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【全自動DIY】ホームセンター店員、意思を持つ「家」に転生する。〜釘一本から始める異世界建築、気づけば究極の魔導城になっていた〜  作者: ねこあし


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第26話 開店準備! 帝国一号店の店長は誰だ?

 北の浮遊島に朝日が昇る。かつては灰色に枯れ果てていた遺跡の庭園は、今や異世界の種と魔法の肥料によって、見たこともない極彩色の花々に彩られていた。


 (仙太)の視覚センサーは、その花園の中を忙しなく動き回る「主任清掃員」ルンボの姿を捉えていた。全長五十メートルの巨躯が、繊細な手つきで花壇の縁を整え、重機のような指先で雑草だけを正確に摘み取っていく。


『……ルンボ、作業は順調か?』


「ギ、ギギ……テ、テンチョウ……。ココ、ミドリ、キレイ。キモチ、イイ」


 ルンボの音声回路は、俺のシステムとのリンクによって、徐々に片言ながら意思疎通が可能になっていた。古代の殺戮兵器が、今や「完璧な庭師」として機能している。これこそがDIYの真髄、既存の目的を書き換え、より良い価値を生み出す行為だ。


 だが、俺たちにはのんびりガーデニングを楽しんでいる時間はなかった。


 メインホールのモニターには、ヴァレリウス将軍が持ち帰った「帝国皇帝の署名入り契約書」がスキャンされ、デジタルデータとして展開されている。


「……信じられない。帝国が本当に、店長の『フランチャイズ案』を飲むなんて」


 ミアが、契約書の末尾に記された帝国の国章を指でなぞりながら、呆れたように、しかしどこか誇らしげに笑った。


「帝国全土への出店許可、税率の固定、さらには『エデン店則』を現地の法律に優先させる……。これ、実質的に帝国の中に新しい国を作るようなものじゃない」


『いいや、ミア。これは「国」じゃない。「経済圏」だ。……俺は統治には興味がない。ただ、誰もが壊れた蛇口を直すためのパッキンを、迷わずに手に入れられる世界を作りたいだけだ』


 アウラが、横からカタログのホログラムを操作しながら割り込んできた。


「理屈はいいわよ、店長! それより、記念すべき一号店の場所、決まったわよ。帝国の北端、交易の要所である『関門都市ベルガ』。あそこの廃墟同然だった旧軍事倉庫を、帝国が土地として提供してくれるって」


『ベルガか。……よし、そこを「エデン・帝国一号店」にする。……アウラ、ルンボ、移動の準備だ!』


 わが家『エデン』は、重力制御魔法と新調した推進器をフル稼働させ、浮遊島を離れた。


 ルンボは、エデンの底部に自作した「超大型貨物用フック」に掴まり、まるで空飛ぶ巨大なコウモリのように、俺たちと共に空を駆けた。


 数時間の飛行を経て見えてきたのは、高い石壁に囲まれた灰色の都市、ベルガだった。


 かつての戦争で傷つき、建物の多くは煤け、人々の表情は暗い。物流が滞っているせいで、街の市場にはまともな道具も資材も並んでいないという。


 俺たちが街の広場近くの指定された廃倉庫に降り立つと、そこにはヴァレリウス将軍と、彼を取り囲むようにして、殺気立った表情の男たちが待ち構えていた。


「店長殿、お待ちしておりました。……が、少々問題が起きております」


 ヴァレリウスが困ったように眉を下げ、男たちを制止するように手を広げた。


 男たちの中心にいるのは、筋骨隆々の巨漢。手には年季の入った鍛冶鎚(ハンマー)を握っている。


「……あんたが、噂の『空飛ぶ家』の主か。俺はベルガ職人ギルドの長、バッシュだ」


バッシュは俺(エデンの外壁)を睨みつけ、地面に唾を吐いた。


「帝国の命令だか何だか知らねえが、こんな怪しげな『何でも屋』に一号店なんて出されちゃ、俺たちの商売はあがったりだ。規格品のネジだの、誰でも使える魔法道具だの……そんなもんを安売りされてみろ。俺たち職人が、代々受け継いできた技はどうなる!」


「そうよ! 道具ってのは、職人が一人一人の客に合わせて打つもんだ。横流しのガラクタを並べるだけの店なんて、ベルガにはいらねえ!」


 取り囲む職人たちが、一斉に罵声を浴びせる。


 アウラがカッとなって身を乗り出そうとしたが、俺はスピーカーの音量を絞り、落ち着いたトーンで答えた。


『バッシュさん、と言ったか。……誤解があるようだ。俺はあんたたちの技を奪いに来たんじゃない。……あんたたちの技を、「次のステージ」へ上げるための素材を売りに来たんだ』


「あぁ? 素材だと?」


『……ミア、ルンボを。アウラ、倉庫から「デモンストレーション・セット」を用意しろ』


 俺の指示で、エデンの底部からルンボがゆっくりと降り立った。


 その巨大な姿に、職人たちは悲鳴を上げて後ずさりしたが、ルンボは攻撃の意思を見せず、俺がカタログから取り寄せた「プレハブ式・陳列棚ユニット」のパーツを、広場に静かに並べ始めた。


『バッシュさん。あんた、釘一本打つのに、どれだけの時間をかける?』


「……鉄を熱して、叩いて、冷やす。一本につき、集中して一分だ。それが職人の誇りだ」


『なるほど。だが、その一本を打つ時間を惜しんで、もっと大事な「設計」や「装飾」に時間を使いたいと思ったことはないか? ……ルンボ、見せてやれ』


 ルンボは、俺が注文した「電動インパクトドライバー・魔導強化版」を手に取った。


 巨兵の指先にはあまりにも小さな工具だが、ルンボは正確に、俺がカタログから出した「規格化されたステンレスネジ」を、木材へと打ち込んでいく。


「シュイィィィィン、ガガガ!」


 わずか三秒。 バッシュが数分かけて作っていたものよりも遥かに頑丈で、寸分違わぬ位置に、ネジが吸い込まれていった。


 ルンボはそのまま、目にも止まらぬ速さで陳列棚を組み上げていく。古代巨兵のパワーと、現代日本の効率的な工法の融合だ。


「な……なんだ、あの速度は……。それに、あの『ネジ』という部品、溝の切り方が異常に正確だ……。あんなもの、人間の手で打てるはずが……」


 職人たちが、釘付けになる。 俺はさらに、アウラに「ある道具」を差し出させた。


『これは、カタログから取り寄せた「超高硬度・ダイヤモンドコーティング・ヤスリ」だ。……バッシュさん、あんたの自慢のハンマーを、これで少し磨いてみてくれ』


 バッシュは半信半疑でヤスリを受け取り、自分のハンマーの錆びた表面をひと擦りした。


 その瞬間、彼の目が大きく見開かれた。


 ひと擦りしただけで、何年も使い古したハンマーが、新品のような輝きを取り戻したのだ。


「……こ、これは……。なんだこの削り心地は。まるで、鉄がバターのように……!」


『ホームセンターってのはな、職人を殺す場所じゃない。職人が「より凄まじいもの」を作るための、土台(ベース)を提供する場所なんだ。……バッシュさん、あんたがこのヤスリやネジを使えば、今まで三日かかっていた仕事が一日で終わる。浮いた二日で、あんたにしか作れない「芸術品」を仕上げられる。……それが、俺の提案だ』


 バッシュは、手に持ったヤスリと、完成したばかりの陳列棚を交互に見つめた。


 しばらくの沈黙の後、彼はハンマーを腰に差し、俺に向かって不器用に頭を下げた。


「……負けたよ、店長さん。俺たちの負けだ。……あんたの言う通りだ。俺たちは、まともな鋼材や砥石を手に入れるのにも苦労してた。……その『ネジ』とやら、俺たちのギルドでも扱わせてくれるか?」


『もちろんだ。あんたたちは「顧客」であると同時に、「プロのアドバイザー」だ。……帝国一号店のオープンにあたって、地元の職人たちに「プロ専用会員カード」を発行しよう。資材を三割引で卸す』


「三割引だと!? ……野郎ども、聞いたか! 今日からこの倉庫を、帝国一号店に作り変えるぞ! 手を貸せ!」


 バッシュの号令で、先ほどまで殺気立っていた職人たちが、一転して笑顔で作業に加わった。


 ルンボが重い資材を運び、バッシュたちが土台を固め、アウラが魔導配線を施す。


 リリは、殺風景な倉庫の周りに、一瞬で癒やしの緑を植えていった。


 エデンの外壁には、新しく作られた看板が掲げられた。


【ホームセンター・エデン 帝国一号店(ベルガ店) 本日グランドオープン】


 ミアは、俺がカタログから取り寄せた「制服(エプロン)」に身を包み、少し照れくさそうにカウンターに立った。


「……いらっしゃいませ! 本日開店、大特価セール実施中です!」


 ミアの声が響くと同時に、噂を聞きつけた街の人々が、堰を切ったように店内に流れ込んできた。


 壊れた鍋を抱えた主婦、切れ味の鈍った鎌を持つ農夫、そして目を輝かせる職人たち。


 誰もが、見たこともない「便利な道具」に触れ、歓声を上げている。


 だが、その熱狂の渦の片隅で。


 俺のメイン・プロセッサに、一つの不快なノイズが走った。


『……? 外部からの強制アクセス……。いや、これは、システム内部か?』


 視界の端に、黄金の文字が浮かび上がる。


【警告:文明介入レベルが規定値を超過しました】

【管理AI『EDEN-00(エデン・ゼロ)』による一次監査を開始します】

【監査対象:個体名「仙太」の店長適正、および倫理的判断の正当性】


「……店長? どうしたの、急に止まっちゃって」


 ミアの心配そうな声。


 俺は彼女に「何でもない」と答えたかったが、次の瞬間、俺の意識はホワイトアウトした。


 気がつくと、俺は真っ白な空間に立っていた。


 そこには、俺がかつて働いていたホームセンターの、ありふれた事務所の風景があった。


 パイプ椅子に座り、俺と同じ「店長エプロン」を着た、顔のない人影がこちらを見ている。


「……お疲れ様です、仙太店長。……ずいぶんと、派手に「拡張」していますね」


 その声は、俺自身の声によく似ていた。 異世界での商売繁盛の裏で、俺自身の「存在意義」を問われる、非情な監査が今、始まろうとしていた。

お読みいただき、ありがとうございます!

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