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【全自動DIY】ホームセンター店員、意思を持つ「家」に転生する。〜釘一本から始める異世界建築、気づけば究極の魔導城になっていた〜  作者: ねこあし


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第9話 黄金比のコンパスと、現場の「現物合わせ」

「……計算が合わないわ。このボロ家、なぜ沈下しないの?」


 外に立つ宮廷魔導建築師アウラ・マナは、苛立ちを隠さず眼鏡を押し上げた。彼女が持つ巨大なコンパス型の杖『黄金の比率』が、不規則な魔力の火花を散らしている。


 彼女の背後では、大きな荷物を背負った小柄な従者が、怯えたように耳を震わせていた。フードに隠れてはいるが、時折覗く耳の形は獣人のものだ。彼女こそ、帝国に徴用された農業のエキスパート、リリだった。


(なるほど、あの従者の娘がリリか。アウラに怯えているようだが……彼女の植物に対する知見は、後々わが家の庭(家庭菜園)には欠かせない資材(じんざい)になるな)


 俺がそんな「採用計画」を練っている間にも、アウラの次なる攻撃が始まった。


「いいわ。地盤が固いなら、構造体そのものを分解するまでよ。――建築魔法『腐食のシュプレヒコール』!」


 彼女が杖で円を描くと、ドス黒い魔力の霧が俺の外壁へと押し寄せた。木材を腐らせ、鉄を錆びさせ、あらゆる建材を数秒で土へと還す、建築師にとっては最悪の呪いだ。


「あ……仙太さん、危ない! あの魔法、右側の壁の『ふし』のところに魔力が集中してる!」


 リビングで窓の外を見ていたミアが叫んだ。彼女の『魔力感知』は、アウラの魔法が「構造の弱点」をピンポイントで狙っていることを見抜いたのだ。


(助かるぜ、ミア! 弱点が分かれば、そこを重点的に養生するだけだ!)


 俺は即座に【超絶DIY】を起動した。


 外壁の表面に、魔力で精製した「高純度フッ素樹脂コーティング」をミリ単位の厚みで噴霧する。さらに、ミアが指摘した「節」の部分には、裏側からチタン合金並みの強度を持つ「補強プレート」をDIYで打ち込んだ。


 ジジジ……と嫌な音がするが、アウラの腐食魔法は、俺の最新防汚・防食コーティングの前に、水弾きの良い撥水処理のように弾かれていく。


「なっ……魔法を『弾く』外壁!? 漆喰でも石材でもない、この滑らかな被膜は何なの!?」


『アウラ殿。黄金比だか何だか知らないが、現場の状況は刻一刻と変わるんだ。図面通りにいかないのがリフォームの常識だぜ』


 俺は地下のデジタル掲示板だけでなく、外壁のテクスチャを一部操作し、アウラの目の前の地面に大きな「文字」を土台ごと隆起させて表示させた。


「……文字? 『現場の常識』……? 貴様、私を愚弄する気!?」


「ア、アウラ様、もうやめましょうよぉ……。あの家、なんだか生きてるみたいで気味が悪いです……」


 リリがアウラの裾を引くが、プライドを傷つけられたエリート建築師は止まらない。


「黙ってなさいリリ! 空間の支配権を奪い取るわ。――領域建築『絶対零度の回廊』!」


 彼女が杖を高く掲げると、俺の周囲の空間が歪み始めた。


 家の「外」からではなく、空間そのものを書き換え、俺の「中」の温度を絶対零度まで下げて、住人ごと凍結させようという算段だ。


(空間への直接干渉か。魔法使いらしいやり方だ。だがな……)


《警告:内部温度の急激な低下を検知。……対策を開始します》


「寒い……っ、仙太さん、急に冷気が……!」


 ミアが肩を震わせる。


 俺は即座に、家中を巡る「遮熱・断熱システム」を戦闘レベルに引き上げた。


 壁の中に充填された「高性能真空断熱材」を二重化し、さらに、家のコアから発生する余剰熱を、床下の「蓄熱式床暖房」へと一気に送り込む。


 さらに俺は、アウラが書き換えようとしている空間の「座標」を、俺のDIYシステムで逆にハッキングした。


(お前の『空間設計図』、レイヤーが多すぎて処理が重いんだよ。もっとシンプルに「最適化」してやる!)


 俺はアウラの魔法が構築している「冷気の循環路」を、DIYの配管技術を応用して強引に曲げた。


 部屋の中に流れ込むはずだった絶対零度の冷気は、俺が壁の中に作った「バイパス配管」を通り――。


「え……? 魔法が、逆流……!? 寒っ、冷たあああいいい!?」


 あろうことか、アウラ自身の足元から、彼女が放った冷気が噴き出した。


 自業自得の「バックドラフト」ならぬ「バックフロスト」だ。


「ヒッ、ヒィィッ! 凍っちゃう、アウラ様、凍っちゃいますぅ!」


「バ、バカな……私の計算が、上書きされた……? 空間の構成難易度で、このボロ家に負けたというの!?」


 アウラは震える手で杖を握り直すが、足元はすでにガチガチに凍りつき、お気に入りの高級ブーツが地面と接着(フリーズ)してしまっている。


(さて、仕上げだ。ミア、キッチンのコンロにある『ボタン』を押してくれ。外のお客様に、温かいおもてなしの『排気』をお届けする時間だ)


『ミア、今だ。換気扇のブーストスイッチを入れろ。設定は「強」だ』


「わかったわ! えいっ!」


 ミアがボタンを押した瞬間、俺の屋根裏に設置された大型換気ファンが、凄まじい速度で回転を始めた。


 吸い込むのは、地下のゼイルたちから回収した「排泄物の臭気」と、俺の建築プロセスで出た「微細な粉塵」、そして先ほどのお風呂の「湿った蒸気」。


 それらをミックスした、精神的にも物理的にも不快極まりない「現場の排気」が、アウラの顔面に向けて一直線に噴射された。


「……っ!! 臭い! 汚い! 何なのこれ、耐えられないわ!!」


 潔癖症気味のアウラにとって、それはどんな攻撃魔法よりも効果的だった。


 彼女は泣きそうになりながら、凍りついたブーツを脱ぎ捨て、裸足でリリと共に後退していった。


『アウラ殿、これが「現場の空気」ってやつだ。黄金比もいいが、たまには換気の重要性も学ぶんだな』


 アウラは遠くで恨めしそうに俺を睨みつけ、リリを抱えて霧の中に消えていった。


「……仙太さん、追い払えたみたいね。でも、あのアウラって人、次はもっとすごい道具を持ってくる気がする……」


 ミアが安堵の息を吐きながらも、不安げに呟く。


(ああ。あいつは「素材」としても「技術」としても一流だ。次に来るときは、逃がさずわが家の「設計主任」として雇用(キャプチャ)してやるさ)


俺は、アウラが残していった「黄金のコンパス(杖)」を魔力の触手で回収した。 それは、リサイクルすれば「空間拡張」のための貴重な触媒になる最高級の資材だった。


夜の荒野に、俺の新しい「排気システム」の低い駆動音だけが響いていた。 ボロ屋から城へ。その道のりは、帝国のエリートたちを一人ずつ「現場」に引きずり込むことで、着実に進んでいく。

お読みいただき、ありがとうございます!

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