第20話 激突! 空中要塞対DIY要塞、接着剤の雨を降らせ!
北の空域に入ってから、わが家『エデン』の空気はピリピリしていた。
リリの「スカイ・ベリー」が好評で、ミアの操舵技術も日に日に向上している中、一人、工房にこもりきりのアウラが、鬼気迫る表情で作業を続けていた。
「……ふん、リリの野菜も、ミアの運転もすごいけど、この家の『頭脳』は私なんだから! 店長を一番驚かせるのは、私の発明品よ!」
アウラの作業台には、使い切った「業務用超強力接着剤」の空きチューブが山のように積まれ、設計図には危険な文字が踊っていた。
そして、その時は来た。
「警告! 後方より超巨大魔力反応! ……間違いない、帝国の『移動要塞艦ガルガンチュア』よ! サイズは……うちの二十倍以上!」
アウラの叫びと同時に、雲海を割って現れたのは、空を飛ぶ「城」そのものだった。無数の魔導砲門が、小さなわが家に狙いを定めている。
『……挨拶代わりの一発が来るぞ。ミア、回避!』
ズドォォォン!!
要塞の主砲が火を噴き、エデンのすぐ横を巨大な火球が掠める。爆風で家が激しくきしむが、アウラが強化した「複合装甲」がなんとか持ちこたえた。
「くっ、バリア出力低下! まともに食らったら蒸発するわよ!」
「仙太さん、どうしよう!? あんな大きな相手、逃げ切れないよ!」
ミアとリリが悲鳴を上げる。だが、俺の思考回路は冷静に「在庫リスト」を検索していた。
まともに撃ち合えば負ける。ならば、「ホームセンター」らしい戦い方をするまでだ。
『……反撃開始だ。アウラ、例の「新商品」の準備はいいか?』
「もちろん! いつでもイケるわよ、店長!」
アウラがニヤリと笑い、コンソールに拳を叩きつける。
作戦1:高圧洗浄機キャノン・改
『リリ、サンルームの貯水タンクを全開! アウラ、魔力ポンプ最大出力! 狙うは敵艦の艦橋だ!』
「了解! 食らいなさい、主婦の味方にして最強の武器……『超高圧水流斬』!!」
エデンの屋根に設置された、一見するとただの巨大なホースノズルから、魔力で極限まで圧縮された水流が一直線に放たれた。
それはレーザーのように空を切り裂き、ガルガンチュアの艦橋の防弾ガラスを直撃。ヒビを入れ、内部の計器をショートさせ、一時的に視界を奪った。
「ひるんだわ! 次よ、店長!」
作戦2:接着剤の雨
『よし、倉庫の在庫一掃セールだ! ミア、船体下部のハッチを開放! 「業務用速乾セメント」と「超強力エポキシ樹脂」の樽を投下しろ!』
俺の指示で、エデンの腹から大量の樽がばら撒かれた。それらは空中で時限式に炸裂し、ネバネバした液体と粉末が混ざり合い、霧となって要塞に降り注ぐ。
「な、何だこの汚れは!? ワイパーが効かん! 砲塔が固まって動かないぞ!?」
帝国の兵士たちの混乱する声が傍受できる。
強力な接着剤が砲門を塞ぎ、関節部を固め、要塞の機能を麻痺させていく。これぞ、物理攻撃よりも厄介な「嫌がらせDIY攻撃」だ。
『……今だ! アウラ、とっておきの「切り札」で離脱するぞ!』
「待ってました! 見てなさい、私の最高傑作……『緊急回避用ロケットブースター花火・改』点火ぁ!!」
アウラが真っ赤なボタンを押し込む。
瞬間、家の四隅に取り付けられた巨大な筒から、とんでもない轟音と閃光が迸った。
ドォォォォン! ヒュルルル、パァァァン!!
それは推進剤というより、ただの巨大な花火だった。
だが、魔力火薬を限界まで詰め込んだその爆発的な推進力は、物理法則を無視してエデンを急加速させた。
「きゃあああ! 家が、家がロケットみたいになってるぅ!」
「目が回るよぉ~!」
色とりどりの火花と煙を撒き散らしながら、わが家は音速に近いスピードで空を駆け抜け、動きの鈍ったガルガンチュアの追撃を振り切った。
……数分後。
安全圏まで逃げ延びたエデンのテラスは、花火のススで真っ黒になっていた。
「……ぜぇ、ぜぇ。どうよ店長! 私の発明、すごいでしょ!」
アウラが顔をススだらけにしながら、勝ち誇った顔でVサインをする。
『ああ、最高だったぞアウラ。……ただ、次のDIYは「外壁の高圧洗浄」だな』
俺たちは笑い合った。
だが、その視線の先、雲の切れ間から見えてきた「北の浮遊島」の姿は、俺たちの想像を絶する異様な光景だった。
そこは、重力が歪み、岩塊が渦を巻いて浮遊する、まさに「空の魔境」だったのだ。
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