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藤宮透子は混乱の極みにあった。

中学の学校長に快く思われていないことは知っていた。


けれどまさか卒業式で晒し者にされるとは思ってもいなかった。

勉強を頑張りその成果を知ることは透子のたった1つの意地といえた。


学校長の息子が掴み掛って殴られそうな程に憎しみを込めて睨んできたことは1度や2度ではない。


けれど勉強だけは必死に頑張った。

ノートも買えず鉛筆も買えず時には教科書すら無くした。


教科書はその日の授業の分を暗記して学校へいくようにした。

黒板に書かれた内容は全て暗記して何度も何度も脳裏で思い描いた。


学校の試験は端末を使ってのリアルタイムで行われるものだったから、学校長には不正な関与はできなかったのだろう。


こうして3年間に渡って透子は学年主席を守り通した。

けれど教科書やノートを持ち歩かず、学校長の意向を汲んでか教師の受けが悪い透子は成績は悪かった。


だが、まさか、こんなことになるなんて……。





卒業式の壇上に上がるように言われ、そこに茫然と立ち尽くす。

眼下には全校生徒と卒業生の父母がおり、皆がわたしを見ていた。


そして財団法人能力測定開発機構の人が最後の測定『運命の日』を今ここで行うという。


これまでロクな毎日ではなかったけど、ここまで人としての尊厳を欠片ほども持たせてもらえなかったことはなかった


こんな容姿に生まれたから、親にも捨てられたから、能力がないから

一体どこであたし自身の努力や想いを見て取れるんだろう?


けれど透子は知っている。

こんな状況であっても助けはないことを。

またいつも通りに嘲笑の的となり心に傷を増やして学校を後にするだけなのだと。


そうして目の前に財団法人能力測定開発機構のスタッフが測定を開始すべく準備を行い始めた。

いざ測定を始めんとするそのとき、透子はみた。

透子ではなく、嘲笑っている生徒や教師、父母を見て蔑んだ眼をしたスタッフの人の目を。


救われた想いだった。

ただの1人でもこの状況をおかしいと意思表示してくれた。

透子のためでなくて良かったのだ。


それだけで今日一日を生きた甲斐があったと思わせてくれた。

こんな卒業式になってしまったけど、最悪の日にはならずに済んでよかったと思えた。


心の中で感謝をしつつ、それでもこのスタッフが『能力なし』と告げるのは歴然とした事実だ。

けれども気持ちの整理はとっくにできている。


長年覚悟をしてきたことの、最終通告を言い渡されるだけのこと。

ある意味それがこのスタッフの人で良かったと思う。


測定機器がいくつか身体に付けられた。

己の額に手が翳されれば結果が出るのはもうすぐだろう。


透子はそっと目を閉じる。

さすがに心穏やかにとはいかないは、みっとも無く狼狽えはしない。

それが、透子のもつ細やかなプライドといえる。


と、そのとき足元から熱を感じた。

続いて指先からも同じように熱を感じた。


なるほど、運命の日は特別な測定だとは聞いていたが、こんな感覚を覚えるものか。

透子はそう思い早く終わらないかと若干の動揺を隠せずにいた。


だが熱を帯びた個所は徐々に全身に広がっていった。

さすがに異常を感じた透子は眼を開く。


そこには驚愕を通り越し恐慌状態ともいえるような表情をうかべたスタッフの人がいた。

そしてやけに顔が光っていると思えば、光り輝いていたのは己の身体だった。


一体何事が起きたのかと、周囲を見渡そうとしたそのとき。

財団法人能力測定開発機構のスタッフが突然に透子の手を引き足早に体育館を後にした。


体育館履のままの透子を連れ駐車場に止まっている乗用車に乗り込まされ、スタッフの人は運転席に座った途端にエンジンをかけ猛スピードで走りだした。


透子はなにがどうなっているのか訳が分からなかった。

わたしの荷物は?この人測定機器置きっぱなしなんじゃ?卒業式は?測定結果は?どこにいくの?あの光はなに?


だが、疑問はなに1つとして口に出ることはなかった。


目の前で懸命に車を走らせる人が余りにも真剣な顔をしていたから。

壇上で嘲笑の的になっていた透子に蔑んだ眼を向けなかったから。


なんとなく、この人は悪い人ではないと思ったのだ。

とにかくなに1つとして状況が理解できないが、いまは大人しくしておこうと決めた。


そういえば、車の助手席に乗ったのは生まれて初めてだ。

学校行事で乗った観光バスと路線バスしか知らない透子には、普通車は未知の乗り物だった。


隣で運転しているスタッフの必死な思いなどどこ吹く風。

透子は初めてのドライブに軽く好奇心をくすぐられ、外の景色を眺めていた。


そして財団法人能力測定開発機構本部に到着し物語は始まっていく。

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