第46話 灼熱の砂漠と「禁じられた井戸」! 砂を噛むような渇きを癒せ!
「……あ、あちぃ……。……氷の国の後にこれは、嫌がらせだろ……」
エデン・エクスプレスのハッチを開けた瞬間、俺を襲ったのは、暴力的なまでの熱風と、視界を焼き尽くすような黄金の砂。
次なる目的地、砂漠の国『アクアロスト』。
かつては広大な地下水脈に支えられた緑豊かなオアシス都市だったというが、今は前任者が遺した「究極の水資源管理システム」によって、地上のすべての水分が枯れ果てた、文字通りの死の砂漠と化していた。
(……喉が、張り付く……)
人間に戻った俺にとって、水分不足は即、死に直結する。
俺は震える手で、本店の在庫から【180円のペットボトル(天然水)】を取り出し、一気に飲み干した。ぬるい。だが、これほどまでに「水」が細胞に染み渡る感覚を、全能だった頃の俺は知らなかった。
「仙太さん、これ以上外にいたら熱中症になっちゃう! はい、冷感タオル!」
ミアが、キンキンに冷えたタオルを俺の首筋に巻いてくれる。
仲間の介抱に支えられ、俺は歪む視界の先、砂丘の頂上にそびえる「黄金の給水塔」を睨みつけた。
俺たちが辿り着いた集落では、人々が泥水を啜り、ひび割れた大地を力なく掘り返していた。
だが、そんな彼らの目の前にある「給水塔」からは、澄んだ水が溢れ出し、前任者が敷設した「貴族専用のパイプライン」へと無情に流れていっている。
「……あそこに流れているのは、この土地の本来の地下水よ」
アウラが、砂を噛むような声で吐き捨てる。
「前任者は、地下水脈を一本のパイプに強制集約した。……そして、その『管理料』を払えない者は、自分の足元にある水すら飲むことが許されない……。最低な効率化ね」
「……店長殿、法的に見れば、これは『自然資源の不当占有』です」
レヴィンが、砂漠の法律が刻まれた石板をスキャンする。
「住民たちは『水を持つ者に逆らえば、供給を完全に遮断される』という恐怖の規約に縛られている。……物理的な壁よりも強固な、絶望の檻です」
『……規約がなんだ。……水がないなら、自分たちで掘り当てる。……それがDIYの基本だろ』
俺は、エデン・エクスプレスの後部ハッチを展開し、今回の主役を呼び出した。
それは、建築現場や地質調査で使われる、巨大な鋼鉄の獣。
【商品名:超硬強化ビット搭載・自律駆動型ボーリングマシン『アース・ピアサー』】
「ギギ……ボク、掘る。……オアシス……見つける!」
ルンボがボーリングマシンの操縦桿を握り、巨大なドリルを垂直に地面へと突き立てた。
ズガガガガガッ! という、大気を震わせる重低音が砂漠に響き渡る。
『アウラ、【商品名:魔導式・冷却循環潤滑油】をドリルの先端に流し込め! 摩擦熱で焼き付かせるな! ……レヴィン、ソナーを使って「新しい水脈」を探り当てろ!』
人間に戻った俺は、マシンの制御盤に張り付き、アナログなレバーを微調整し続けた。
手に伝わる振動、エンジンの唸り。
全能の力で「水を出せ」と命じるよりも、この泥臭い作業の方が、俺にはしっくりくる。
しかし、掘削が深さ三百メートルに達した時、マシンのドリルが「ありえない硬度の障壁」にぶつかった。
「……警告。……これより先は、オリジン・カタログ第12階層『封印指定・禁忌在庫』の防衛領域です。……臨時店長、これ以上の掘削は、システムの管理者権限を侵害する恐れがあります」
オリジン・ナビが、ホログラムで警告を発する。
その先に眠っているのは、かつて「あまりの便利さと破壊力」ゆえに、エデンの在庫から削除されたはずの「禁じられた商品」。
その時、黄金の給水塔から、前任者の代理人である「水の番人」が、砂の巨兵を率いて現れた。
「……愚かな。……一滴の水も、管理者の許可なく地上に出すことは許さぬ。……この地下にあるのは、お前たちのような『不浄な人間』が触れていいものではない……!」
巨兵が振り下ろす砂の棍棒。
だが、俺は引き下がらなかった。
俺の手には、本店から取り寄せた、奇妙な形状の「フィルター」が握られていた。
『……触れちゃいけねぇ? ……だったら、俺が「浄化」してやるよ。……お前らが隠している、その『禁じられた水』の正体をな!』
俺は、ボーリングマシンの注入口に、禁断のパーツを組み込んだ。
【商品名:多次元・逆浸透型・魔導浄化膜『レティシアの涙』】
それは、あらゆる呪いや毒、そして「情報の改竄」さえもろ過し、純粋な「真実」だけを抽出するという、伝説のフィルター。
「……やめろ! ……その膜を通せば、システムの……『嘘』がバレてしまう!」
番人の悲鳴が上がる中、ボーリングマシンの先端から、一本の細い光の柱が噴き出した。
それは水ではなく、かつて前任者がこの国から奪い、圧縮して閉じ込めていた「豊穣の記憶」。
『……見てろよ、砂漠の野郎ども! ……本当の「潤い」ってのは、喉を潤すだけじゃない。……未来を「作る」ためのエネルギーなんだ!』
ドリルが最後の防壁を突き破った瞬間、地底から凄まじい水圧と共に、青く輝く「聖水」が噴き上がった。
それは給水塔に独占されていた水よりも遥かに清らかで、触れるだけで枯れた大地に瞬時に緑を芽吹かせる、奇跡の奔流だった。
噴水の下で、住民たちが歓喜の声を上げ、泥だらけの顔で笑い合う。
彼らの手には、俺が配った【商品名:10円で買える紙コップ】が握られていた。
どんなに高価なワインよりも、この一杯の水が、今の俺たちには最高のご馳走だ。
「……仙太さん、やったね。……でも、これって……」
ミアが、噴き出した水の奥にある「鋼鉄の扉」を見つめていた。
ボーリングマシンが掘り当てたのは、水脈だけではなかった。
そこには、前任者が世界から隠そうとした、巨大な「地下倉庫」が眠っていたのだ。
『……ああ。……どうやら、本当のリフォームは、これからが本番みたいだな』
俺は、泥と砂にまみれた右手を、ミアが差し出してくれたタオルで拭った。
人間に戻った身体は、もう限界に近い。
だが、腰に差した万能レンチの重みが、俺に次なる「仕事」を促していた。
次は、この地下倉庫の「在庫整理」だ。
世界を狂わせた「禁じられた商品」……。
それらをすべて「正しい価格」で売り捌くために、俺たちの旅は終わらない。
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