#42 一歩の度胸(敦彦)
沙夜たちと合流し、間宵にこれから先の行程をゆっくり説明したあと、余裕を持たせて早いうちに電車に乗ることにした。
あれから間宵は比較的おとなしくなった。緊張の糸がほぐれたのか、もしくは単に疲れがたまっているのか、その判断が僕にはできなかったけれど、間宵がおとなしいことも不安の種となることに気がつき、あまり考えつめないことにした。車内が混んでいたので、沙夜は僕の影の中に入る。アネモネは間宵の影に入るわけにもいかず、超人的な力で車両の壁に張りついて、大榎悠子の家まで移動した。重苦しい空気の中で響く車両の揺れる音がなぜだか心地よかった。だんだんと地元を離れていく光景と、その時間が僕の焦りに拍車をかけた。憂慮を膨らませながら僕は息をつく。
そうして大榎悠子の屋敷についたのが、約束していた時刻の三十分前、つまりは十一時三十分には到着した。「早かったわね」大榎が門前で僕らのことを待ってくれていた。立派な門に背を預け、傾斜した姿勢で足を組んでいる大榎は、今日も黒い襦袢に黒袴といった真っ黒な服装をしている。四人、揃い踏みで到着した僕らを見て、彼女は眉をひそめると下唇を突き出した。その二つの筋肉の活動は連なりを持っているように同時に起きた。当然、その苦々しい顔は待ちわびた友人を歓迎しているような表情ではない。
「……話が違うんじゃないかしら? どうして藤堂間宵と一緒にご到着なわけ? 彼女に知られないようにつれてくるというのが、約束だったはずよ」
「すみません……。僕の独断です。なんていうのか……その、伝えなくてはならないと判断しました」
「動揺を誘うような真似はしないでと、あれだけいったでしょう?」
なにもかもお見通しだというような説教口調だった。格別怒っている顔ではなく、どちらかといえば落ちこぼれの生徒に失望したといわんばかりの顔をしている。そんな彼女を前にし、僕の口からは謝罪の言葉しか出てこない。ぎくしゃくする空気の中、すぐ横から間宵が一歩踏み出して大榎に頭を下げた。初対面であるためか大榎の常人離れしたビジュアルに少なからず驚いている様子だった。
「兄はわたしのことを気づかってそう判断してくれたんです。すべての責任はわたしにあります。それに……わたしは平気です……。今日は、よろしくお願いします」
「ふーん」値踏みするように間宵の身体を眇めると、大榎は自己紹介もなしに屋敷に向けて歩き出した。「まあいいわ。どっちみち成功するし……。こっちへ来なさい」僕らは彼女に従う。
大榎に導かれるままに庭園に入り、昨日と同じように石敷きの上を歩いていく。その途中、「はいたあッ!」沙夜がデコピンされたように仰け反った。
「沙夜!? どうした!?」額を抑えてうずくまる沙夜の元まで駆けよる。
「いたた、うっかりしてました。跳ね返しの道が張られていたんでしたね」
「ああ、これがそうなのか?」
「そうよ。死神憑きに逃げ道を与えるわけにはいかないもの」と大榎が簡潔に答える。
見れば多数の注連縄が方々に張り巡らされていた。ボロボロだった昨日までの注連縄とは違って、そうそう切れないようなしっかりとした縄だった。その縄が横道のみならず、温室のように頭上に及ぶまで張られていた。屋敷をぐるりと囲んでいるのだろうか、昨日の倍以上はある。この量を大榎一人でやったともなれば、そうとうな時間と労力が必要だったに違いない。僕は胸の奥深くで大榎に感謝の言葉を送る。
「ばかな小娘憑き、それと傲岸な悪魔憑き。そこにあんたら専用の通り道を開けてある。そこを潜ってきなさい」
大榎が指差した方を見れば、その一箇所だけ注連縄が断ち切られ、ぽっこりと空洞が開いていた。唯一、憑きものが通れる道らしいが、嫌がらせのように幅が狭い。
「なんだか獣道って感じがして嫌ですね。ねえ、アネモネさん」
「後ろがつかえている。さっさと進め」
手を地につきながら沙夜、アネモネの順に空洞を潜る。二人の位置関係を見て、僕は一人どぎまぎしていた。アネモネの位置からだと、沙夜のスカートの中が覗けてしまう。――しかし、アネモネは前方の一点を見つめたままで、顔の筋肉をほとんど動かしていなかった。そこで器の違いを感じ入って、僕はややへこんだ。戦闘を前にして、そんな間抜けなことを考えていたという点も含めてだ。隣を見れば、僕がどこに目を向けていたのか気がついたのか、間宵が恨みがましく睨んでいた。
沙夜とアネモネが通ったのを確認して、大榎は余分に伸びた縄をしっかり結んでから屋敷へ向かう。これで死神憑きは屋敷の外に出られないのだろう。それはすなわち、沙夜やアネモネ、あずきの逃げ場もなくなったことを意味する。
屋敷の中に入り、細い廊下を進んでいき、奥まったところまで連れてかれた。そして開かれた板張りの間。そこは部屋の中でも一番大きなスペースを有しているのではないだろうか。目算、五十畳はあるようだが、全貌は明らかになっていない。なぜなら雨戸が締め切られており、明り取りもない部屋の中は、ほぼ真っ暗といってもいい状況だったからだ。いたるところに小さな燭台に載せられた蝋燭が天井からつり下がっている。その仄かな灯りすらも周囲を照らされているだけで、隅の方まで光は行き届いていなく、光と呼べるには脆弱すぎるものだった。暗がりに浮かぶ、不規則に並んだ多数の蝋燭は非日常の世界にいることを僕に主張してくるかのようだ。
「藤堂間宵。中央へ……」
「は、はい」背筋をぴんと張って間宵は大榎にいわれた通り中心部へ。なにごとにも物怖じしない間宵でも、この時ばかりは緊張しているようだった。
「大榎さん。お願いします」僕は一礼する。大榎は僕を一瞥してから、間宵の方へ顔を向けた。
「いいかしら? 藤堂間宵。憑きもの落としはあなたの体力を奪う。憑きものが落ちた途端にあなたはしばらくの間、意識を失うことになるわ」
「はい。わかりました」
しばらくは一時的なショックで目を覚まさないとのことだった。とはいえ、間宵が目を覚ましていたところで、死神憑きに逆らうことができない。だから、眠ってくれていたほうが都合よかったりもする。
「だから、この世界はこれで見納めになるかもしれないわ。後悔しないよう大好きなお兄ちゃんの顔をよく見ておくことね」大榎はあろうことか、趣味の悪い冗談をいって、くすくすと笑っている。言葉を真に受けたのか、間宵まで僕の方をちらちら見てくるものだから調子が狂った。
「お、大榎さん! 間宵に動揺させちゃいけないんじゃなかったんですか!」
「は? 違うわよ。そうじゃないわ。動揺させないのは藤堂間宵じゃなくて、こいつの方」間宵の影を足先でさし示した。「憑きもの落としの対象者といったら、憑きものに決まっているじゃない」
間宵の影がぐらぐらと揺れている。動揺しているのは死神憑き。そうか、間宵の影の中で僕らの話を聞いているのか。だから、きっと間宵に話してはいけないと大榎がいったのだろう。動揺を誘うというのは間宵に対してではなく、死神憑きに対してだったのかと、一人で静かに納得した。
大榎は影に目配せしたのち、ぽっと一息もらしてから地面を足で強く踏んだ。高らかに声を張る。
「臨、兵闘者、皆陣裂在前!」
大ぶりなジェスチャーと共に大榎は足音を鳴らして、呪を唱え出した。その言葉を合図としてあるのか、奏でられたあずきの心地悪い唸り声が大榎の呪と絡み合い、場に反響する。不安定な旋律だった。これが死神憑きに効果覿面な道であるという。
「お兄ちゃん…………」
陣の中心にいる間宵が心配そうに僕らの方を見た。
「大丈夫だ。僕らを信じてくれ」
僕は激励の言葉を送ったが、もちろん、大丈夫という言葉に論理的な憑拠はない。ただ今は強がるしかない。間宵が目を覚ますかどうか、それは僕ら次第だ。僕らのこれからの行動に全てが掛かっている。だから、彼女が一時的な安眠を得られるよう、配慮すべきだろうと判断した。
「うん。でも、死んじゃやだよ」涙ぐんだ眸で僕のことを見る。
「死なないよ。僕もお前も……。誰も殺させやしない」
僕が無理に微笑んでみると、間宵も少しだけ表情をほころばせた。続けて間宵は情けない顔をして、アネモネの方をうかがう。
「アネモネもさ、あんまり無理……しないでね」
「主の命令だ。無理はしない。だが、必ずお前を救ってみせる」
僕らの会話を断ち切るように、大榎が僕らの方へ向き直って、声を張り上げた。
「さ、無駄話はその辺にしておきなさい! 出すわよっ!」
僕は今後集中力を切らさないよう瞬きを何度も繰り返した。間宵の影が激しく揺れて、まばゆいほどの明滅を繰り返す。得体のしれない大音声が轟き、黒い空洞から不気味なほど真っ白な手が伸びた。叫び声を上げて、影の中から姿を現したのは、
「ったく、なんですか……。引きずり出しやがって……」
神々しい色した髪の――
――少女の姿だった。
死神憑きと思しき少女が出てきた拍子に間宵の身体が傾く。そのまま、地面に膝をついて前のめりに倒れてしまった。その期を狙いすましたかのように、死神憑きの鎌が間宵の胸に向けて降りさげられる。
「間宵ッ!」
僕は思わず声を上げてしまった。だが、死神憑きが開放された時、真っ先に間宵を狙ってくるであろうことは、大榎の計画のうちだ。鋭く尖る鎌の先端が胸にささる寸前のところで、あらかじめ駆け出していたアネモネが間宵の身体を抱きかかえ、凄まじい跳躍力で飛び跳ねた。アネモネは間宵を支えたまま、梁に手をつき天井に張りついた。目標を見失った死神憑きの鎌は空を切り、そのまま轟音を立てて床を砕いた。敷板の破片があたり一面に飛散する。視野を妨げられないよう僕は腕で両目を覆った。攻撃を待ち構えるように沙夜が僕の前に立ったけれど、第二の攻撃はなかった。緊迫した空気が一室に充満する。
「ち、なんなんですかね。全て計画通りって腹積もりですか?」死神憑きの低い声。
「お前が……、死神憑き?」
こいつが死神憑き――なのか。真っ黒のトレンチコートに包まれた小柄な体躯。予想していなかった死神憑きの容姿に僕は困惑していた。右手に持っている黒い鎌はたしかに物々しかったが、死神という名前のインパクトから、もっと悍ましい姿の憑きものを予想していたからだ。こいつの見た目は脅威の感じさせられない非力な少女だ。もしかすれば死神憑きの中でも弱いほうなのではないか、そんな根拠のない想像が過る。しかし、そんな浅はかな妄想など抱くなというように、大榎が厳しい口調でいった。
「思ったよりも、事態は深刻なようね……」ふうとため息をもらす。「見た目に騙されないことね。あなたの方が妖力は上でも、実力は圧倒的にあの子の方が上よ。そして、なんといっても死神憑きにしては、気性が荒いわ」
大榎の言葉に僕は息を呑む。
「……かまうもんか。やらなくちゃいけないんなら、やれることをやるしかないでしょう?」
「たく、言葉だけは勇ましいわね」
握る手に力を加えていく。じわりと滲み出た汗も気にならなかった。死神憑き相手にどのように闘えばいいのか、まるで見当がつかなかったけれど、せめて態度だけはと、勇ましさを演じるようにした。死神憑きから意識を放さないよう心がけながら、僕は二人の憑きものを見やる。
「沙夜、アネモネ。頼む」
「はい」と沙夜が真剣な面持ちで力強くうなずいた。
「いつでも……」アネモネが間宵の身体を優しく床に寝かせ、足を開き、闘いの構えを取る。
「本当に、死神憑き相手に、これっぽっちの戦力で闘うというのね。主と憑きもの共々に大ばかね。あたしも含め……」大榎とあずきも体勢を低くし、身構えた。
少女は顔だけをこちらに向ける。死神憑きは百センチ程度しかない身長であるにもかかわらず、まるで遥か高い地点に立って、取るに足りない脆弱な生物を見下すような目つきをしていた。そして、その目はなにごとにも興味がなさそうでもあり、肉食獣のように鋭くもあった。死神憑きは僕と間宵を交互に見たあと、静かにいった。
「ええ、そうです。ボクが死神憑き、名をマリーといいます」
聞けば聞くほど、不思議な声色だった。無機質でいて無感動であり、脅迫的なそんな声。わかっていることだったが、こいつはただの子どもではない。その実感を改めてさせられた。感情が掴めない。ひたすらに存在がぼけている。
「お前が……間宵に……」ただひたすらにこみ上げてくるのは怒りばかりだった。死神憑きを前にして腸が煮えたぎった。怒りで脳内がから回ってしまい、言葉がうまく紡ぎだせない。
「ち、不服そうな顔してやがりますが、げんなりしているのはこっちなんですよ」こきりこきりと何度も首を鳴らす。「何日もの間、閉じ込められていたんですから。人間の身体は窮屈ったらないです」
「どうしても、間宵の命を奪うつもりか?」説得しても無駄だと知っていたが、訊ねてみる。
「その娘の身体の中であなたたちの話は聞かせて頂きました。助けたいそうですね。それはむりなお話です。ボクは藤堂間宵を殺します。……それにしても、人間というのは、どうしてそこまでして生きたがりやがるのですか?」考えるまでもない問いを本当に不思議そうな声色で訊ねてくる。「ボクはどうにもあほらしく思えてしまいやしてね。よわっちい存在であるくせに、生きたい生きたいと吠えて、叫んで、嘆いて、喚いて――あほらしい。……死んじまえば楽だ、なーんて頭の悪いことはボクはいいません。死んだらつらいに決まっています。死ぬのは痛いしつらいのです。だからすべての生物は生きたいと思うのです」
死神憑きに場を支配されてしまったかのように、僕を含めて、動こうとする者はいなかった。
「ですが人間は好んで食生活を乱したり、煙草を吸ったり、大酒を食らったりするじゃないですか。それでいて、病気を患ったら『お医者様ー』と助けを求める。矛盾しているんですよ。なのに、その娘が死んだら可哀想ですか? ばからしい。死んじまったから、助けたいですか? それとも大切だから、助けたいですか? どちらにせよ、とんだ愚かものですね」
死神憑きは独言を続ける。手前勝手な独言を――。
「元来、“死”というのはもっと身近にあるべきものなのです。生きていることがおかしいのです、異常なのですよ。そんなこと野生の動物たちは気がついています。けれど人間はどうです? 死ぬことをまるで遠くに浮かぶお星様のように扱う。遠い未来のことだから、私には関係がないといい聞かせているんです。だから、大切な人が不意に死んだとき、ショックを受けるんですよ。傲慢な人間は当然のことに対して、『ああ、やっぱり』とは思わないでしょう、『そんなの聞いていない!』というように逆切れを始めやがるのですねえ」
「お前は……なにがいいたいんだ?」僕はおずおずと声を発した。
すると死神憑きは、掲げた鎌をくるりと回して、戦闘の意思表示を見せた。そして凄んだ声で怒鳴る。
「みっともねえんですよッ! 死ぬと決まったら潔く認めちまいなさいッ! その娘に“生きる権利”なんてねえんですッ!」
「ばかいうな。生きる権利は誰にだってあるはずだろ……。生きている人間が、生に縋りついてなにが悪いんだ!」
僕は必死の思いで抗弁した。他の人がどうかなど知らないが――
間宵は――認めていた。
「生きる権利は誰にだってある。……本当にそうでしょうか?」
「……なにがいいたいんだよ」
「……いえ。彼女は生きる権利を失ったはずです。生きる権利なんてねえのです。だってその小娘は死んだんですよ? そしてボクと契約もすでにすましてある。ならば、ボクに妖力を捧げるのが道理というものじゃねえですか?」
こいつは――本気でいっているのか。
「ふざけるなッ!」
「藤堂敦彦……! 耳を傾けちゃダメよ。あいつのいうことは、“筋が通っている”のだから」
大榎悠子にそういわれ、僕は振り上げたこぶしをすっとおろした。
――そんなの不条理だ、といいかけて、僕はやめた。なんせ憑きものの世界の常識は、常人が理解できる範疇を越えるのだ。素人である僕が知らない世界の常識。だから、僕にとやかくいえる権利はない。もう、覚悟を決めるしかないのだ。彼の意見を聞き入れて、それでも身勝手なまま僕らは死神憑きを討伐する、そんな覚悟を――。
「でもまあ、無理を通せば道理が引っ込む。その考え方は嫌いじゃありません。いいですよ。この子を解放してあげても、ただし……」
死神憑きから漂う異様な雰囲気。そして連想される禍々しい感情。これはただの恐怖ではない。それは意識とか、思考とかをすべてを度外視して流れ込んでくる、はっきりとした畏怖。もしや、こいつにもアネモネと同様、苦痛を連想させるような力があるのだろうか。だとすればアネモネの比ではない。それ以上に襲う恐ろしさがあった。いうなれば――死の重圧。
「もしボクを殺せるのならば――の話ですけど」
そこで死神憑きは甲高く笑った。彼女が笑うと口の奥から、びっしりと並ぶ尖った歯が覗けた。その背筋が凍るほどの醜悪な笑みに少なくとも一瞬、アネモネさえもが怖気をなしたように呼吸を止めた。「ひッ」と沙夜が悲鳴を上げた。僕の頭が真っ白になる。闘うと決めていたはずの腕が動かない。恐怖で身が竦んでいるのだ。視線を死神憑きに向けていられない。重力に負けて沈むように首が脱力し、気がつけば視線は床を向いていた。
死、死、死死死死死――……。脳内すべてが死の意識で埋め尽くされる。なんとか震える身体で向き合おうとした。自分自身に発破をかけるように、震える足を何度も殴った。臆していてはいけない。現状と、死神憑きと――向かい立たなくてはならない。
それでも――。
顔が上げられない。足が竦んでいる。脳からの信号を全身が拒絶しているのだ。
情けない! なにをしている!
助けたいんじゃなかったのか!
覚悟を決めたんじゃなかったのか!
どうして僕の身体はこんなに震えているんだ。踏ん張れ。気張れ。闘わなくてはならない。なのに、たった一歩が出せない。どうしても始めの一歩が出ない。
その時――。
――ドン。
鈍い音がなった。屋敷の床が小さく振動する。大榎が一歩踏み出したのだ。彼女は優雅ささえ感じられる挙動で――一歩だけ歩みを進め――中央にたたずむ死神憑きに視線を投じる――。そして――
「うぬぼれないでくれる?」
――笑った?
「憑きもののくせして人間さまに盾つくつもり? 生意気なのよ、あなた。何様なの?」
「ボクの妖気を当てられて一切動じないだなんて、生意気ですね。あなたこそ、何様なんですか?」
「何様か? ええ、なんていったらいいかしらね? あなたのターゲットである藤堂間宵。それのばかな兄貴の高潔な担任教師様。……うーん、決め台詞としてはちょっと長いかしら? ややこしいのよね、関係が……。そうね、いわゆる――」
大榎はふんと小さく鼻を鳴らした。袴姿で髪をはためかせるその姿に僕の鳥肌が立った。また一歩、また一歩、距離を詰めていく。こんな恐怖にさらされて平常心でいられる彼女の神経が、同じ人間のものであるようには思えない。ついに二メートルほどの間合いまで接近した。死神憑きと対立した大榎悠子はにんまりと笑い、挑発するようにぱちんと鳴らした指を死神憑きに突きつける。
「――憑きものを殺す、プロフェッショナルよ」
次回 ▷ #43「無力、憤懣、怒涛」
日時 ▷ 未定(出来れば明後日!)




