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【全自動DIY】ホームセンター店員、意思を持つ「家」に転生する。〜釘一本から始める異世界建築、気づけば究極の魔導城になっていた〜  作者: ねこあし


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第24話 お取り寄せ開始! 届いたのは「最強の家庭用防衛システム」?

 北の浮遊島、古代遺跡の最深部。


「エデン・全宇宙共通カタログ」が放つ黄金の輝きは、書庫の埃っぽい空気を清浄な光で満たしていた。


 (仙太)の視覚センサーは、そのカタログのページがめくられるたびに、未知の演算コードがシステムに流れ込んでくるのを感知していた。それは懐かしい、日本のホームセンターのバックヤードで嗅いだ、新しい段ボールとシュリンクラップの匂いを想起させる情報の奔流だった。


「ねえ、店長……。本当にこれで、あっちの世界の道具が手に入るの?」


 アウラが、期待と不安が入り混じった表情でカタログを覗き込む。彼女の細い指が、ホログラムで投影された「商品一覧」に触れようとして、そのあまりの解像度の高さにためらいを見せた。


『ああ。だが、ただの取り寄せじゃない。このカタログは「概念」を転送するためのゲートだ。こちらの世界の素材を分解し、カタログに記載された設計図に従って再構築する。……いわば、次元を超えた3Dプリントだな』


 俺は慎重に、第一候補のページを開いた。


 そこに表示されていたのは、かつての俺の職場で「防犯・スマートホーム・キャンペーン」の目玉として売られていた最新鋭のセキュリティ・パッケージだった。


【商品名:24時間3戒厳監視・自律迎撃システム『イージス・ホーム』】

【セット内容:全天候型高感度センサー、自動追尾式粘着ネットランチャー、超高輝度不審者威嚇ライト】

【発注コスト:魔導残骸(スクラップ)500トン、および周囲1キロ圏内の環境魔力60%】


「環境魔力を、60%も……?」


 リリが、窓の外に広がる遺跡の緑を見つめて、悲しげに呟いた。


 この浮遊島は、重力が狂っている一方で、古代の魔力が濃密に溜まっている場所だ。そこから魔力を吸い出すということは、せっかく芽吹いた植物や、遺跡を彩る苔たちが一時的に枯れてしまうことを意味する。


『……リスクはある。だが、リリ、アウラ、ミア。……帝国が送り込んでくる「黒の整備士」たちは、家を「壊す」プロだ。普通の防壁じゃ、わが家はバラバラに解体されてしまう。……みんなを守るために、この注文を確定させる』


俺は「注文を確定する」という仮想ボタンをクリックした。


 瞬間、浮遊島全体が大きく震えた。


 遺跡のあちこちから、青白い光の粒が吸い上げられ、エデンの屋根に設置されたアンテナへと集まっていく。ルンボが、その魔力の渦を感じ取ったのか、低く重厚な電子音を鳴らして、周囲を警戒するようにゆっくりと旋回を始めた。


「魔力吸引を確認! 座標固定……次元転送、開始!」


 アウラの叫びと共に、空に巨大な「納品書」のような光の帯が現れた。


 光の中から降りてきたのは、巨大なコンテナではない。


 それは無数の小さな「黒い立方体」の群れだった。それらはエデンの外壁に吸着し、まるで生き物のように増殖・展開しながら、家全体を包み込む「新しい皮膚」へと変貌していく。


 これが、異世界の知恵とこちらの魔力が融合した、最強の防衛リフォーム――。


 だが、その「納品」が終わるのを、帝国は待ってはくれなかった。


「……見えたぞ。あれが、閣下の不眠の原因となった『空飛ぶ家』か」


 雲海を裂いて現れたのは、これまでの帝国の戦艦とは明らかに異質な、無骨な黒鉄の塊だった。


 それは「船」というよりは、巨大な「工事車両」に近い。


 甲板には大砲の代わりに、巨大な「バール」や、超高速で回転する「魔導円盤鋸(スリッティング・ソー)」が装備されている。


 帝国の禁忌部隊「黒の整備士」の隊長、バナードは、血走った目でエデンを凝視していた。


 彼らは戦士ではない。古の遺物を「解体」し、その残骸から魔力を抽出することに特化した、狂気のエンジニア集団だ。彼らにとって、エデンは「攻略すべき敵」ではなく、「バラバラにするべき素材」に過ぎない。


「解体作業を開始せよ。まずはあの巨大な人形(ルンボ)の四肢を叩き斬れ! その後、本丸の屋根を『魔導釘抜き』で引き剥がす!」


 バナードの合図と共に、数機の中型解体艇がエデンへと肉薄する。


 それらの艇からは、超高分子のワイヤーで繋がれた「大型の重り(レッキング・ボール)」が射出された。


「店長、来るよ! あの鉄球、ただの重りじゃない! 接触した瞬間に振動魔法で構造を破壊する『解体用振動弾』だわ!」


 アウラが警告を発する。


 だが、俺は冷静に、新しくインストールされた『イージス・ホーム』の管理画面を展開した。


『……注文した商品は、期待を裏切らないはずだ。……セキュリティー・レベル、最高ランクへ移行。迎撃開始!』


 ドォォォォン!!


 レッキング・ボールがエデンの外壁に激突する寸前、家全体を包んでいた「黒い皮膚」が波打った。


 接触の瞬間、外壁から展開されたのは、物理的な盾ではない。 「高周波反発フィールド」だ。


 ボヨォォォン!! という、どこか気の抜けた、しかし力強い音が響き、巨大な鉄球はあえなく跳ね返された。それどころか、跳ね返った鉄球は、自分を放った解体艇のコックピットを直撃し、艇はコントロールを失って雲海へと墜落していった。


「な……!? 我が部隊の『構造破壊弾』が、あんな安っぽい外壁に弾かれただと!?」


 バナードが驚愕に目を見開く中、俺の反撃は止まらない。


『……次は「不審者威嚇」だ。アウラ、リリ、ミア、少し目を(つむ)っていろ』


 エデンの軒先に設置された四つのセンサーライトが、一斉に発光した。


 それは単純な光ではない。


「人間の脳が最も不快に感じる点滅周期」と、「網膜を一時的に麻痺させる魔導スペクトル」を組み合わせた、異世界流の非殺傷・制圧光線だ。


「ぎゃあああ! 目が、目がぁぁ!」


「頭の中に嫌なノイズが響く! 舵が握れない!」


 解体部隊の操縦士たちが、一瞬にして戦闘不能に陥る。


 さらに俺は、注文したセットの中でも一番のお気に入り、 「全自動追尾式・高粘度防犯粘着ネット」を射出した。


 シュパパパン! という軽快な音と共に、空気圧で放たれたネットが、接近していた残りの艇を絡め取る。このネットには、ルンボに使った接着剤をさらに改良した「一度ついたら溶剤なしでは絶対に剥がれない樹脂」が塗布されている。


 絡め取られた艇たちは、お互いにくっつき合い、巨大な「鉄の塊の団子」となって、身動きが取れなくなった。


『ルンボ、仕上げだ。あそこに溜まっている「ゴミ」を、遺跡の外まで掃き出してこい』


 ルンボは無言で頷くと、巨大な「箒」を横一文字に振った。


 物理的な衝撃波が、団子状態の帝国軍を捉え、彼らは悲鳴を上げながら水平線の彼方へと吹き飛ばされていった。


「……お、おのれ……。この屈辱、忘さぬぞ……。解体できない家など、この世にあってはならんのだ……!」


 バナードの乗る旗艦は、主力の解体艇をすべて失い、命からがら戦域を離脱していった。


 静寂が戻った浮遊島。


 だが、勝利の余韻に浸る俺たちの前に、リリが悲しそうな声を上げた。


「……店長、見て。お花さんたちが……」


 リリが指差す先。


 先ほどまで青々と茂っていた遺跡の庭園は、その魔力を吸い尽くされ、灰色に変色していた。植物たちは枯死してはいないが、深い眠りについたように項垂れている。


 これが「お取り寄せ」の代償――等価交換の現実だった。


『……リリ、ごめんな。……だが、俺は決めた。このカタログを、ただの武器として使うんじゃない。いつか、この枯れた庭を、以前よりももっと綺麗に咲かせるための「種」や「肥料」を、俺は必ず取り寄せてみせる』


「……うん。信じてるよ、店長」


 ミアが、新しくなった黒い外壁に手を触れながら、静かに言った。


「便利になることには、責任が伴うんだね。……でも、仙太さんとなら、その責任も一緒に背負っていける気がするよ」


 アウラは、カタログの次のページを夢中で読み耽っている。


「……ねえ店長、次のページに載ってる『全自動・異世界通信ルーター』って何? これがあれば、もしかして……」


 俺たちの「お取り寄せ」生活は、まだ始まったばかりだ。


 便利さと引き換えに失われるもの。それをDIYの力でどう補い、さらに上の豊かさを目指すのか。 (仙太)の店長としての真の手腕が、今、試されようとしていた。


 その頃、敗走するヴァレリウス将軍のもとに、帝国本土から一通の親書が届いていた。


 そこには、皇帝自らが筆を執った、信じがたい命令が記されていた。


「『空飛ぶ家』を破壊するのではなく……『店長』を帝国の国師として迎え入れよ。拒絶するならば、大陸全土の『ホームセンター』を、歴史から抹消する」


 俺の知らないところで、物語は「解体」から「買収(M&A)」という、さらなる泥沼の展開へと突き進もうとしていた。

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