第48話 禁断のパーツをリメイクせよ! アウラの「魔改造・移動キッチン」
「……ふぅ、ようやく全部運び出したか。身体がバキバキだぜ」
砂漠の夜。地下倉庫から回収した「禁忌在庫」の山を前に、俺はキャンプチェアに深く腰掛けた。人間に戻ってからというもの、肉体労働の後の疲労感が凄まじい。だが、この重みこそが「仕事をした」という確かな手応えでもあった。
目の前では、アウラが目を爛々と輝かせながら、全自動宮殿生成ボックス『インスタント・パレス』をバラバラに解体している。
「店長、これ凄いわよ! 物質再構成回路が最高級品。でも、使い方が最悪。……よし、これを『もっと不便で、もっと楽しいもの』に作り直してあげる!」
アウラのハンマーが、ハイテクな基板を容赦なく叩き、魔法の火花を散らす。
アウラが取り組んでいるのは、禁忌在庫の目玉だった【願望具現化・万能合成機】のリメイクだ。 そのまま使えば、望んだ料理が虚空から現れるだけの味気ない機械。それを彼女は、あえて「手動の調理工程」を介在させるように組み替えていった。
今回の魔改造ポイント
【動力源の変更】:魔力電池を廃止。【商品名:高負荷・手回し式ダイナモ】を接続。回さないと火力が上がらない仕様に。
【合成機能の制限】:食材をゼロから作るのは禁止。投入した素材の「旨味」を、分子レベルで最大化させるだけの「究極のスパイスメーカー」にダウングレード。
【UIの変更】:タッチパネルを廃止。【商品名:アナログ式圧力計と温度ダイヤル】を装備。
「できたわ! その名も、『魔導式・手回し超火力・移動キッチンユニット』! 店長、試しにこれで何か作ってみて!」
俺はアウラに促され、ハンドルを回し始めた。重い。だが、回せば回すほどユニットから芳醇な香りが漂い、砂漠の夜風をリフォームしていく。
その頃、ミアは砂漠の住民たちを集めて、ある「講習会」を開いていた。
水は手に入った。だが、彼らは長年、与えられるだけの泥水に慣れすぎて、自ら「食を楽しむ」という感覚を失っていた。
「みんな、見て。この銀色のシートを箱の中に貼るだけで、夜の涼しさを閉じ込める『天然の冷蔵庫』になるんだよ」
ミアは、俺が地下から持ち出した資材を使い、住民たちに保存食の作り方や、冷えた水の美味しさを伝えていた。
「……ミアさん、俺たち、今まで『飲むこと』しか考えてなかった。……でも、誰かのために水を冷やして待つのが、こんなにワクワクするなんて知らなかったよ」
ケイルが、手作りの氷入れを抱えて笑う。
ミアは、単なる技術指導ではなく、住民たちの「心の渇き」を、その慈愛に満ちた言葉で癒していった。
彼女は、仙太が道具を売る土壌となる「人々の意欲」を耕す、最高の営業部長であり、聖母でもあった。
「さあ、お立ち会い! 今夜のメニューは、砂漠のオアシスで獲れた硬い野草と、僅かな保存肉を使った『究極のDIYスープ』だ!」
俺は、アウラが作った魔改造キッチンを住民たちの前で披露した。
俺がハンドルを必死に回し、アウラが火加減を叫び、レヴィンが素材投入のタイミングを計算する。
『……いいか、この機械は「楽」はさせてくれねぇ! だがな、自分たちでハンドルを回して、この火加減を調整した分だけ、スープは美味くなる!』
ユニットから噴き出したのは、禁忌在庫の「嘘の料理」とは一線を画す、素材の力を引き出し切った強烈な芳香。
最初の一口を啜った住民たちは、驚愕に目を見開いた。
「……う、うまい。……なんだこれ、身体の芯から『生きる力』が湧いてくるみたいだ!」
住民たちが、自分たちもハンドルを回したいと列を作る。
全自動の宮殿には見向きもしなかった彼らが、不自由なキッチンを奪い合うようにして使い始めた。
これこそが、俺たちが地下倉庫から救い出したかった「本当の在庫」――【商品名:何気ない日常の喜び】だった。
宴が盛り上がる中、俺は独り、離れた場所で夜空を見上げていた。
そこへ、オリジン・ナビが静かに音声を送ってくる。
「……臨時店長。住民たちの精神指数の回復を確認。……ですが、この『喜び』の波及は、前任者の管理システムにとっては最大の脅威です。……次の目的地、大陸中央部にある『空中庭園都市』では、システムが物理的な粛清を開始しようとしています」
『……粛清、か。……「幸せに過ごすこと」が罪になるなんて、どんな欠陥住宅だよ』
俺は、腰の万能レンチを撫でた。
アウラがリメイクしたキッチンの灯りが、暗い砂漠を暖かく照らしている。
人間に戻った俺の身体は相変わらず重いが、心は不思議と軽かった。
『……よし、次は空中庭園だな。……高所恐怖症にはキツそうだが、いい「落下防止ネット」と「大型クレーン」の在庫なら、まだ腐るほどあるぜ』
エデン・エクスプレスのエンジンが、新たな旅立ちを告げるように力強く鼓動した。
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