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【全自動DIY】ホームセンター店員、意思を持つ「家」に転生する。〜釘一本から始める異世界建築、気づけば究極の魔導城になっていた〜  作者: ねこあし


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第6話 地下の静寂と、湯煙のショールーム

「おい……出せ! ここから出せ! この壁はなんだ、一体どうなっている!?」


 地下3メートル。俺が急造した「特別室(地下牢)」では、パンツ一丁のゼイル将校が狂ったように壁を叩いていた。


 だが、その拳が奏でるのは鈍い「ゴン……」という音だけだ。


(無駄だ。そこは俺が全魔力を注いで打設した、厚さ300ミリの『高強度打放しコンクリート』の空間だからな)


 俺は心の中で、ホームセンターのセメント売り場で培った知識を反芻する。


 セメントと砂、砂利、そして魔法で生成した「超減水剤」を最適配合で混錬し、気泡一つ残さず充填した自慢の壁だ。型枠には滑らかな塗装合板を再現して使用したため、表面は鏡面のように滑らかで、指先を滑らせても引っ掛かり一つない。


「……信じられん。継ぎ目が、一つもないだと? 石を積んだ跡も、漆喰を塗った形跡もない。まるで、世界そのものが一つの岩に削り出されたかのような滑らかさ……。この精度、この冷徹な質感……人間が、いや、この時代の技術で作れるはずがない……!」


 ゼイルは壁に頬を寄せ、その「平滑度(フラットネス)」の異常さに絶望していた。


 彼の言う通り、この世界には「コンクリート」という概念が無い。魔導師が土魔法で作る壁は、強度にムラがあり、これほどまでの密度と均一性を持つことはないのだ。


(機能美こそが最大の威圧になる。……さて、材料(じょうほう)は後でゆっくり吐いてもらうとして、今は上の「おもてなし」を優先させよう)


 俺は遮音材をさらに一層重ね、地下の罵声を物理的に消去した。


 一階。そこではミアが、俺が出現させた新しい「ドア」の前で、不安と期待が入り混じった顔をしていた。


「仙太さん……この奥に、本当にお風呂があるの? お湯を運ぶ魔法使いも、沸かすための大きなまきも、どこにもないみたいだけど……」


 彼女が知っているお風呂とは、精々が「樽に溜めた温い水」か、あるいは王族が使う「巨大な石造りの貯水池」だろう。


 俺はデジタル掲示板に、誇らしげな文字を浮かび上がらせた。


『ミア、ドアを開けてみろ。そこは「ホームセンター穂村」が誇る、最新型バスルーム・ショールームだ』


 ミアがおずおずとレバーハンドルを引く。


 その瞬間、溢れ出したのは「温かい蒸気」と、微かな「(ひのき)の香り」だった。


「わぁ……っ!」


 ミアが声を上げた。


 そこにあるのは、この世界の常識を遥かに超越した「リラクゼーション空間」だ。


 床は、濡れても滑りにくく、冬場でも冷たく感じない「ほっカラリ床」を再現。 壁面は、高級感のある大理石調の防水パネルを四方に張り巡らせ、コーナーにはLED風の魔石照明を埋め込んだ。


 そして中央に鎮座するのは、人間工学に基づいて設計された、滑らかな曲線を持つ「アクリル人造大理石」の浴槽だ。


(こだわりはここからだ。給湯システムは、魔法で生成した熱交換器を用いた『魔導エコキュート』。42度の設定温度を±0.5度の精度で維持し、さらに追い炊き機能も完備している)


「仙太さん、これ……お水が、勝手に出てくるの? それに、この蛇口……ひねるだけでお湯が出るなんて……」


 ミアが、壁に取り付けられた「サーモスタット混合水栓」に触れる。


 カチッ、という小気味良い操作感。俺が精密に調整したバルブが開き、適温のお湯がシャワーヘッドから繊細な水粒となって降り注いだ。


「きゃっ! くすぐったい……でも、すごく気持ちいい。雨みたいだけど、ずっと温かくて……」


『ミア、まずはその「シャワー」で体の汚れを落とせ。石鹸は棚にある。俺がスクワランと天然ハーブを配合してDIYした特製品だ。それから、浴槽に浸かれ。肩までしっかりな』


 ミアは、俺の言葉(文字)に従い、生まれて初めての本格的な入浴を開始した。


 俺は「家」として、彼女の肌を叩く水流の感触、お湯に包まれる温度変化を、リアルタイムのデータとして受信する。


「はふぅ……。なに、これ……。体が、溶けちゃう……」


 浴槽に身を沈めたミアが、縁に頭を預けて溜息を吐く。


 お湯の浮力によって、逃亡生活でこわばっていた彼女の筋肉が、目に見えて弛緩していくのがわかった。


(いい反応だ。これこそ、DIYがもたらす最高の報酬だよ。……おっと、お湯の濁りを感知。皮脂汚れだけでなく、彼女の中に溜まっていた『魔力の澱み』までもが、この高濃度炭酸泉によって排出されているのか?)


 どうやら、俺が精製したお湯には、魔力を浄化する作用も意図せず含まれていたらしい。


 ミアの銀髪が、お湯の中でキラキラと輝きを取り戻していく。


「仙太さん……。私、ずっと寒かったの。心の中も、体も。でも、ここに来て……あなたの『中』に入ってから、ずっとポカポカしてる……」


 ミアの声が、湯気の中に溶けるように響く。


 彼女は目を閉じ、心底幸せそうに、俺が作った「究極のプライベート空間」に身を委ねていた。


(喜んでくれて何よりだ。だがな、ミア。これはまだ『リフォーム第1段階』に過ぎないんだぜ)


 俺は、彼女が風呂から上がった後に着るための「オーガニックコットン100%のタオル」と「吸水速乾性のルームウェア」を、脱衣所の棚にそっと出現させた。


 それももちろん、俺の【超絶DIY】で、素材の繊維一本一本から編み上げた特注品だ。


 さて。


 彼女が癒やされている間に、俺は地下の「資材(じょうほう)」の整理に戻るとしよう。


 ゼイルが絶望していた「コンクリートの壁」だが、実は一部をマジックミラー状の「強化ガラス」に変換してある。


 俺は地下の掲示板に、新たな文字を表示させた。


『さて、ゼイル将校。お前たちの帝国の技術では、この壁に傷一つ付けられないことは理解したか? ……次は、お前たちの「軍事機密」という名の資材を、俺に提供してもらう時間だ』


 静かな地下室に、俺の無機質な文字だけが浮かび上がる。


 ミアの穏やかな入浴タイムの裏側で、俺の「城造り」のための冷徹な情報収集が始まった。

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