん、おやすみなさい、兄。今日は、珍しく兄がかまってくれたからよく眠れそう。いい夢見れそうだ………。


 ちなみに、お昼寝から覚めた後、咄嗟に周りを見渡したのだが、やはり兄はいなかった。そこだけしょぼん。でも、比較的いい一日でした。でもやっぱりしょぼん。


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