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歓迎会

「ここが、我らが瑞原文化研究会の部室よ!」


 そう言って椿姫は『瑞原文化研究会』という看板が掛けられている部屋を示した。

 静音が連れてこられたのは、瑞原大学部室棟2階、その一番奥に位置する部屋である。

 入り口の看板はかなりボロボロで年季が入っており、歴史を感じさせる。


「今の時間なら他の二人もいるかしら」


 と、椿姫が扉を開けると、部屋の中には、うっとりした表情で何か絵のようなものを書いている女性と、何かの本を真剣に読んでいる狼のケモウドの男性の姿が見えた。

 何をしているんだろう、と静音が思ったのとほぼ同時ぐらいに、妙に慌てた様子で椿姫が扉を閉めた。


「ふえ?」

「ちょ、ちょーっとだけ待っててね?静音ちゃん」


 椿姫はそう言い残すと、静音を置いて部屋の中へと入っていった。

 ドタバタと騒がしい音と叱責するような椿姫の声が響き、そしてしばらくして扉が開き、椿姫が出てきた。


「お待たせ!いやー、ちょっと散らかっててね」

「そうなんですか?」


 ちらっと見えた部屋はそんなに散らかっているようには見えなかったけれど、と静音は疑問に思いつつも、椿姫に連れられて部屋に入った。

 部屋の中は、静音の部屋の2倍程の大きな部屋で、中央には5、6人はかけられそうな丸机があり、部屋の周囲には本がぎっしりと詰まった本棚が並べられている。

その他にも茶器や小物が入った戸棚や、静音が見たこともない魔法製品らしきものがいくつかあった。


「紹介するわ!こっちのおっとりしてるのが水琴、あっちのヘタレ狼がレイジよ。」 

「あらあら、また可愛らしい子が来ましたね。千条院水琴です。これからよろしくお願いしますね」

「誰がヘタレだ!ごほん、あー、まあ何だ、レイジだ。適当によろしくな」

「し、静音です!よろしくお願いします」


 椿姫に紹介され、部屋の中にいた水琴とレイジと挨拶する。先ほど見えた時の絵らしきものや本は持っていないようだ。

 それから、立ち話を続けるのも、ということで全員机の周りに座った。


「さて、それじゃ挨拶も済んだところで、早速静音ちゃんの歓迎会をしましょう!」

「ふえ!?そんな、悪いですよ」

「いいのいいの。水琴ーとりあえずお茶淹れてー」

「わかりました。折角ですしお茶菓子も用意しますね」


 そう言って水琴はお茶の準備を始めた。戸棚から茶器一式と茶葉の入った箱を取り出し、あらかじめ汲んでいたのか、たっぷり水の入ったヤカンを魔法陣の描かれた何かの器具の上に乗せる。

そして小さく呪文を呟くと、器具に仕込まれていた魔法が発動し、瞬く間にヤカンから湯気が立ち上った。どうやら魔法式の湯沸かし器だったようだ。温度の調節も自由自在で非常に便利な代物だが、魔法製品の例に漏れずコストが高いため、一般家庭ではまず見ることはない物だ。

 急須に茶葉を入れ、お湯を注ぐ。お茶が出るのを待つ間に、戸棚から羊羹を取り出し、手早く人数分切り分けて小皿に取り分ける。

 そしてちょうど良くお茶が出たところで、湯呑にお茶を淹れる。緑茶の鼻腔をくすぐるいい香りに思わずうっとりする静音。

 ここまで一切淀みのない、流れるような手際であった。


「お待たせしました」

「相変わらず手際いいな」

「うふふ、褒めても何もでませんよ?レイジ君」

「そんな事言ってー羊羹は出たじゃないの。もしかしてこれ水琴の手作り?」

「ええ、椿姫ちゃん。最近お菓子作りに夢中でして、中々うまく出来たと思いますわ」

「ふえー……」


 宿の手伝いで料理はある程度できる静音だが、お菓子作りはまったく未知の領域である。

 それにこの緑茶。匂いからして、静音が普段飲んでいる物とは比べ物にならないほど高級なお茶のような気がする。


「それじゃ、いっただきまーす!」


 そんな気後れしている静音を知ってか知らずか、椿姫が勢いよく食べ始める。


「もう、椿姫ちゃんてば、そんなにがっついたらお行儀が悪いですよ」

「いいのよ。ちゃんとしなきゃいけないときは、ちゃんとしてるんだから」

「どーだか」


 そんな椿姫に呆れ顔になるレイジ。


「さ、静音ちゃんも召し上がってくださいな」

「は、はい。いただきます」


 水琴に促されて、まずは一口、羊羹を口に運ぶ。


「――美味しい!」


 瑞原に来てから、節約のために甘味断ちをしていた事もあってか、一口食べるともう一口と、あっという間に平らげてしまった。

そしてお茶を啜って一息つく。こちらも美味しい。


「ふふ、気に入って頂けましたか?」

「はい!すっごく美味しいです!」


 こんなに美味しい物が食べられるなんて、やっぱり来てよかった。そう静音が思っていると、椿姫が立ち上がって何かを探し始めた。


「えーっと確かこの辺に……あったあった」


 そう言って椿姫が取り出したのは、一枚の板と賽子だった。板には沢山絵やマス目が描かれている。


「えと、双六ですか?」 

「そそ、うちで作ってるやつの試作品でねー、まだ発売してない最新版よ」

「わぁー」


 静音も、双六は実家でもよく家族と遊んでいて、好きな遊びの一つだ。あまり強い方ではなかったが。 


「さあ、始めるわよー!あ、ちなみに最下位の人は罰ゲームね」

「ふえ!?」


 こうして4人で双六大会が始まった。


「6来い!6来い!6来い!やったぁ!」

「さすが椿姫ちゃんですわねー」

「ふっふっふ、賽子女王とお呼びなさい」


「あら、『船が難破して一回休み』ですか」

「それって、一回休みだけで済むんですか?」

「細かいことは気にしない気にしない」


「お、『鉱山を掘り当てる。収入が1000両増加』か」

「やるじゃないレイジ」

「ま、負けません!」


「ふえー!?『泥棒にあう、所持金半減』」

「あらら」

「ご愁傷様」


 勝負は白熱していき――


「お、おい待て、話せばわかる」

「うふふ、ダメです♪」

「やめろぉ!」

「『誰か一人を選び、その人に借金を擦り付けて次回の収入を0にする』中々えげつないわね」


「『賭博に勝つ。20000両もらう』ふははー!私を止められるものなら止めてみなさい!」

「さ、三倍以上差がついてます……」

「まだまだ、勝負はこれからですわ」


「ま、また泥棒……」

「静音ちゃん、泥棒に目をつけられてるのね……」

「ふえーん」


 そして――


「よし!いっちばーん!」

「残念、2番になってしまいました」

「く、3番か」

「ふええ……最下位です」


 結果は、静音が最下位になってしまった。


「ふふふ、それじゃお待ちかねの罰ゲームの時間ね!」

「あ、あのその、優しくしてください……」


 いったい何をされるのだろうと不安になる。

 そんな静音の前に椿姫が近づいてきて――


「ぎゅー!」

「わぷ!?」


 そのまま正面から静音を抱きしめた。


「んー、やっぱりいい抱き心地ね」

「離してくださいー!」

「ダメー、罰ゲームだもん」

「あら、椿姫ちゃんったらずるいわー」


 そう言って水琴も後ろから静音を抱きしめる。

 前後を挟まれ、柔らかい感触といい匂いと息苦しさでぐるぐると目が回りそうな感覚を覚える。


「たーすーけーてー」

「まあ、うん、諦めろ」


 唯一の男性のレイジに助けを求めたが、あっさりと見捨てられてしまった。


「レイジ君も参加します?」

「できるか!」

「やっぱりヘタレね」

「言ってろ」


 そして、そのまま我関せずといった様子でどこからともなく本を取り出し、読み始めた。


「んふふー、ぎゅー」

「ぎゅー♪」

「ふえー!」


 静音が解放されたのは、それからたっぷり30分は経ってからのことだった。

 先ほどの授業の時にまた抱きしめて欲しいと思ったのはやっぱり気の迷いに違いない、次からは絶対に抱きつかせないようにしよう、と決心する静音であった。


アレな本が好きな割にヘタレなレイジ君。

水琴の描いてた物とか色々あるのですが、まあその辺りはいずれ・・・

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