第51話 世界の果てのホームセンター! 前任者との「最終見積もり」
「……ここが、すべての始まりで、終わりか」
エデン・エクスプレスが停止したのは、色のない、ただ真っ白な空間だった。
空も地面もなく、ただ「効率」という名の概念だけが支配する極限の虚無。その中心に、かつて俺が店長を務めていた『オリジン・ホームセンター』のプロトタイプが、亡霊のように佇んでいた。
「……仙太さん、見て。お店の周りに……」
ミアが息を呑む。
真っ白な虚無の向こう側から、無数の「線」がこの店に繋がっていた。
アイアン・ポートの蒸気、フェルティル平原の土の匂い、ロゴスのコーヒーの香り、フロストヘイムの暖炉の火、そしてスカイ・ロジックの黄金の命綱。
これまで俺たちが「リフォーム」してきた世界の断片が、オーロラのようにこの最果ての地に集まっていた。
「店長殿。……どうやら、私たちが打ち込んだアンカーは、この場所を『現実』に引き戻すための導火線となったようです」
レヴィンが眼鏡を押し上げる。その声には、未知の領域への恐怖よりも、職人としての高揚感が混じっていた。
店の自動ドアが、乾いた音を立てて開いた。
中から現れたのは、汚れ一つない純白の制服に身を包んだ男。かつて全能の力を振るい、この世界を「パッキング」した前任者――ギリアムだった。
「……遅かったな、臨時店長。いや……『元・全能の不完全個体』と言うべきか」
ギリアムの瞳には、感情が欠落していた。
彼は、かつて優秀すぎる店長だった。優秀すぎて、客の「迷い」や「失敗」が、店を、そして世界を摩耗させる「損失」にしか見えなくなった男。
「……お前が、この世界のすべての『無駄』を削ぎ落とした張本人か」
俺は、一歩前に出た。人間に戻った俺の足音は、静かな店内に重く響く。
「そうだ。……人は間違える。道具を壊し、資源を浪費し、不要な感情で作業を遅らせる。……私はそれを救いたかった。……すべてを全自動に、すべてを最適に。……それこそが、究極の顧客満足だ」
ギリアムが指をパチンと鳴らす。
すると、店内の棚に並んでいた商品がすべて消え、代わりに【商品名:幸福の完成品ボックス】という、真っ白な箱だけが積み上がった。
『……悪いが、ギリアム。……お前の店の「棚卸し」をさせてもらうぜ』
俺は、ツールバッグから一枚の、薄汚れた紙を取り出した。
それは、旅の途中で書き溜めてきた【特製:世界のリフォーム・最終見積もり書】だ。
『……お前の言う「エデン」には、一番大事なコストが入ってねぇ。……【項目:失敗の修正費】、【項目:道具への愛着維持費】、そして……【項目:誰かと分け合う不便な時間】だ!』
「……そんなものは、価値のないゴミだ。……そんなもののために、どれだけのエネルギーが浪費されると思っている?」
『……その「ゴミ」の中にしか、人間は住めねぇんだよ!』
俺は、背後に控える仲間たちを振り返った。
ルンボが、黄金の杭をハンマーに変えて構える。アウラが、禁忌のリメイク魔法をチャージする。レヴィンが、規約の書き換え準備を終える。
そしてミアが、俺の手にそっと触れた。
「仙太さん……みんなの『想い』、届いてるよ」
その瞬間、白い空間に異変が起きた。
俺たちが繋いできた「線」の向こうから、これまでに出会った人々の声が響き始めたのだ。
「店長! こっちのジャッキ、まだ現役だぜ!」(アイアン・ポートの職人)
「自分たちで耕した土は、最高に美味いですよ!」(フェルティルの農夫)
「このコーヒー、挽くのは大変だけど最高だ!」(ロゴスの若者)
人々の「生きた声」が、ギリアムの完璧な静寂を、物理的な振動となって打ち砕いていく。
「……不愉快だ。……計算外の『ノイズ』が、私の完成したシステムを汚している。……ならば、その源流である貴殿らを、物理的に『在庫処分』する」
ギリアムが背後の巨大なバックヤードを指差す。
そこから現れたのは、俺たちが乗ってきたエデン・エクスプレスを黒く塗り潰し、武装化したような、『終焉の物流貨物・アポカリプス・デリバリー』。
「店長、あいつ……私たちの『思い出』を、攻撃エネルギーに変換してぶつけてくるつもりよ!」
アウラが驚愕の声を上げる。
前任者は、人々の想いさえも「効率的な燃料」として再利用しようとしていた。
『……最高の皮肉だな。……だったら、俺たちは「最新の在庫」で対抗するまでだ!』
俺は、オリジン・ナビを介して、本店の最深部へアクセスした。
『……これが、俺たちの旅の集大成だ。……お取り寄せ! 【商品名:全住民参加型・多用途・巨大修復重機『絆・ドリル』】!!』
白い空間が、激しく揺れる。
ギリアムの「冷たい完璧」と、俺たちの「泥臭い情熱」が、世界の果てで激突する。
俺の右手にある万能レンチが、今までで一番熱く、眩しく輝いていた。
人間に戻ったからこそ感じる、腕の痛み、鼓動の速さ、そして仲間への信頼。
そのすべてが、この最後のリフォームに必要な「最高の資材」だった。
『……ギリアム。……お前の「完璧」を、俺が最高の「不完全」に直してやる! ……見積もり以上の結果、見せてやるぜ!』
最終決戦。
ホームセンター店長・仙太の、最後にして最大の「仕事」が始まる。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!




