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【全自動DIY】ホームセンター店員、意思を持つ「家」に転生する。〜釘一本から始める異世界建築、気づけば究極の魔導城になっていた〜  作者: ねこあし


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第30話 コンプライアンス・リフォーム! ルンボは「什器(じゅうき)」と言い張れ!

「……なるほど。これがこの世界の『法律』という名の迷宮か」


 帝国一号店(ベルガ店)の店長事務室。(仙太)の意識を同期させたリモート・アバター『TEN-CHO』は、デスクに積み上げられた羊皮紙の山を、超高速スキャナーで読み取っていた。


 聖教国の法務官レヴィンが突きつけてきた「宗教的景観保護法」および「公共衛生安全法」。それらは一見、民を守るためのものに見えるが、その実態は「新しいもの」「未知のもの」を排除するために都合よく解釈できる、穴だらけの規制網だった。


「ねえ店長、本当に大丈夫なの? ルンボさんを『危険物じゃない』なんて言い張るの、無理がある気がするんだけど……」


 ミアが、窓の外で大人しく「待て」をしているルンボを見上げて、不安そうに眉を寄せた。ルンボは今、リリが施した銀色の鱗と緑のラインを輝かせ、以前よりも遥かに「生命力」に溢れている。それが逆に、法務官たちには「制御不能な魔獣」に見えるらしい。


『……ミア、心配ない。ホームセンターの店長ってのはな、店舗監査を乗り越えるために「言い換えの天才」になる必要があるんだ。……アウラ、リリ! 準備はいいか?』


「バッチリよ、店長! カタログから取り寄せた『黄色と黒のビニールテープ』と『ラミネート機』、これ最強の武器ね!」


 アウラが、俺が取り寄せた「トラ柄のハザードテープ」を肩に担いで不敵に笑う。


 リリも、店の周囲を囲うための「半透明・防虫・防魔導ポリカーボネート波板」を準備し、気合十分だ。


 俺たちの「コンプライアンス・リフォーム」が始まった。


 三日後。宣言通り、法務官レヴィンが厳格な表情で店を訪れた。


 その後ろには、違反を見つければ即座に封鎖命令を出そうと構える、書記官と執行官たちが控えている。


「さて、店長殿。猶予は終わった。……まず、あの巨大な魔導兵器から検分させてもらおうか。あれが『危険な自律型ゴーレム』ではないという証拠を提示せよ」


 レヴィンがルンボを指差す。ルンボは今、その巨大な胸部に、俺が作成した「特大サイズの名札」をぶら下げていた。


【登録名称:全自動・多機能型自走式店舗什器兼・高所作業用足場『ルンボ』】


【用途:清掃、商品の搬入、および店舗の構造維持】


『レヴィン法務官。まず、基本的な誤解を解いておこう。……彼は「兵器」ではない。我が店の「備品(什器)」だ』


「……什器だと? ふざけるな、これほどの巨体が街に存在すること自体が、安全法への重大な抵触だ!」


『いいや、抵触しない。……アウラ、例の「安全基準書」を見せろ』


 アウラが仰々しく差し出したのは、カタログの「日本産業規格(JIS規格)」をこの世界の言葉に翻訳し、強引に聖教国の法体系と紐づけた厚い冊子だ。


『彼は、法第一五条にある「自律移動する家畜および労働力」の範疇ではない。……見ての通り、彼は「店舗の外壁と一体化した移動式棚」であり、かつ、足元に設置された「安全コーン」と「立入禁止テープ」によって、完全に管理された「作業区域」を形成している。……彼が動く際は必ず、この『TEN-CHO』が誘導員として配置される。……これは法的に言えば、「動く建築物」だ』


「……動く、建築物……?」


 レヴィンが絶句する。俺は畳み掛けた。


『さらに、彼の両手を見てくれ。……指先には「安全第一」と書かれた、滑り止め用の「耐油・耐電ゴムキャップ」が装着されている。これにより、不意の接触による物損事故は100%防止される。……これのどこが「危険物」かな?』


 ルンボが、言われた通りにゴムキャップのついた指を「グッ」と立ててサムズアップする。レヴィンは眉間を押さえ、苦々しく書類をめくった。


「……よかろう。ルンボについては保留だ。だが、あの異常な速度で成長する庭園はどう説明する? 地域の生態系を壊し、民に『神の奇跡と見紛う混乱』を与えている。これは景観保護法違反だ」


 次はリリの出番だ。


 俺たちは、リリが育てた美しい花壇の周囲を、「農業用グリーンハウス(魔導強化版)」で完全に覆い尽くしていた。


「レヴィンさん。ここはもう『外』じゃないの。……ここは、実験用の『閉鎖型植物工場(インドア・ガーデン)』です」


 リリが胸を張って説明する。


「このポリカーボネートの壁は、花粉一つ、魔力の一粒も外に逃さない構造になっています。……だから、街の生態系には一ミリも影響を与えません。……それに、この花たちは『神の奇跡』じゃなくて、店長さんの『液体肥料』と、私の『こまめな水やり』っていう、正しいお手入れの結果なんです。……努力の結果を奇跡と呼ぶのは、神様に失礼じゃないですか?」


 リリの真っ直ぐな瞳に、レヴィンの仮面のような表情がわずかに動いた。


『景観保護法についても対策済みだ。……アウラ、外壁の「意匠変更」を』


 アウラがリモコンを操作すると、ビニールハウスの表面に、魔導投影プロジェクション・マッピングによって、ベルガの街に古くから伝わる「聖なる森」の紋章が浮かび上がった。


『見た目は伝統、中身は最新。……これが我が店の「コンプライアンス・デザイン」だ。……文句はあるか?』


 レヴィンは、完璧に「法理上の穴」を埋められた店内を、一時間以上かけて沈黙のまま巡回した。


 その足取りは、執拗な嫌がらせというよりは、何かを確かめるような慎重さに満ちていた。


 やがて、彼はバックヤードの片隅にある「防災用品コーナー」の前で足を止めた。


 そこには、俺が取り寄せた「非常用持ち出し袋」や、「煙感知式・魔導火災警報器」、そして「折りたたみ式簡易担架」が整然と並んでいた。


「……店長。一つ聞きたい。……貴殿は、なぜこれほどまでに『安全』と『管理』に固執する? 利便性を売るだけなら、これほどの手間をかける必要はないはずだ」


 俺はTEN-CHOの首を、少しだけ傾けた。


『……レヴィン法務官。俺がいた世界に、こんな言葉がある。「備えあれば憂いなし」。……ホームセンターってのはな、人々が自分の生活を「自分で守れるようになる」ための場所なんだ。……あんたこそ、なぜそんなに必死になって、法を盾に新しいものを拒む?』


 レヴィンは、眼鏡の奥の瞳に、深い陰を宿した。


「……かつて、この街の隣に『フォルス』という美しい村があった。……そこにある日、帝国の魔導商人が新しい『魔導コンロ』を大量に持ち込んだ。便利だと、誰もが喜んで買った。……だが、火災が起きた。……粗悪な回路が暴走し、村は一晩で灰になった。……法も、安全基準も、何もないままに利便性だけが先行した結果だ。……私は、その時死んだ村長の息子だ」


 ミアとアウラが、息を呑んだ。


 レヴィンが法に固執するのは、民を苦しめるためではなく、二度とあのような「無秩序な利便性による悲劇」を起こさせないための、彼なりの祈りだったのだ。


「貴殿の店は、あまりにも便利すぎる。……それは、刃物を子供に渡すようなものだ。……だから私は、貴殿を信じない」


『……そうか。それなら、余計にこの店が必要だな』


 俺はTEN-CHOの腕を伸ばし、棚から一つ、「感震ブレーカー(魔導式)」を取り出してレヴィンに手渡した。


『これは、異常な魔力の揺れを感知した瞬間に、回路を遮断する道具だ。……粗悪品で村が焼けたのは、道具が悪かったんじゃない。「安全をDIYする」という発想が、その時の商人に欠けていたからだ。……レヴィンさん。俺と一緒に、この世界に「安全基準(スタンダード)」を作らないか? あんたのその厳しい法解釈を、民を縛る鎖じゃなく、民を守る盾に変えるために』


 レヴィンは、受け取った小さな魔導具をじっと見つめた。


 その震える指先は、彼がどれほどの恐怖と責任感を背負って生きてきたかを物語っていた。


「……フン。……屁理屈だな」


 レヴィンは、手に持っていた「営業停止命令書」を、ゆっくりと、しかし確かな手つきで二つに破り捨てた。


「……本日の検査結果を報告する。……エデン・ベルガ店は、現行の諸法規を『奇跡的な屁理屈』によって全てクリアしていると認める。……ただし、今後一ヶ月間、私は『特別安全指導員』としてこの店に毎日出入りさせてもらう。……貴殿の言う『安全のDIY』とやらが本物か、この目で見極めるまではな」


「……っ! やったぁぁ!」


 アウラとリリが抱き合って喜び、ミアが安堵のあまりカウンターに崩れ落ちた。


 レヴィンが去り、閉店時間を迎えた店内。 仲間たちが祝杯を上げようと準備する中、俺の視界に再び黄金の文字が踊った。


【第二次監査:終了】


【評価:A(法理的解決能力を高く評価。ただし、現地権力者との密接な癒着が発生したと見なす)】


『……癒着? 協力関係と言ってほしいな、監査官さん』


 俺が白い事務所で毒づくと、EDEN-00は冷徹に告げた。


【次回の第三次監査は、全宇宙共通カタログの「最高機密項目」に関連します。……仙太店長。あなたはもうすぐ、「ホームセンター」という概念の本当の起源を知ることになる。……果たしてその時、あなたはまだ『お客様のために』と笑っていられるでしょうか?】


「店長、どうしたの? ぼーっとして。……ほら、バッシュさんたちが差し入れ持ってきてくれたよ!」


 ミアの声で、俺は現実へ戻る。


 店外では、ルンボがバッシュたちから「お疲れさん、什器(じゅうき)君!」と酒(ルンボには最高級の潤滑油だ)を振る舞われ、嬉しそうに電子音を鳴らしていた。


 法律をリフォームし、宿敵さえも味方に変えた。


 だが、EDEN-00が告げた「ホームセンターの起源」。その謎が、俺とこの世界の運命を大きく変えようとしていた。

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