第2話 最初のおもてなしは、最高の水と無垢材のベッドで
「……あったかい……?」
俺の「玄関」を潜り抜けた銀髪の少女は、その場にへたり込みながら、驚いたように呟いた。
外は、荒野特有の容赦ない砂嵐が吹き荒れている。だが、一歩俺の中に踏み込めば、そこには遮音性と断熱性を極限まで高めた静寂が広がっているのだ。
外壁の「ボロ屋偽装」の内側には、現代の住宅工学に基づいた断熱材を魔力で生成し、隙間なく充填してある。気密性は、この世界のどんな王宮よりも高い自信があった。
(おっと、まずは水分補給だな。脱水症状気味だ)
俺は【超絶DIY】を起動した。
地下深くから魔力を指先のように伸ばし、水脈を探し当てる。汲み上げた水はそのままでは不純物が多い。俺は「家」としての機能を使って、微細な「濾過フィルター」を魔力で構成した。
活性炭とセラミックの多重構造。さらには、前世で売れ筋だった「弱アルカリイオン整水器」の理論を応用し、ミネラル分を最適に配合する。
そして、その水を「生成」したばかりの、手触りの良い木製カップへと注ぎ込んだ。
コトッ。
彼女の目の前にある棚――俺の一部である「ニッチ」に、そのカップを出現させる。
「えっ……? 水……? どこから……?」
彼女は怯えながらも、カップから漂う清涼な気配に抗えず、震える手でそれを取った。
「――っ、美味しい……! こんなに澄んだ水、見たことない……」
彼女が喉を鳴らして飲む。その瞬間、俺の「知覚」が彼女のバイタルが安定していくのを検知した。DIYの基本は、使う人の安全と健康。まずは合格点だ。
(さて、次は『居場所』だ。そんな固い床で寝かせるわけにはいかないからな)
俺は彼女が水を飲んでいる間に、部屋の隅にある「寝室予定地」の施工を開始した。
ここでのこだわりは、なんといっても「素材選び」だ。
(この辺りの魔力から抽出できるのは……杉に近い特性の木材か。よし、香りが良くて調湿作用に優れた『異世界杉』をベースにしよう)
バキィッ、という激しい音は立てない。
静かに、だが確実に、床から木材がせり上がってくる。
釘は一本も使わない。伝統的な「組み継ぎ」の技法で、ベッドフレームを組み上げていく。
(仕上げのサンディング(研磨)を忘れるなよ。400番……いや、せっかくの初ヒロインだ、800番相当の極細研磨でシルクのような手触りにしてやる)
シュンシュンと、目に見えない魔力の鉋が木肌を滑る。
最後に、魔力で生成した「高反発ウレタン」に近い弾力を持つクッション材を敷き、植物由来の繊維で編んだリネンで覆う。
「あの……お家、さん? あなたが……してくれているの?」
彼女が、不思議そうにベッドを見つめていた。
彼女は「魔力感知」の能力を持っていると言っていたな。俺が「家」そのものであり、意志を持ってこの空間を調整していることに気づき始めているらしい。
(ああ、そうだ。ボロ屋だと思って甘く見るなよ。ここは世界で一番快適な『俺の城』だ)
俺は返事の代わりに、部屋の「照明」を調整した。
天井に埋め込んだ魔石の輝きを、夕暮れ時のような暖色系(電球色)へとゆっくり落としていく。これはサーカディアンリズム、つまり人間の体内時計を整えるための演出だ。
「……不思議。すごく落ち着く。お父様とお母様が生きていたときよりも、ずっと……」
ミアはフラフラとベッドへ歩み寄り、そのシーツに触れた。
瞬間、彼女の表情がとろけるように緩む。
「やわらかい……。木のいい匂いがする……」
彼女は吸い込まれるようにベッドに倒れ込み、深い、深い眠りへと落ちていった。
(よしよし、いい食いつきだ。やっぱり無垢材の香りと、完璧な調湿機能には抗えないよな)
俺は、眠る彼女を見守りながら、次なるリフォーム計画を練り始めた。
とりあえず、明日の朝食のために「キッチン」の設備を整える必要がある。
それも、ただの竈じゃない。火力調整が自由自在な、この世界初の「システムキッチン」を、俺のDIYで実現してやるんだ。
(待ってろよ。明日の朝は、焼きたてのパンの匂いで起こしてやるからな)
外の砂嵐はさらに激しさを増していたが、俺の「中」だけは、春の午後のような温かさに包まれていた。
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