第33話 店長、最大の決断! 略奪艦隊vs古代の「在庫」
「……卑怯者。あれは、『道具』の使い方を間違っているわ」
本店の展望モニターを見つめるアウラの瞳に、怒りの火が灯った。
接近する『鉄のギルド』の武装飛行艦隊。その先頭に立つ巨大な旗艦『デストラクター号』の艦首には、目を疑うような光景が広がっていた。
巨大な、あまりにも巨大な――本来は「巨岩を砕き、ダムを建設するための超振動ドリル」が、無骨な大砲へと改造され、周辺の空間ごと削り取るような禍々しい光景を晒していたのだ。
「あれは……古代の『工業用掘削ユニット』ですね」
レヴィンが、震える手で眼鏡を直した。
「本来、安全リミッターがかけられているはずの出力を、無理やりバイパスして『破壊兵器』に転用している。……非効率で、かつ最も野蛮な使い方だ。あんなことをすれば、道具そのものが悲鳴を上げる……!」
「……警告。……外郭隔壁に深刻なダメージ。……敵勢力、古代遺産『プラズマ・カッター』を指向性エネルギー兵器として転用中。……このままでは、本店の在庫が汚染されます」
オリジン・ナビの無機質な声が、危機の深刻さを物語っていた。
爆音と振動が、本店内部を揺らす。
そんな中、ミアは俺のTEN-CHOの腕を、壊れ物を扱うような手つきでぎゅっと握りしめていた。
「ねえ、仙太さん……」
ミアの声は震えていた。
「……さっきの『アーク』の話。……仙太さんが人間に戻れるって話。……私、すごく、すごく嬉しい。……私、あなたの温かい手に触れたい。一緒に、同じものを食べて、『美味しいね』って笑い合いたい」
ミアの瞳から、一粒の涙がこぼれ、TEN-CHOの冷たい装甲の上を滑った。
「……でも、もし今、仙太さんが人間になっちゃったら……あいつらを止められないよね? ……私たちのために、仙太さんが『神様』で居続けなきゃいけないなんて……そんなの、あんまりだよ……」
彼女は、俺の「自由」と「みんなの安全」の間で、激しく引き裂かれていた。
その優しさが、今の俺には何よりも痛かった。
『……ミア。……俺は、ずっと考えてたんだ。……ホームセンターの店長の仕事ってのはな、在庫を守ることじゃない。……その在庫を使って、「誰かの暮らし」を守ることなんだ』
俺は、管理コンソールに深く意識をダイブさせた。
「臨時店長」の権限をフル稼働させ、本店に眠る、禁断の「超大型在庫」のロックを次々と解除していく。
『オリジン、聞こえるか。……「アーク」はまだ使わない。……だが、俺は「人間」としても、「店長」としても、あいつらに教えなきゃならないことがある。……「道具」ってのはな、こうやって使うもんだってことをな!』
「野郎ども、かかれ! 伝説の『一号店』を剥ぎ取れ! ネジ一本、基板一枚残さず、俺たちの兵器の材料にしてやる!」
鉄のギルドの首領、バッカスが叫ぶ。
略奪者たちの小型艇が、蜂のように本店の開口部へと群がった。
だが、彼らが目にしたのは、守りを固める盾ではなかった。
『いらっしゃいませ。……本日の目玉商品は、これだ。』
TEN-CHOの声が、全領域の通信網をジャックして響き渡る。
『【商品名:超大型・磁気防護ネット『アレスト・メッシュ』】!』
本店の屋上から、直径数キロメートルにも及ぶ「超高強度の炭素繊維ネット」が射出された。
それは、本来「巨大な彗星の破片から惑星を守るための防衛網」だ。
絡め取られた飛行艦隊は、エンジン出力を逆に利用され、蜘蛛の巣に引っかかった蝶のように、互いに衝突し、墜落していく。
「な、なんだこの網は! 焼き切れ! プラズマ・カッターを出せ!」
『……甘いな。……次は、掃除の時間だ。』
俺は、本店の「外気循環システム」を逆流させた。
『【商品名:工業用・超高圧洗浄ノズル『タイタン・ウォッシャー』】!』
本店の各所から、大気を圧縮した超高速の気流が噴射される。
それは単なる風ではない。研磨剤として「微細な魔法銀の粉末」を混ぜ込んだ、装甲すら削り取る「空間洗浄」だ。
ギルドの小型艇の表面は一瞬でヤスリにかけられたようにボロボロになり、制御を失って吹き飛ばされた。
「ぐ、ぐあああ! なんだ、この攻撃は! 魔法じゃない……これは、ただの『メンテナンス』か!?」
バッカスが絶叫する。その通りだ。
俺たちは戦っているんじゃない。 汚れた害虫を払い、壊れた場所を掃除しているだけだ。
だが、敵の旗艦『デストラクター号』だけは、その巨体と古代ドリルの出力で、ネットを食い破りながら迫ってきた。
「笑わせるな! たかが店番が、俺たちの破壊の衝動を止められると思うな!」
ドリルの先端が、本店の「心臓部」がある区画へと突き立てられようとした、その時。
俺は、銀色のケース――【世界再構築パテ『アーク』】を手に取った。
『……ミア、アウラ。……レヴィン、ルンボ。……少しの間、店を頼むぞ』
「仙太さん!? まさか、今使うの!?」
ミアが叫ぶ。
俺は、ホログラムの女性「オリジン・ナビ」に向かって、静かに告げた。
『……オリジン。……全知全能の接続を失うのは、構わない。……だが、俺は「自分」の手で、このパテを塗りたい。……「システム」としてじゃなく、一人の「男」として、こいつらを叩き出してやる』
「……了解しました。……精神波形と実体物質の再構築を開始します。……仙太様、これが……あなたの『人間としての初仕事』になりますね」
光が、TEN-CHOを包み込んだ。
金属の装甲が剥がれ落ち、そこから、温かい、血の通った「人間の腕」が伸びる。
数年ぶりの、重力。
数年ぶりの、空気の匂い。
そして、数年ぶりに感じる、手に馴染む「工具」の重み。
俺は、実体化した俺自身の足で、本店のデッキに立った。
目の前には、巨大なバカげたドリルが迫っている。
「……さて。……このデカすぎる『粗大ゴミ』を、どうやって処分してやろうか」
俺の手には、パテと……そして、使い古された「一本のプラスドライバー」が握られていた。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!




