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【全自動DIY】ホームセンター店員、意思を持つ「家」に転生する。〜釘一本から始める異世界建築、気づけば究極の魔導城になっていた〜  作者: ねこあし


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第38話 造船所の決闘! 黄金の注文書と、暴走する「自動発注」

「……ここが、街の心臓部か。ひどい湿気と、死んだ鉄の匂いがするな」


 (仙太)(仙太)は、ギプスを固定した左腕を庇いながら、アイアン・ポート造船所の最深部へと足を踏み入れた。かつて巨大客船を建造していたであろうドックは、今や巨大な赤錆の洞窟と化している。


 天井からは「つらら」のように錆びた鉄屑が垂れ下がり、足元では前任者の歪んだ遺産である『黄金の注文書(ゴールド・オーダー)』が、不気味な脈動と共に黄金の光を放っていた。


「店長、止まって! 床の振動が異常よ。……何か、巨大なものが『在庫』から引き出されようとしているわ!」


 アウラの警告と同時に、ドック中央の巨大な搬送ゲートが轟音を立てて開いた。


【緊急発注:防衛用重機・九四式『スクラップ・タイタン』】


【代償資源:周囲1,000メートルの全構造材】


 無機質な音声が響いた直後、街の残りの建物が激しくきしみ、鉄骨や配管がまるで磁石に吸い寄せられるようにゲートへと吸い込まれていく。そして現れたのは、廃材を強引に圧縮して作られた、全長十五メートルを超える「動くゴミの山」……いや、殺戮重機だった。


「ギギッ! 排除……資源……守る……!」


 スクラップ・タイタンが、巨大なプレスの腕を振り上げる。人間に戻った俺の動体視力では、その一撃をかわすのは不可能に近い。


「させないわよ! ……行け、私の可愛い『ピカピカ・クリーナーズ』!」


 アウラが叫び、腰のツールポーチから改造リモコンを操作する。


 すると、背後から現れたのは、昨日俺たちが錆を落としたはずのスクラップ・ドローンたちだった。しかし、その姿は一変している。


 赤錆びたカッターは取り外され、代わりに【商品名:高回転・研磨用ワイヤーブラシ】と【商品名:工業用・速乾潤滑スプレー噴射機】が装備されていた。


『……アウラ、あれは!?』


「店長に教わった通りよ! 『壊す』ために生まれたなら、『磨く』ためにリフォームすればいい! あいつら、研磨の楽しさに目覚めちゃったんだから!」


 数十体の改造ドローンが、スクラップ・タイタンの巨体に飛び移る。


 彼らは戦うのではなく、猛烈な勢いで敵の関節部や駆動系を「研磨」し始めた。錆びついていたタイタンの動きが、過剰なまでの「滑らかさ」によって制御を失い、自分の重みに耐えきれず体勢を崩す。


「おのれ、不純物め! 発注は絶対だ! 資源を……さらなる資源を!」


『黄金の注文書』が激しく発光し、さらなる強制分解を開始しようとする。


 俺は、ミアに支えられながら、その光の渦へと一歩踏み出した。


『……おい、前任者のシステム。……お前の「発注」は、商売の基本を忘れちゃいないか?』


 俺は、右手で一本の【商品名:絶縁・防湿用シリコンスプレー】と、本店の端末からお取り寄せした「古代の(から)の注文伝票」を突き出した。


『「在庫」がないなら、外から奪う。……それは商売じゃない、ただの強盗だ。……それに、お前のシステムには「返品処理」の項目が欠けているぜ』


「……返品……? 存在しない……概念……エラー……」


 俺は、アウラが磨き上げたタイタンの動力核――剥き出しになった制御基板に向けて、シリコンスプレーを全噴射した。


『【緊急リフォーム:在庫管理プログラムの上書き】! ……お前の注文は、俺が「全件キャンセル」してやる!』


 シリコンの被膜が、古代の魔導回路を物理的に絶縁し、偽りのカタログとの接続を強制遮断する。同時に、俺が持っていた「空の伝票」をスロットに叩き込んだ。


 それは、本店(オリジン)の管理権限を用いた「棚卸し」の命令だ。


 現在この場にある全ての「不当な在庫」を、元の持ち主(街の建物や道具)へ返却するという、究極の返品処理である。


「アアアア……発注……取消……。資源……返却……開始……!」


 黄金の輝きが、ドロドロとした黒い液体のように溶け出し、スクラップ・タイタンを構成していた鉄屑が、磁力を失ったようにバラバラと崩れ落ちた。


 それらは、不思議な光に包まれながら街へと戻り、元の場所――家の骨組みや、老人の義手へと再構成されていく。


 バリンッ、という乾いた音と共に、『黄金の注文書』の石板が粉々に砕け散った。


「……やった……。終わったのね、仙太さん」


 ミアが、崩れ落ちそうになる俺の体を抱きしめる。


 人間に戻った弊害か、極度の緊張とアドレナリンの反動で、視界がぐらぐらと揺れる。


『……ああ。……返品、間に合ってよかったよ……』


 その時、砕け散った石板の破片から、一つのホログラムが浮かび上がった。


 それは、EDEN-00とも、オリジン・ナビとも違う、どこか傲慢で、しかし酷く疲れ果てた男の姿だった。


「……新しい『店長』か。……無意味なことを。……人は、自ら作る苦労よりも、奪われる恐怖の方が制御しやすいというのに。……次は、もっと大きな『不便』が、お前を飲み込むぞ……」


 呪詛のような言葉を残し、ホログラムは消滅した。


 これが、前任者の「残響」か。


 数時間後。


 錆が落ち、元の姿を取り戻し始めた港町には、活気が戻っていた。


 住民たちは、アウラが改造したドローンたちを「掃除ロボット」として迎え入れ、自分たちの手で家を修理し始めている。


「店長、これを受け取ってくれ。……あんたが言った通り、俺たちの『労働』の結晶だ」


 広場の老人が、俺に手渡したのは、錆びついていた造船所の倉庫から掘り出したという、【古代の超合金製・万能レンチセット】だった。 どのカタログにも載っていない、数万年前の職人が手作りした一点物。


『……最高の対価だ。ありがたく使わせてもらうよ』


 俺は、まだ痛む左腕をさすりながら、エデン・エクスプレスのタラップに腰を下ろした。


「仙太さん、はい、湿布。……次は、私が貼ってあげる番だね」


 ミアが、俺の隣に座り、慣れない手つきで右肩にシップを貼ってくれる。


 冷たい感触と、ミアの指先の温かさ。


「……ねえ、仙太さん。さっきのホログラムの人が言ってたこと……」


『……気にするな、ミア。……「奪う方が楽」なんて言う奴に、俺たちの店は壊せない。……俺たちは、不便を「楽しむ」ために旅をしてるんだからな』


 俺はミアの手を握り返し、空を見上げた。


 アイアン・ポートの空は、もう錆色ではない。


 新しく磨き上げられた鉄のように、どこまでも青く、澄み渡っていた。

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