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小娘つきにつきまして!(2)  作者: 甘味処
2幕 研究の噺
10/51

#9 藤堂間宵、アメリカへ(間宵・回想①)

◇◆挿絵(By みてみん)◆◇


 わたしが留学した先は、アメリカのカリフォルニア州、サンフランシスコにある小さな中学校でした。小説や映画、ドラマで描かれるアメリカの気候や町並みと現実とに、それほどのギャップは生まれませんでした。


 ホームステイで一年間お世話になったグレゴリー家の方々は、海外のホームドラマさながら温かな家族でした。

 世帯主であるフォルスさんはとても愉快な方で、初めての海外ということで不安だったわたしを一所懸命に笑わせようと、日々なにかしらのサプライズをしてくれました。アメリカにいる間、彼に助けられた経験は数えきれないほどあります。

 そんな彼の妻であるエラさんはわたしに対してとても優しく接してくれ、困った時の相談役を請け負ってくれていました。彼女の得意料理であるアップルパイはとびきり美味しかったです。

 ファルスさんとエラさんの間にはアニスというわたしと同世代の子供がいて、彼女は懇切丁寧にわたしの面倒を見てくれました。手取り足取り、海外での生活の仕方についてわたしに教えてくれたのです。


 また、学校で知り合ったみんなは、アニスを仲立ちにして気さくに話してくれ、鳴り物入り、というよりも、わたしのことをきちんとクラスの一員として扱ってくれました。

 時には喧嘩し、時には笑い合い、時には皆で必死になって課題に取り組むといった姿勢は、言語が違うだけで日本と似通ったものであるとわたしは感じました。


 育ての親である斉藤京子さんに思い切って海外留学を申し出た時は、内心ひやひやしました。両親を亡くした時からずっと世話を焼かせてきた恩人に、そこまでのわがままを通していいものかと、そんな後ろ暗さがあったのです。だから反対されたら素直に諦めるつもりでした。


 彼女と武史たけしさんは、わたしの背中を押すように、快く承諾してくれました。

 あの時、わたしは感激のあまりに涙さえ流してしまいました。

 なんとしてでも“とある目的”のため、若いこの時期に国外へ留学したかったのです。


 というのも――。

 わたしには夢がありました。


 きっと、職業として認められてはいないのでしょうが、生物学者というのが表現的には一番近いものなのでしょう。

 “とある生物”を徹底的に研究し、その存在を解明する。

 それがわたしの一生涯かけても追究したい題材であり、目的なのです。


 わたしのひとみだけに映る不可解な生物。いえ、厳密にいえば、彼らが生きているのかどうか定かではないですが――。

 “それら”の形状はまちまちで、狐であったり、犬であったり、蛇であったり、生きてきて今まで様々な姿の“それ”を目撃してきました。

 しっかりとした実像を持っているそれらの生物。けれども、他の人たちはみなが口をそろえて「見えない」というのです。始めは幻覚の一種であると思い込んでいたけれど、どうやら勝手は違ったようです。わたしにはどうしても“あれ”が幻だと思えません。


 ネットで検索してみても、ざっと目を通しただけで“それ”についての記事は数多あり、どれが真相なのかわからないというのが現状です。

 幽霊、怨霊、動物霊、妖怪、呼び名だけでもそのバリエーションはごまんとありました。

 しかし、所詮はネットの世界。荒唐無稽なことが書かれている記事もない交ぜになっていることでしょう。いいえ、むしろ真実を記しているサイトは本当にあるのでしょうか?


 そのようにして“それ”の正体について調べていくうちに、段々と強い興味がわいてきました。始めのうちにあった恐怖心がやわらぎ、それは次第に強い探究心へと変わっていったのです。それと同時に、「全人類探しても見えているのはわたしだけなのではないか?」という錯覚を起こし、使命感すらも生じるようになりました。


 そしてとある日、ふと思ったのです。

 はたして、世界共通で“それ”は見えるものなのか。

 このテーマにおいては、興味が尽きることはありません。


 それだけの確乎たる信念があったので、わたしは留学を決めたわけです。

 向こうに行けば、なにかがわかるだろうと確信めいたものを感じていました。


 そういう事情があり、わたしは広大なアメリカの大地に足を踏み入れたのです。


 アメリカに到着してすぐに二つの発見がありました。一つはアメリカでも“それ”が見えるということ。もう一つは、アメリカには日本では見かけなかった“それ”がいるということです。

 そういった発見があるたびに、気分が高揚し、この調子でいけばもっと詳しいことが知れるだろうと期待しました。


 しかし、現実はそうやすやすとうまくはいかず、結局わからないことだらけで、それらの存在はわたしの頭に疑問符を浮かび上がらせるばかりでした。

 予想はしていましたが、アメリカも日本と変わらず、その手のオカルト話についての流言飛語が至る所で飛び交い、真相らしきものは一切見えてきません。


 これ以上の発見はないだろう、と諦めかけた時にわたしは出会ったのです。

 自身のことを“憑きもの殺し”だと名乗る、マリア・フランクリンという一人の女性に――。



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