乳母と私と乳兄弟と
予定以上に筆が進んだので、
前倒しして投稿します。
この日、突然祖父に呼ばれたかと思うと、そこには懐かしい顔がいた。
「ライカ様! 大きくなられましたね」
「ライカ~」
そこにいたのは私の乳母をしていたレイアと、乳兄弟となるレイアの娘、サーリーだった。………あれ? この場合って、乳兄弟じゃなくて、乳姉妹? ………ま、いっか。
「サーリー、レイア。今日はどうしたの?」
「偶然王都に寄る予定が出来まして、せっかくですので陛下にご挨拶をさせていただきに参りましたら、ライカ様に会わせていただけるとのことで、会わせていただいたのです」
サーリーとレイアの親子は、私が二歳になったその日に、私の乳母という仕事を辞めて、レイアの夫のいる国境沿いへと引っ越していったのだ。ちなみに、レイアの夫は騎士をしており、かなり重要な位置にいるらしい。
ということで、私が二歳になったその日に別れて以来、初めて会うサーリーとレイアなのだが、サーリー、大きくなったなぁ。
サーリーは私よりも二か月ほど早い生まれで、私が生まれたころからずっと一緒に過ごしてきた。赤ん坊の頃も、少しずつ成長しはじめたころも、ずっと一緒に過ごしてきた。だから、別れると分かった時は泣いたものだ。泣いて、行っちゃ嫌だと二人に泣き付いたものだ。
だが、結局別れることは決定で。別れた後はしばらく私は泣き暮らしたのだ。朝、目が覚めていつもいるはずのレイアがいなくて泣いて。いつも遊んでいたサーリーがいなくて泣いて。
……………いっぱい泣いたなぁ。
「レイア、いつまでおうとにいるの?」
「三日ほどいる予定です。その間、登城を陛下より許可いただきましたので、ライカ様がよろしければ三日間とも、参りますがいかがですか?」
「来て! 遊ぶっ!!」
「はい。では朝から登城させていただきますね」
「あいっ!」
やばいやばい、レイアとサーリーが明日から三日間、毎日城に来てくれるなんて最高すぎる。興奮するっ!!
「落ち着きなさい、ライカ。そうやって興奮していては、また熱を出してしまうぞ」
「熱を出されていたのですか?」
「ああ、数日前まで寝込んでいたんだ。……さあ、遊ぶのは明日からにして、今日は明日からのためにしっかり休みなさい」
「えー」
「ここで無理をしたら、また熱を出すかもしれないだろう。今日は休んで、明日からいっぱい遊びなさい」
「…………あい」
しょぼんとしてしまったのが自分で分かる。でも、ここで無理して熱出したら遊べないし………。しょぼん。
というわけで、レイアとサーリーが来たことで嬉しいの半分、今日は遊べないので悲しいの半分。しょぼん。
「………どうなさったのですか? ライカ様」
そしてそれは、当然ながらメイラにバレて質問を受けることとなった。
「レイアとサーリーがきてるの。でも、今日はあそんじゃいけないの」
「レイア様ですか。お久しぶりですね。…………ですが、ライカ様が今無理をなさると、おそらくまた熱を出してしまいます。ゆえに、陛下も今日はダメだと仰られたのではないですか?」
「でも、せっかく久しぶりに会えたのに……」
「陛下も、先日体調を崩されたライカ様を心配しておられるのですよ。今日は我慢して、明日からたくさん遊びましょう」
だがメイラもやはり祖父の味方だった!! くう、サーリーと遊びたいよう。レイアに話を聞きたいよう。しょぼん。
「ライカ様、そのように気を沈めていらっしゃると、また体調を崩してしまいますよ」
「やー…………」
くう、寂しさのせいか、抵抗にも力が入らない。
「ライカ様、元気を出されてください。ね」
「んー………」
しょぼん。しょぼぼん。
「ああ! そうだ、ライカ様。今日は少し早めにお昼寝をしましょう。たくさんお昼寝して、明日たくさん遊びましょうね」
「うん………」
うう、答える声に元気を込めれない。どうしても、寂しい。
でも、仕方ないよね、三歳児だもん。感情がモロに表に出ても仕方ないよね。しょぼん。
という私のしょんぼりしたものは、翌日にサーリーやレイアに会ったことで一瞬にして霧散した。
「ライカ、なにしてあしょぶ?」
「サーリーはなにちたい?」
「なんでもいいおー。ライカ、きめて?」
「じゃあ、おしょといこ。おしょとで、お花つんで、ティアラつくろ」
「うん!」
え、だって楽しいのよ? サーリーって小さいころから一緒だったから、お互い敬語も何もなく、何の気兼ねもなく遊べるし?
というわけで、お庭行って、花冠作ろう。そして、どうせだからお互い母にプレゼントしようじゃないか。
そうやって二人………だけとはならず、侍女や護衛の兵たちを引き連れて城の中庭へと向かう。あそこ、庭師が植えてる花もあるけど、野生の花もたくさんあるから、花冠を作るには十分なのだ。昔もよく、一緒に作ったなぁ。
「ライカ、あのおはなでつくろ」
「うわぁ! きれーだねぇ」
「だから、あれでつくろー」
「うん!」
さあ、今回もきれいな野花を使ってきれいな花冠を作ろう。
――――どっちの花冠が喜ばれるか、勝負だっ!!
「あ、ライカじゅるい!」
「ずるくない! せんてひっちょうだ!」
…………あ、はい。先手必勝ですよ。三歳児の舌じゃ、そんな難しい言葉は言えなかったよ。
っと、こうやって説明する時間も惜しい。今は、サーリーとの勝負の時間だ。
どっちが早く、なおかつきれいに作れるか。そのためには先に作り出すべし!!
ちなみに、この勝負の判定人はレイアとなっている。レイアは差別はせず、きちんと私たちの作った結果を見届けて、判断を下してくれるのだ。
―――――さあ、今回の結果は?
「今回は、ライカ様ですね。色の組み合わせもお上手ですし、一つ一つの組み方も丁寧です。サーリーは、もう少し色遣いを考えないとライカ様には勝てないわね」
「むむむ~。ライカ、ちゅぎは、かつかやね!」
「のぞむところら!」
私の勝利だった。うん、色合いを考えた甲斐があったというもの。だが、それでサーリーが燃えたらしい。でも、私だってそう簡単に負けてたまるものか!
ちなみに、私たちのこの様子を、メイラやレイアたちはほほ笑ましそうに眺めていた。その気持ちは分からんでもない。でも、仕事しろ。
「メイラ、のどかあいた」
「あ! はい、お水ですね。少々お待ちください。サーリーちゃんもライカ様と一緒に待っていて」
「あい」
そうしてメイラに水をねだると、その瞬間にほほ笑んでいたメイラはすぐに真顔に戻り、水の支度を急ぐ。
「どうぞ」
それから少し待つと、メイラが私とサーリー二人分のカップを手に、戻ってくる。よし、いただきまーす!!
「………ライカ様、相変わらず上手に飲めないのですね」
そして、例によってぼとぼとと飲みながらもこぼす私の飲み方を見て、レイアがため息を告げながら言った。仕方ないもん! 苦手なんだもん!!
「ライカ様、カップをこちらへ貸してください。僭越ながら、お手伝いいたします」
「や!」
それを見かねたらしいレイアからそのような言葉が飛んできたが、拒否。一人で飲むもん。こぼしながらでも、ちょっとずつでも飲むもん。
ちなみに私たちの飲んでいるこれは、白湯である。外は暑いため冷たいものが飲みたいとも思うが、この身体はまだ三歳児。冷たいものを飲んだらお腹を壊すかもしれない。ので、白湯で我慢である。
そして、白湯を飲んで一息ついて、疲れたので二人で仲良くお昼寝タイムだ。
サーリーと一緒にお昼寝も相当久しぶりだ。………横に誰かいると、暖かくて気持ちよすぎて最高なのだ。特に、子供同士って体温高いから、暖かいのです。くー。
ちなみに、お目覚めは私のほうが早かったです。サーリーは横でまだおねむ。
「おはようございます、ライカ様。お水はいかがですか?」
「ちょーらい」
そうしていると私が起きたことに気付いたメイラが、水をくれたのでありがたく頂戴した。予想以上に喉が渇いていたらしく、水は普段以上においしかった。
そうやってちびちびと、じわじわとこぼしながら水を飲んでいると、何かに感づいたのかサーリーも目を覚ます。
「おはよう、サーリーちゃん。サーリーちゃんも、お水いる?」
「ほちい!」
「ライカももっと!」
「はい、畏まりました。少々お待ちください」
そして二人で一緒にお水を飲んで、そしてまた二人で一緒にトイレに行くこととなり、その後は少し遊んだだけで帰ってしまったけれども。でも、また明日も会える。明日も遊べる。
―――――だから、今日は泣かない。また、会えるから。また明日、会えるから。
「またあしたね、サーリー」
「うん! またあした!」
また、明日。
また明日、といいつつも
―――続きません。