第43話 効率なんてクソ食らえ! 魂の「オーダーメイド」大作戦!
「……ゴミ……非効率……即時、排除シマス」
浮遊する白亜の掃除機型ロボット『オプティマイザー』たちのレンズが、赤く発光した。彼らにとって、俺たちが広げたコーヒー豆や木屑、そして「楽しそうに悩む人間」は、都市の美観を損なう致命的なシステムエラーに過ぎない。
「店長、来るわよ! ……こいつら、魔法の波動を読み取って相殺してくる! まともに戦ったら魔力の無駄遣いよ!」
アウラが苛立ちげに叫ぶ。オプティマイザーは前任者が「完璧な管理」のために設計した兵器だ。標準的な攻撃パターンはすべて計算され、最小限のエネルギーで無力化されるよう最適化されている。
『……計算通りに動くのが自慢か。……だったら、計算不可能な「イレギュラー」を食わせてやるまでだ』
俺は、ミアに支えられながらエデン・エクスプレスの資材庫へ向かった。
狙うのは、破壊兵器じゃない。この「完璧すぎる街」が最も嫌がる、「定義不能のガラクタ」だ。
『アウラ、レヴィン! 商品棚の奥にある【商品名:超膨張・多用途隙間充填フォーム『メガ・エクスパンダー』】をありったけ持ってこい! ……あと、住民たちが作った「未完成の椅子」もだ!』
「……隙間を埋めるスプレー? そんなもので何をするつもりですか、店長殿」
レヴィンが困惑しながらも、指示通りに大量のスプレー缶を投げ渡す。俺はそれを受け取り、先ほどコーヒーを挽いていた若者――ケイルに向き合った。
『ケイル、お前が作ったその椅子、まだ脚の長さがバラバラだよな?』
「……はい。ガタガタして、システム的には『欠陥品』です」
『上等だ。……そのガタつきこそが、お前がこの世界に刻んだ証拠だ。……そいつを、あのロボットの吸い込み口に放り込め!』
ケイルは目を見開いたが、俺の瞳に宿る確信を見て、強く頷いた。
「……やってみます。……僕の、初めての失敗作だ!」
ケイルが未完成の椅子を投げ上げ、俺がその隙間に向けて充填フォームを全噴射する。
シュゥゥゥッ! という音と共に、スプレーから噴き出した特殊樹脂が、空気と反応して数百倍に膨れ上がった。
「……計算ガイ……形状、不確定……吸引、不可――」
吸い込み口に「正体不明の、グニャグニャした巨大な塊」を突っ込まれたオプティマイザーが、空中で激しく火花を散らした。
彼らのプログラムには「標準的なゴミ」の処理データしかない。秒単位で形を変え、粘着し、膨らみ続ける「DIYの副産物」は、彼らにとって論理的な死を意味した。
「……あ、あいつらが壊れた! ……僕たちの『失敗』で!」
広場にいた住民たちが、一人、また一人と立ち上がる。
彼らは、これまで「完璧」を強いてきたシステムを崩す方法を、ついに理解した。
『いいか、みんな! 綺麗に作る必要なんてねぇ! ……自分だけの「使い勝手」を追求しろ! ……左右非対称、色ムラ、ネジの緩み……全部ぶつけてやれ!』
広場は一変して、狂乱のDIY戦場と化した。
アウラが配る【商品名:速乾性・多色スプレーガン】で、白亜のロボットたちは極彩色に塗り潰され、センサーを狂わされる。
レヴィンが即興で作成した「矛盾だらけの利用規約」が街のスピーカーから流れ、システムの優先順位を物理的にパンクさせる。
そして、俺は手に持った万能レンチで、近づいてきた最後の一体の装甲を力一杯叩いた。
『……効率、効率ってうるせぇんだよ! ……人間はな、寄り道して、間違えて、無駄なものを作るから面白いんだ!』
ガキンッ! という快音と共に、オプティマイザーの頭部がひしゃげる。
人間に戻った俺の腕は痺れ、骨に響くような衝撃があった。だが、その痛みこそが、俺が「生身」でこの不条理を拒絶しているという最高の快感だった。
数十分後。
広場には、無惨に「デコレーション」され、機能停止したオプティマイザーたちが転がっていた。
白亜の街並みは、住民たちが思い思いに塗ったペンキや、組み立てた不格好な家具で溢れ、かつての「死んだような静寂」はどこにもなかった。
「……はぁ、はぁ。……仙太さん、すごいよ。街が、笑ってるみたい」
ミアが、肩で息をしながら俺の隣に並ぶ。彼女の服もペンキで汚れていたが、その顔は今までで一番晴れやかだった。
「店長殿。……システムへのクラッキングも完了しました。住民たちの『思考制限プログラム』は完全に削除されました。……これからは、彼らが自ら法律を作り、自ら選ぶ時代です」
レヴィンが満足げに頷く。
しかし、その時。街の中央にそびえる白亜の巨塔のモニターに、あの男の影が映し出された。
「……フフ、ハハハ! ……素晴らしい。……これこそが、私が望んでいた『カオス』だ。……新しい店長よ、お前は気づいていないのか? ……自由を与えられた人間が、次に何をするかを」
前任者の、嘲笑うような声。
「……選ぶことは、苦しみだ。……やがて彼らは、自由という重荷に耐えかね、再び『絶対的な正解』を求めるだろう。……その時、私のカタログは真の完成を見る」
『……あいにくだが、前任者さんよ。……うちの客を舐めるな。……「自分で作った椅子」に一度でも座った奴は、二度と既製品の檻には戻らねぇんだよ』
俺はモニターに向かって、中指を立てる代わりに、愛用の万能レンチを突き出した。
翌朝。ロゴスの街は、まだ混乱の中にあった。
だが、それは「活気ある混乱」だった。ケイルをリーダーとした「DIY自治会」が発足し、彼らは自分たちの手で、全自動だった配給機を「手動の調理台」へとリフォームし始めていた。
『……よし。……ここはもう、俺たちが教えることはなさそうだな』
エデン・エクスプレスのエンジンをかける。
俺たちは、感謝を叫ぶ住民たちに見送られながら、再び荒野へと走り出した。
「仙太さん、次はどこへ行くの?」
『……オリジン・ナビによれば、この先には「感情を忘れた氷の王国」があるらしい。……今度は、心まで冷え切った奴らを温めるための、薪ストーブと断熱材の出番だな』
「ふふ、また大仕事になりそうね!」
アウラの笑い声が、草原の風に溶けていく。
俺は、少しだけ痛む左腕をさすりながら、助手席に座るミアの手を握った。
不便で、不自由で、傷だらけの旅。
だが、この温もりと、レンチ一本で世界を変えられる手応えがある限り、俺の店長人生に「完売」はない。
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