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【全自動DIY】ホームセンター店員、意思を持つ「家」に転生する。〜釘一本から始める異世界建築、気づけば究極の魔導城になっていた〜  作者: ねこあし


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第32話 潜入! 伝説の「巨大売り場」と忘れられた在庫

「……なんて、デカさなの。これ、本当に『お店』なの?」


 アウラの声が、空高く聳え立つ断崖『フォールズ』に木霊した。


 霧が晴れた先に姿を現した「エデン本店」の入り口は、大型旅客機の格納庫が十数個並んでもお釣りが来るほどの巨大な鉄錆色のシャッターだった。数万年の歳月が、その表面に「蔦」という名の歴史を刻んでいるが、その下にあるのは間違いなく、現代日本のホームセンターを凌駕する超高硬度の合金だ。


 だが、感傷に浸る時間はなかった。


「警告。……不法侵入個体を確認。……防衛プロトコル『クローズ・タイム』継続。……清掃(クリーニング)を開始します」


 無機質な声と共に、巨大なシャッターの隙間から、無数の「影」が飛び出してきた。


 それは、ショッピングカートにクモのような脚が生え、上部に鋭いカッターと高圧洗浄ノズルを備えた、異形の警備ドローン『ストック・ガーディアン』の群れだった。


「来るわよ! 店長、ルンボ、構えて!」


 ミアが叫ぶ。(仙太)のリモート・アバター『TEN-CHO』は、背中のコンテナから、この日のために新調した「お取り寄せアイテム」を素早く取り出した。


『……アウラ、リリ! 奴らの足元を狙え! ……ルンボ、お前は「大型バリケード」だ!』


「ギ、ギギ……テン、チョウ。……リョウカイ。……ココ、ボクノ、センパイ、イッパイ?」


 ルンボは、自分と似たような金属の質感を放つドローンたちを見て、少し悲しそうにしながらも、その巨躯を横たえてエデンの仲間たちを囲む盾となった。


『くらえ! 【商品名:超強力・魔導式潤滑スプレー『スリップ・キング』】!』


 TEN-CHOの右腕から、無色透明の液体が広範囲に噴射される。


 それは摩擦係数を極限までゼロに近づける、悪魔の液体だ。突進してきたドローンたちは、地面に触れた瞬間に姿勢を崩し、まるで氷の上を滑るように壁へと激突していく。


「次は私ね! 【商品名:超速硬化・建築用発泡ウレタンガン】!」


 アウラが放ったのは、空気に触れた瞬間に数百倍に膨張し、コンクリート以上の硬度で固まるウレタン樹脂だ。動きを止めたドローンたちの脚の間や関節に、黄色い樹脂が容赦なく詰め込まれ、それらは物言わぬ「オブジェ」へと変わっていった。


『トドメだ! 【商品名:工業用・超強力錆取り噴霧器(サンポール・バースト)】!』


 俺が放った強酸性の霧が、数万年間の劣化で弱まっていたドローンたちの装甲にトドメを刺す。火花を散らし、防衛システムは機能を停止した。


「……ふう。……さすがは本店、歓迎の挨拶も過激だわ」


 アウラが額の汗を拭う。


 俺たちは、動きの止まったシャッターを、ルンボの怪力でこじ開け、ついに伝説の内部へと足を踏み入れた。


 シャッターの向こう側に広がっていたのは、光を失った「暗黒の宇宙」だった。


 だが、俺がTEN-CHOの指を鳴らし、広域照明魔法(カタログ外、俺自身の演算による出力)を放つと、そこには言葉を失うほどの絶景が広がっていた。


「……これが、一号店……」


 レヴィンの眼鏡が、驚愕でずり落ちる。


 そこには、高さ数百メートルの天井まで届く巨大な棚が、地平線の彼方まで延々と続いていた。


 一つの棚が東京ドームの数倍の面積を持ち、それが幾重にも重なっている。


 自動コンベアの跡が血管のように床を走り、上空には荷物を運ぶための磁気浮上レールが複雑に絡み合っている。


「……店長、あそこを見て!」


 ミアが指差した先には、各セクションを示すための、掠れた看板があった。


【第721区画:恒星間航行用・外壁補修材】


【第842区画:惑星改造(テラフォーミング)用・土壌改良シード】


【第999区画:概念リフォーム・因果律調整ネジ】


「……バカげてるわ。ネジ一本で『因果律』を調整するなんて……。これ、ホームセンターっていうレベルじゃない、神様の倉庫じゃない!」


 アウラが、棚に積まれた「真空パックされた古代の資材」に触れようとして、レヴィンに止められた。


「待て、アウラ殿。……これらは全て『未承認のオーパーツ』だ。……見てみろ、この棚の配置、避難経路の確保、そして各所に配置された消火設備の密度……。数万年前の文明は、現代の聖教国よりも遥かに厳格な『安全基準』を持っていたようだ」


 レヴィンは、職業病とも言える鋭い視線で、古代の防災設備を分析していた。


 どうやら彼にとって、この本店は「法と安全の聖地」に見えているらしい。


 俺たちは、中心部にあると思われる「管理センター」へと向かった。


 そこには、巨大な水晶のクラスターに埋め込まれた、古びたコンソールがあった。俺が近づくと、コンソールから青白いホログラムが立ち上がり、俺のTEN-CHOの姿をスキャンし始めた。


「……生体認証、拒絶。……精神波形認証、開始。……適合。……ようこそ、第1,024代・臨時店長補佐、仙太様」


『臨時店長……補佐?』


 コンソールから響いたのは、EDEN-00よりもさらに古く、慈愛に満ちた「女性の声」だった。


 彼女は自らを『オリジン・ナビ(一号店案内役)』と名乗った。


「……オリジン、一つ聞かせてくれ。……なぜ俺だったんだ? 勇者でも、大魔導師でも、政治家でもない。……ただのホームセンターの店長だった、俺なんかが」


 ホログラムの女性は、優しく微笑んだ。


「……英雄は、世界を『変える』ことはできますが、日常を『維持する』ことはできません。……魔導師は、『高み』を目指しますが、足元の『不便』を見逃します。……この世界が必要としていたのは、剣を振るう者ではなく、誰かの壊れた蛇口を直し、誰かの暗い夜に灯りを灯すために、何万種類もの地味な在庫を管理し続けられる『忍耐強い隣人』でした」


 その言葉は、現代日本で理不尽なクレームに耐え、在庫の山と格闘し、サービス残業に追われていた俺の過去を、肯定してくれるものだった。


「ホームセンターの店長とは、世界の『最小単位の平和』を守る仕事です。……あなたのその精神が、滅びた文明の再起動キーに選ばれた理由です」


 ミアが、俺の隣でそっと涙を拭った。


「……仙太さん。やっぱり、あなたじゃなきゃダメだったんだよ。……私たちが、あなたに救われたみたいに」


「……臨時店長。……あなたに、現在のカタログでは『欠品』となっている、最後の在庫をお渡しします。……これは、この世界のバランスをリフォームするための、禁断のDIYツールです」


 管理センターの床がせり上がり、一つの小さな、銀色のケースが現れた。


 ケースのラベルには、簡素な筆致でこう書かれている。


【商品名:世界(ワールド・)再構築(リフレッシュ)・パテ『アーク』】


「……これ、何に使うの?」


 アウラが首を傾げる。オリジン・ナビの声は、少しだけ真剣味を帯びた。


「……それは、傷ついた大地、枯れた海、あるいは歪んだ人の心を、元ある『設計図』の通りに修復する、究極の補修材です。……ただし、これを使うには、あなた自身の『実体(肉体)』が必要になります。……現在、あなたの意識はカタログのサーバーと直結されていますが、このパテを使えば、あなたは再び『人間』としての肉体を構成することができるでしょう」


「……えっ!? 仙太さんが、人間に戻れるの!?」


 ミアが歓喜の声を上げる。 だが、オリジン・ナビは残酷な事実を付け加えた。


「……ただし、肉体を得るということは、カタログとの全知全能の接続を失うことを意味します。……あなたは、ただの『人間』の店長に戻るか、あるいは『家そのもの』として全能の力を振るい続けるか。……その選択を、今、この場で行ってください」


 沈黙が、巨大な売り場を包み込んだ。


 肉体を取り戻せば、ミアを抱きしめることができる。共に食事をし、共に老いることができる。


 だが、それは同時に、これまでのようにカタログから「奇跡」を取り寄せて仲間を守ることができなくなるということだ。


 俺が答えを出そうとした、その時。


 ドォォォォォン!!


 本店の入り口の方で、先ほどのドローンたちとは比較にならないほどの巨大な爆発音が響いた。


 モニターに映し出されたのは、帝国の旗でも、聖教国の旗でもない。


 漆黒の船体に、ドクロとネジが交差した奇妙な紋章を掲げた、武装飛行艦隊の姿だった。


「……あれは、大陸最大の略奪者集団『鉄のギルド(アイアン・ギルド)』よ! 噂を聞きつけて、本店の略奪に来たんだわ!」


 アウラが叫ぶ。敵は、古代の遺産を「再建」のためではなく、「破壊」のために奪おうとしている。


『……オリジン。……選択は、後回しだ。……今は、お客様の邪魔をする不届き者を追い出すのが先だ。……在庫の山から、一番デカい「武器(工具)」を持ってこい!』


 俺はケースを掴み、TEN-CHOを最大出力で起動させた。


 伝説の一号店を舞台に、ホームセンターの店長と、世界最大の盗賊団との、史上最大の「在庫争奪戦」が今、始まろうとしていた。

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