祖母と私
祖父のせいで出した高熱も、数日間しっかりと栄養をとってぐっすり眠ってとしていると、だいぶよくなった。うん、元気です。私的には。
でも、まだ熱は高いらしく、メイラたちからは寝ているようにとの言葉をちょうだいしつつ、ベッドに横になったまま起きてます。
だって、退屈だもの。だいぶ熱も下がってきたからか、眠たくないんだもの。
「メイラ、ご本読んで」
なので、眠たくなるまではメイラに本を読んでもらうことにした。メイラも快く引き受けてくれたし! まあ、多分本を読んでれば大人しく寝るからだろうけど。
「どの本がよろしいですか?」
「にゃーにゃがでるの!」
ちなみに、にゃーにゃとは猫のことです。こんな呼び方ができるのは今のうちだけなので、止められるまではそう言い続けるつもり。
「はい、あの本ですね。分かりました。とって来ますので、ベッドでお待ちください」
そして本を取りに行ったメイラだったが、なぜか祖母を連れて戻ってきた。本は? ………あ、あった。
「ライカ、熱を出したって聞いたのだけれど、大丈夫?」
「ばあしゃま! ライカ、げんき!」
やってきた祖母は、父と同じ暗めの茶色の瞳に不安を乗せながら問いかけてくる。ので、元気いっぱい答えた。元気!
「まあ、それはよかったわ。――――でも、まだ熱は高いのね」
「ライカ、げんきだよ?」
「でも、まだ熱は高いの。さあ、ライカは寝なさい」
「ねむくないもん………」
「でも、寝ないと善くならないの」
「………ねむく、ないもん。だから、ご本読んでもらおうと思ってたのに………」
めそめそ。浮かび上がる涙を寝巻で拭っていく。祖母が来なければ、今頃メイラに本を読んでもらって、多分その間に眠たくなってたんだもん。うう。
「ああ、泣いちゃダメよ。ほら、手をどけて」
めそめそ。めそめそ。静かに小さく泣き続ける。
「泣いたら、また熱が上がるわよ?」
めそめそ。
「ほら、ライカ?」
めそめそ。
「いい子だから寝なさい。ね?」
めそめそ。
「――――――ライカは何をしたいの?」
「ご本読んで!!!」
ちなみに、この勝負は私が勝ちました。いつまでたってもめそめそ泣く私に祖母は勝てなかったらしい。
というわけで、祖母。メイラの持ってきてくれた本を読んでください。多分、そうしてたら寝れるから。
「仕方のない子ね。メイラ、この子の言ってる本はどれ?」
「あ、はい。これです」
「ライカ? これを読んだら寝るのよ。いい?」
「あいっ!」
いい返事です、私。いいから、読んでください祖母よ。本ッ、本ッ♪
…………って、何でベッドのそばの椅子に腰かけて読もうとしてるのさ。しょぼん。
「あら? どうしたの、ライカ」
「そこじゃ、ライカみえない」
「ライカは、聞きたいんじゃないの?」
「ちがうのー。文字のおべんきょうなの。おべんきょうして、一人でよめるようになりたいもん………」
私が不機嫌な理由を尋ねられ、答えると祖母は驚いたような表情をする。が、すぐに笑顔になった。
「ライカはいい子ね。でも、お勉強は熱が下がってからにしなさい」
そしてその優しい表情のままで頭を撫でられ、そして祖母の朗読が始まった。
「昔々、まだ世界が生まれたばかりの頃、そこには小さな猫がいました……………」
それから祖母の朗読は始まって行く。………のだが、祖母、上手。すごい感情籠ってるし、キャラ一人一人につき、少しずつ声も変えてるし。
その祖母のすごさのせいだろうか。ずっと読んでもらっている間聞き入り、全然眠たくならなかった。
「お終いっ。さ、ライカは寝んねの時間よ」
「ねむくないー」
「でも、本を読む前に約束したでしょう? さ、寝なさい」
「うー。………ばあしゃま、いつまでライカといる?」
「少なくとも、ライカが眠るまではいる予定よ? どうかしたの?」
「お手々、つないで?」
私の望み通り、祖母は毛布に隠れる私の手を目指してその手を伸ばしてくる。その手を子供の力で必死にひっぱり、引き寄せて、抱き着いた。あ、やっぱり落ち着く。
「ライカ?」
「離すの………や。安心する………」
だから、祖母。離さないで。手を繋いでいれば安心して眠れそうだから。
涙ながらに祖母に告げると、祖母はため息を一つついて、ベッドの端に座り、そこからベッドに上がって来た。
「ライカが眠るまで、一緒にいるから安心なさい」
そしてしっかりと私の手を握り、空いた片手で頭をよしよしと撫でてくれる。
「大丈夫よ」
「ん……………」
「大丈夫だから、安心して休みなさい」
撫でてくれる手が優しくて。握ってくれているその手が温かくて。―――――安心して、眠りに落ちた。
「んみ…………?」
「ああ、起きたのか。具合はどうだ?」
「とうしゃま? ライカ、げんきいっぱい」
「どれ? ………ああ、随分と下がったね。だが、また下がり切ってはいないな」
「……? げんきなのに?」
「熱が下がり切る前に無理をすると、もーっと辛くなるぞ? ライカはそれでいいのか?」
「…………ヤ!」
そうやってぐっすりと眠って目を覚ますと、そばには祖母ではなく父がいた。祖母はどうした。
「とうしゃま、ばあしゃまは?」
「お婆様は、お仕事だ。でも、父様がいるから寂しくないだろう?」
「や。ばあしゃまどこ~」
ふえー。目が覚めて、祖母がいなくて寂しくて泣き出してしまった。……熱のせいで、涙腺が緩いのだろうか。
父が焦っているのが見える。メイラも、焦ってタオルを手にこちらへ駆けつけてくれ、流れ出る涙を拭ってくれる。
……………でも、寂しいよ祖母。どこ行っちゃったの祖母。しくしく。
「ライカ」
そうやってしばらく泣いていると、求めていた声が耳に届く。涙で滲む視界でその声のした方を見ると、祖母が優しく微笑みながら立っていた。
「ば、…………しゃま! ひっく」
「よしよし、どうしたの? シュバルツは嫌?」
「ばあしゃま~。いなくなっちゃやー! ライカといて~」
「………シュバルツ、私の仕事お願いね。私はライカといるから」
「それはずるいですよ、母上! 俺だって、ライカといたいのに」
「だって、ライカが私といたいって言ってるもの。ねえ、ライカ?」
「ばあしゃまいなくなっちゃやー!」
「ね?」
「―――――分かりました。ライカ、何かあったらすぐに呼びなさい。いいね?」
えぐえぐ。いまだ止まらない涙を流しつつ、私が泣いていることを聞きつけて来てくれた祖母にべったりと引っ付く。
「大丈夫よ、そばにいるからね。だから、ライカは寝ましょう? ね?」
「や……。ばあしゃまいなくなる……や」
「大丈夫よ、そばにいるからね。ライカが寝てる間もそばにいるから」
「やー! ねないーねないー!」
ねえ、祖母よ。引っ付いてる私を引きはがして寝かしつけようとしないでください。寝たら、またいなくなるじゃないか。それは寂しいから嫌だ。
と、徹底的にごねるのだが、如何せん三歳児の力では祖母に勝てない。ベッドに降ろされた。
「やー! ねないの、いっちょいうの!」
「ライカが寝ても、一緒にいるからね。だから、安心して寝なさい」
「やー!」
だって、不安なんだよ。だから、寝ないもん!!
「………熱も、また上がったみたいだし……。ほら、いい子だから寝なさいったら」
「やーなのー!」
「………じゃあ、一緒に寝ましょうか。なら、いいかしら?」
「いっちょ?」
「ええ、ライカと一緒に寝るから、そばにいるわよ」
「いっちょ…………ねう……」
「そう。一緒に寝るの。………さ、ライカのベッドにお婆様も入れてちょうだい」
そうしていると、祖母が一緒に寝るという案を出してきたので賛成。もそもそと移動し、横に祖母を迎え入れた。………が、祖母はまだ来ない。
「着替えてくるから、待っていてね。できるだけ急いで戻ってくるからね」
「しゅぐもどゆ?」
「ええ、すぐに戻って来るわ。だから、いい子で待っていてね」
本当にすぐに戻ってくる? そう思いながら祖母を見ていると、祖母は私を安心させるためか、優しく微笑んで私の頭にポンと手を置く。
それで安心できた私は、入っていた力を抜き、ベッドに横たわった。………でも寝ない。祖母を待つ!!
うとり。うとーり。安心できたからか、祖母を待つその間もどんどんと眠気に襲われる。でも寝ない。頑張る。
「お待たせ」
「ばあしゃま!」
「あら、起きてたのね。寝てるかと思ってたわ」
「ばあしゃま待ってた」
「そう。じゃあ、一緒に寝ましょうね」
「あい!」
そして、祖母が入ってきたことで温もりの増したベッドで、祖母にしっかりとしがみついた。ぬくぬく、気持ちいいー。
…………………………ぐう。
ちなみに、これから二日後には完全に熱も引いたが、熱が下がった後も数日間、大事をとってということでベッドに拘束された。でも、その間は祖母や母が交代でそばにいてくれたから、それはよかった。
ストック尽きました。
これからは不定期更新になります。
正直、一週間足らずでこんなに
お気に入り登録&評価をいただけると思っていなかったので、
驚きでちょっとやばいです。
またしばらく、ストックを溜めこんで
投稿を再開したいと思いますので、
それまで少し投稿を休止します。
とは言っても、一週間~十日くらいで
再開できると思います。
更新を楽しみにしてくださっている
心優しい方々には申し訳ございませんが、
しばしお待ちくださいませ。