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【全自動DIY】ホームセンター店員、意思を持つ「家」に転生する。〜釘一本から始める異世界建築、気づけば究極の魔導城になっていた〜  作者: ねこあし


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第41話 道具も体もお手入れが肝心! 感謝の「大メンテナンス大会」

「……痛たた。……やっぱり、無理が祟ったか」


 翌朝、フェルティル平原の真っ直ぐな朝日に照らされながら、(仙太)はエデン・エクスプレスのベッドで声を上げた。


 全身が、まるで錆びついた機械のように重い。特に、昨日巨大ジャッキのバルブを無理やり回した右腕と、ギプスが取れたばかりの左腕は、自分のものではないような鈍い痛みを訴えていた。


 掌を見れば、マメが潰れ、そこかしこに小さな切り傷がある。


 全能の店長だった頃には、こんな痛みは「損耗率」という数字でしかなかった。だが今は違う。この痛みこそが、俺が昨日、確かにこの世界の一部を自分の手で直したという、何よりの証明だった。


「仙太さん、動いちゃダメ! まだ熱があるんだから」


 ミアが、冷たい水で絞ったタオルを持って駆け寄ってくる。彼女の顔にも昨日の疲れの色が残っていたが、その瞳は優しさに満ちていた。


「……悪いな、ミア。……店長失格だ。自分のメンテナンスもまともにできないなんて」


「ううん。……自分の限界まで頑張った証拠だよ。……はい、じっとしてて」


 彼女の温かい手が、俺の火照った額にタオルを置く。その瞬間、全身の力がふっと抜けていくのを感じた。


 午後、熱が引いた俺は、這うようにして作業場へと向かった。


 そこには、昨日の激戦を支えた相棒たちが置かれていた。


 特に、アイアン・ポートで託された【古代の万能レンチ】は、過酷なトルクに耐えたせいか、その美しい表面に細かな傷がつき、噛み合わせの部分には微かに金属の粉が混じっていた。


『……すまなかったな。……お前にも、無理をさせた』


 俺は、お取り寄せした【商品名:プロ仕様・超微粒子金属磨き剤『シャイン・マスター』】と、使い古した綿の布を取り出した。


「店長、自分も手伝うわ。……昨日のジャッキも、油圧シリンダーにかなりの負荷がかかってた。……魔法で無理やり冷やしたから、金属疲労が出てないかチェックしなきゃ」


 アウラが、真剣な表情で巨大ジャッキの分解を始める。


 俺たちは、言葉を交わさずとも、自分たちの「手」として働いてくれた道具たちに、感謝を込めて手入れを始めた。


万能レンチのメンテナンス


【洗浄】:隙間に入り込んだ空間の塵を、専用のブラシで丁寧に取り除く。


【研磨】:磨き剤を使い、表面の傷を消していく。布を滑らせるたび、超合金の鈍い光が戻ってくる。


【注油】:【商品名:高級フッ素配合・防錆潤滑オイル】を一滴。噛み合わせが「吸い付くような」滑らかさを取り戻す。


「……ふぅ。……道具を磨くと、自分の心まで研ぎ澄まされるようですね」


 レヴィンが、自分の眼鏡を拭きながらポツリと漏らす。


 そう、メンテナンスとは、単なる「掃除」ではない。道具との対話であり、次なる挑戦への「決意」の儀式なのだ。


 空間が正常化したフェルティル平原には、どこからともなく、かつての住民たちが戻ってきていた。


 だが、長年空間のバグに晒されていた土壌はカチカチに固まり、作物が育つような状態ではない。


「……これじゃあ、今年の冬は越せない。……また、あの『黄金の注文書』があれば、食べ物だけでも手に入るのに」


 若手の農夫が、絶望したように土を蹴る。


 俺は、磨き終わったばかりのレンチを腰に差し、彼らに近づいた。


『……おい、兄ちゃん。……「注文」する前に、まずは「お手入れ」だ』


 俺は、エデン・エクスプレスの在庫から、大量の袋を取り出した。


 それは、魔法の食料ではない。


『【商品名:土壌改良用・完熟牛糞堆肥】と、【商品名:高機能・自動耕運レーキ(手動アシスト付)】だ。……これを土に混ぜ、自分の手で耕せ。……前任者が作った「偽りの平穏」じゃなく、自分たちの汗で「本物の収穫」を作るんだ』


 住民たちは最初、戸惑っていた。


 だが、ルンボが先頭に立って巨大なレーキを軽々と振り回し、硬い土を掘り起こし始めると、若者たちが一人、また一人と鍬を手に取り始めた。


「……あ、あったかい。……土が、生きてる音がする」


 耕された土から立ち上がる、力強い大地の匂い。


 それは、効率だけを追い求めた空間圧縮の時代には決して感じられなかった、「生命のメンテナンス」の瞬間だった。


 夕暮れ時、作業を終えた俺とミアは、平原を見渡せる丘の上にいた。


 そこには、俺が端材を使って即興で作った、不恰好な二人掛けのベンチがある。


「……仙太さんの作るものは、どれも少し歪んでるけど、すごく座り心地がいいね」


 ミアが俺の肩に頭を乗せ、夕日に染まる平原を眺める。


『……全能だった頃の俺なら、一瞬で「寸分の狂いもないベンチ」を出せた。……でも、今の俺は、これを作るのに三時間もかかったし、指も二回挟んだ』


 俺は、絆創膏だらけの手をミアに見せた。


 ミアはその手を両手で包み込み、優しく微笑んだ。


「……その三時間が、私には宝物だよ。……魔法で出されたものより、このベンチの方が、ずっとずっと『エデン』らしいって思うな」


平穏な空気が流れる中、オリジン・ナビが静かにホログラムで現れた。


「……臨時店長。体と道具、そして土地のメンテナンス、お疲れ様でした。……ですが、この平原の『歪み』は、あくまで氷山の一角に過ぎません」


 オリジン・ナビが指し示した次の座標は、霧に包まれた「断絶された山脈」。


「前任者が遺した『究極の効率化』は、ついに『人の意識』にまで及び始めています。……次のエリアでは、人々が『考えること』を放棄し、すべてを自動発注に委ねた結果、心が『錆びついた』都市が待っています」


『……心のメンテナンス、か。……そいつは、レンチ一本じゃ直せそうにないな』


「……いいえ、店長。……道具を愛し、不自由を楽しむあなたのその『不器用な情熱』こそが、最も強力な研磨剤になるでしょう」


 俺は立ち上がり、腰のレンチの感触を確かめた。


 筋肉痛はまだ消えない。手の傷も疼く。


 だが、磨き上げられた相棒と、隣で微笑む仲間がいれば、どんなに深い霧の中でも、「正しい水平」を見失うことはない。


『……よし、野郎ども! 明日の出発に向けて、最後の仕上げだ! ……今夜は、本店の特選在庫から「最高級の肉」を出して、全員でスタミナのメンテナンスだ!』


「「「おぉぉぉー!!!」」」


 草原に響く仲間たちの笑い声。


 それは、これから始まる更なる困難を塗り替える、最も美しい「仕上げの塗装」のように響いていた。

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