第5話 粗悪品の回収(リサイクル)と、DIY(どえらい・痛い・目にあった)将校
「う……動けん。おい、剥がせ! 皮が剥げてもいい、早く俺をここから引き剥がせ!」
玄関先では、帝国の回収班リーダー――ゼイル将校が、ポーチのタイルに顔面を密着させたまま、情けない声を上げていた。
彼の自慢だった帝国製軽銀の甲冑は、俺が即興で調合した「超強力瞬間接着剤」によって、いまや玄関タイルと完全に一体化している。
(やれやれ。騒がしい客だな。施工主としては、ポーチを汚されるのが一番のストレスなんだよ)
俺は掲示板の文字を更新する。
『静かにしろ。騒ぐとタイルごと剥離して「処分」するぞ。ミア、掲示板の横にある「緑色のボトル」を手に取れ』
「は、はい! これね?」
ミアが取り出したのは、俺が「接着」と同時に並行して精製していた『魔法の剥離剤』だ。
アセトンをベースに、魔力で溶解力を高めたDIYの必需品。これがないと、現場での失敗は取り返しがつかない。
「ミア、それを彼らの『接着面』に少しずつ垂らしてやるんだ。……ただし、装備は全部置いていってもらうがな」
俺の指示通り、ミアがおっかなびっくり剥離剤を注ぐ。
シュワシュワと白い煙が上がり、ゼイルの顔面がようやくタイルから解放された。
「ぷはっ! 貴様……何を……。……ん? なんだ、この感覚は」
ゼイルは愕然とした表情で自分の体を見た。
剥離剤は「接着剤」だけを溶かし、彼の甲冑の繋ぎ目にあるボルトや接合部を、まるで精密ドライバーで外したかのように分解してしまったのだ。
彼は今、パンツ一丁の姿で俺の玄関に転がっている。
「俺の甲冑が……帝国の魔導工房が誇る、最高級の装備が一瞬でバラバラに……!? 魔法じゃない、これは……構造そのものを分解されたのか!?」
(ほう、少しは分かっているようだな。粗悪な鋳造で作られたネジ山が甘いから、溶剤の浸透が早かったんだよ)
俺は彼らが残した甲冑の残骸を、魔力の「触手」で回収し、俺の中にある『資材倉庫』へと放り込んだ。
《素材:劣悪な軽銀、錆びた鉄、ボロボロの牛革を回収。……分解・精製を開始。高純度インゴットへと変換します》
(よし、いいリサイクルだ。こいつら、自分たちが『資材』を運んできてくれたことに気づいてないな)
ゼイルは、パンツ一丁で震えながら、俺の壁――デジタル掲示板を凝視した。
「信じられん……。この文字の鮮明さ、そしてこの『家』全体の歪みのなさ。帝国の王宮ですら、石材の継ぎ目には数ミリの誤差がある。だがここは……完璧だ。一分の隙もない。これを作ったのは、伝説のドワーフか、それとも古の神か!?」
ゼイルの驚きは、俺にとって最高の褒め言葉だった。 だが、仕事の手は抜かない。
『ミア、そこのレバーをもう一度引け。お客様を「特別室」へご案内だ』
「ええっ、またレバー!? ……よいしょ!」
ミアがレバーを引いた瞬間、ゼイルたちの足元の床が滑らかにスライドした。
これもDIYの基本、「収納」の応用だ。
「ぎゃあああああ!」
男たちが地下へと消えた後、俺は掲示板にこう表示した。
『ミア、掃除を手伝ってくれて助かった。あいつらは「材料」を吐き出すまで、地下のコンクリートの強度テストに付き合ってもらう』
「……仙太さん、なんだか楽しそうね。でも、あいつらが言ってたわ。ミアの『魔力感知』があれば、どんな隠し財宝も見つけられるって。だから帝国は、私を絶対に諦めないって……」
ミアの表情が曇る。
俺は彼女の足元に、先ほどリサイクルした軽銀を精製し直して作った、美しい装飾の「銀の髪留め」をコトッと出現させた。
『心配するな。帝国が来れば来るほど、俺の資材(建材)が増えるだけだ。……それよりミア。次は「風呂」を作るぞ。女の子がいつまでも泥だらけなのは、管理責任に問われるからな』
「ふ、ふろ……? あの、王族しか入れないっていう、お湯のプール……?」
(ああ。しかも、追い炊き機能とジェットバス付きだ。ホームセンターのショールームにあるようなやつを、ここに再現してやる)
俺は、地下からの罵声を遮音材で完璧にシャットアウトし、次なる大規模リフォーム――「24時間換気機能付き・最高級バスルーム」の設計を開始した。
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