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藤宮透子の朝はいつも決まって早い。

5時半に目覚め、朝食の用意を始めるためだ。


当然のように目覚ましなしで起きる。

音がうるさいと怒られないためだ。

なくても起きれるようになるまで随分と苦労した。


ゆっくりと雑魚寝の大部屋を抜け出し台所へと向かう。

14人分の食事を作り続けてもう9年になる。

小学校に入学と同時に役目を押し付けられた。


まずは大きな炊飯器でお米を10合炊く。

次に大きな鍋でわかめ入りの味噌汁を作る。

最後に昨晩の残り物と自家製のお漬物を切って終了だ。


育ち盛りが多いので質素な献立に怒鳴られるだろう。

けれど透子にはどうしようもない。




ここは中島児童養護施設という。

主に家庭環境の悪い児童や本人の素行の悪い場合に預けられる施設だ


その中で親に捨てられたのは透子ただ1人。

こんな環境の中でも人間に順位をつけたがる輩はいる。

唯一親のいない透子は絶好の標的となった。


トイレ掃除は当然のように毎日やらされる。

ご飯が足りないと取られることなど日常だ。

食事の当番表などあってないようなもの。


けれども透子は耐えていた。


そんな施設から出れるのは学校へ行くときと買い物に出る時だけ。

毎朝洗濯を済ませて干し終わってから学校へ行く。


学校は安息の場といえた。

なんといっても授業中はイジメに合わずに済むからだ。


休み時間などはクラスメイトから罵られたりもしたし、登下校時には嘲笑の声と視線を避けることはできなかったけども。

教師や周囲の大人たちは決して透子を助けたりはしなかった。


だけども透子は耐えていた。




透子は忍耐強いわけではない。

ただ心の底から『こんなわたしはイジメられても仕方ない』と思っていただけだ。


生まれてから優しさに触れたことはなかった。

助けを求めて得られたこともなかった。


透子は身に沁みてわかっていたのだ。

己には当たり前に得られるものが数少ないことを。


それは偏に2つの要因にあった。

外見と能力だ。


透子は醜かった。

強烈な醜さとまでは言わないが100人のうち100人は醜いというだろう。


能力においても測定の度に嘲笑の憂き目にあうほどに無かった。

この世界では人の優劣を決めるにあたって能力は高い地位をもっている。


人は生まれたときに定められた宿命をもっているとされる。

それは生まれてすぐに1回目を、5歳で2回目を、10歳で3回目を、そして15歳で最終的な能力が決定される。

1~3回目の測定はただの成長測定といい、異常なく子どもが育っているかの確認と言われている。

4回目の測定を皆が『運命の日』と呼び家族で盛大に祝う日とされている。


透子は3月31日生まれだ。

施設の前に捨てられていたのがその日だったから。


中学校の卒業式は3月15日。

高校の入学式の前までに測定を行わなければならない。


だがこの中学校で3月15日~高校入学までの期間に誕生日を迎えるのは透子1人だった。

学校の校長は透子が気に入らなかった。

自身の息子は優秀であったが透子のおかげで3年間で一度も学年主席を取ることができなかったからだ。


故にこの校長は透子に能力がほぼ皆無であることを全校生徒の前で見せることで溜飲を下げようとした。

1~3回目の測定結果は全て『数値ほぼ0、成長の見込みなし』と出ている。


全校生徒と卒業生の父母の揃う中でそれが読み上げられる光景を思い浮かべれば笑いがこみあげてくる。

3年間の屈辱の日々に耐えた愛する息子にそれを伝えれば大喜びをしていた。


最高の卒業プレゼントだよ!と高校へ進んでからの更なる努力を約束してくれた。





そしてその日はやってきた。

1名の測定を行う旨を壇上で発表し、それが藤宮透子であると分かったとき体育館に嘲笑の声がいくつも聞かれた。


1~3回目の測定は専用の機器を使うだけだが、最終測定の運命の日には公的機関である『財団法人能力測定開発機構』から特殊な測定機器を携えた能力開眼の異能をもったスタッフがやってくる。


そのスタッフが壇上に上げた藤宮透子と好奇の目で見る生徒と父母を交互に見てはなにやらもの言いたげな顔をしている。


学校長がマイクを握り盛大に測定の開始を促せば軽薄そうな輩からの拍手まで飛び出す。

これらの光景に苦い顔をする父母や生徒の顔もいくつかは見て取れるが少数といえた。


機構のスタッフが機器を取り付け藤宮透子の額に手を翳す。

誰もが知っている能力開眼のためのものだ。


そして誰もが『能力開眼なし』と言い渡されることを予見していた。

だが、誰もが予想もしなかったことが起きる。


機構のスタッフは『財団法人能力測定開発機構最重要要綱 13条第27項 測定時における対応』と書かれた擦り切れるまで熟読したマニュアルの一部を脳裏に浮かべていた。


そこにはこう記されていたはずだ。

『能力発現時に識別色で白及び白に準ずるモノを確認した場合………』


目の前には鮮やかに輝く白色の光が溢れていた。

余りの光量に目が眩むがこの有能なスタッフは即時にマニュアル通りの行動を開始する。


すなわち『その存在を即時゛保護゛し財団法人能力測定開発機構本部へと案内すべし』というものだった。


中学校の卒業式であった3月15日、藤宮透子は何が起きたのかわからないまま高速をひた走る車の中で1人パニックに陥っていた。

この後待ち受ける己の運命などなに1つ知ることもなく………。

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