第47話 地下倉庫の秘密! 禁じられた「全自動・世界改変キット」を棚卸しせよ!
「……真っ暗だな。おまけに、外よりはマシだが湿気が酷い」
俺は、ルンボのヘッドライトが照らす急な階段を、手すりにしがみつきながら降りていた。人間に戻った身体は、階段一つ降りるのにも膝が笑う。
背後では、ミアが心配そうに俺の背中に手を添えてくれている。
「仙太さん、無理しないで。ルンボに運んでもらえばいいのに」
『……いや、自分の足で踏み込まねぇと、「現場」の空気は分からねぇんだ。……それに、ルンボにはボーリングマシンの撤収作業があるからな』
ようやく辿り着いた最下層。そこに広がっていたのは、砂漠の地底とは思えないほど整然とした、巨大な「自動物流センター」だった。
埃一つない棚に並んでいるのは、俺の今のカタログ(無料版)には載っていない、禍々しいほどの光を放つ商品群。
「……警告。……これらはオリジン・カタログ第12階層【禁忌在庫】。……使用者の『試行錯誤』を完全に排除し、結果のみを提供する『毒物』です」
オリジン・ナビが、かつてないほど鋭い警告音を鳴らす。
アウラが棚の一つに手を伸ばそうとして、思わず息を呑んだ。
そこにあったのは、手のひらサイズの立方体。
【商品名:全自動・全環境対応型・即時住宅生成ボックス『インスタント・パレス』】
説明:置くだけで、周囲の資源を勝手に分解し、五秒で豪華な宮殿を建築します。メンテナンス不要。住人の努力、不要。
「……何よこれ。建築の楽しみも、間取りを悩む時間も、全部『ゴミ』として処理されてるじゃない」
レヴィンが別の棚をスキャンし、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……こちらには【願望具現化・万能合成機】があります。……材料も工程も無視して、望んだ食事や道具を『無』から生成する。……店長殿、これはもはや『商売』ではありません。因果関係の破壊です」
これこそが、前任者が目指した「究極の効率化」の終着点。
人は何もせず、何も学ばず、ただ「結果」だけを享受する肉の塊になる。
俺はこの地下倉庫を見て、確信した。前任者はこの世界を救おうとしたんじゃない。世界を「巨大な介護施設」に変えようとしたんだ。
その時、倉庫の防衛システムが起動した。
天井から降りてきたのは、侵入者の「思考」を読み取り、先回りして攻撃を仕掛ける『予見型防衛ドローン』。
「店長、こいつら私の魔法の発動を予読みして、展開前に打ち消してくるわ! 最悪の効率厨ね!」
アウラが苛立ち、魔力を霧散させられる。
だが、俺はニヤリと笑い、腰のツールバッグから「最も思考を必要としない道具」を取り出した。
『……レヴィン、アウラ! 考えるのをやめろ! ……直感だけで、このスプレーを振り回せ!』
俺が投げ渡したのは、【商品名:超高反射・遮熱シリコン塗料スプレー(工事現場用・蛍光オレンジ)】。
ドローンが俺たちの「攻撃」を予測しようとするが、俺たちはただ「壁や床をピカピカに塗る」という、戦闘とは無関係な作業に没頭した。
オレンジ色の粘着質な塗料が、倉庫のセンサーやドローンのレンズにベッタリと張り付く。
「……予測不能……。攻撃意図、検知セズ……。単ナル……ペンキ塗り……エラー……」
高度な予見プログラムは、「戦う意思のない、熱心な職人」というイレギュラーな存在を処理できず、次々とシステムダウンしていった。
人間に戻った俺の、泥臭くて迷いのある動きこそが、完璧な計算を狂わせる最強の武器になった。
ドローンを無力化した俺たちは、地下倉庫の奥から「禁じられた商品」ではなく、その裏に隠されていた「実用的な資材」を運び出した。
『……よし、この倉庫の【全自動キット】は全部封印だ。……代わりに、この【商品名:高密度・遮熱アルミ蒸着シート】と【商品名:超微細・多段式砂ろ過装置】を地上へ持ち出すぞ』
地上のオアシスに戻った俺たちは、噴き出した水が再び蒸発してしまわないよう、住民たちに「知恵」を売り始めた。
「店長さん、水があるのに、なんでこんな『銀色のシート』を地面に敷くんだ?」
『……いいか。ただ水があるだけじゃ、すぐに砂漠に飲み込まれる。……このシートで地熱を遮り、ろ過装置で水を循環させるんだ。……自分たちの手で「逃がさない仕組み」を作らなきゃ、この潤いは長続きしねぇぞ』
俺は、住民たちと一緒に泥にまみれ、シートを敷き、石を積んで貯水池をリフォームした。
身体は悲鳴を上げている。腰は砕けそうだ。
だが、銀色のシートが太陽を跳ね返し、ろ過された水が透き通った音を立てて流れるのを見た時、住民たちの顔に浮かんだのは、全自動の宮殿を与えられるよりもずっと誇らしげな、職人の笑顔だった。
作業が終わる頃、地下倉庫の管理端末が、俺にだけ聞こえる音量で呟いた。
「……臨時店長。……君ハ……なぜ……わざわざ『不便』を強いる……。……喜びとは……苦労の先にあるものではなく……所有することに……あるはずだ……」
『……お前は、プラモデルを「完成品」で買うタイプだったんだな。……俺はな、ランナーから切り離して、指を接着剤で汚しながら作ってる時間が一番好きだったんだよ』
俺は端末の電源を万能レンチの柄で叩き落とした。
「仙太さん、お疲れ様。……はい、冷えたおしぼり」
ミアが、俺の汚れきった手を優しく拭ってくれる。
『……ああ。……次は、この砂漠の熱を逆利用して、「究極のサウナ付き銭湯」でも作ってやるかな』
俺たちの旅は、まだ始まったばかりだ。
前任者が遺した「偽りの完成品」を一つずつ解体し、世界の「不完全な面白さ」をDIYで取り戻していく。
エデン・エクスプレスのエンジン音が、夕暮れの砂漠に力強く響いていた。
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