第17話 雲の上のDIY、未知の素材と空の脅威
高度1500メートル。
わが家――移動要塞『エデン』のテラスからは、どこまでも続く雲海と、吸い込まれるような蒼天が広がっていた。
「……ふわぁ、すごい! 仙太さん、見て! 雲が綿菓子みたいに下にあるよ!」
ミアが手すりに身を乗り出し、はしゃいだ声を上げる。リンクを通じて、彼女の胸の鼓動がダイレクトに伝わってくる。高揚感、少しの恐怖、そして俺への全幅の信頼。
『ミア、あまり身を乗り出すなよ。……リリ、サンルームの気圧はどうだ?』
俺がミアの声を借りて問いかけると、新設された三階のサンルームからリリが元気に手を振った。
「ばっちりだよ! 仙太さんが作ってくれた『気圧調整式・多層ビニールカーテン』のおかげで、トマトもキャベツもピンピンしてるよ! 心なしか、お日様に近くなったから成長が早いかも?」
リリが管理するサンルームは、今やこの家の貴重な酸素供給源兼、食料生産プラントだ。高高度の紫外線対策として、俺はバベルの残骸から抽出した「遮光魔法銀」をガラスに蒸着させ、UVカット率99.9%の最強窓を実現していた。
だが、空の旅は快適なだけではない。
「店長、前方に高エネルギー反応! 巨大な積乱雲よ……いえ、あれはただの雲じゃない。魔力が飽和してスパークしてる、『雷雲の巣』だわ!」
アウラがモニターを指差し、警告を発する。
前方には、どす黒い雲が渦巻き、青白い雷光が激しく明滅していた。普通の飛行船なら回避一択の難所。だが、俺の「DIY魂」が、その雲の中に眠る「お宝」に反応した。
『……いや、あの中に突っ込む。……アウラ、あの雷光の正体は何だ?』
「……嘘でしょ!? あれは『雷精の涙』と呼ばれる、純度100%の雷結晶よ。地上の雷に打たれた場所に稀に落ちている激レア素材だけど……雲の中なら、その原石がゴロゴロしてるはずよ」
『決まりだ。……空飛ぶホームセンターに「発電セクション」が必要だと思ってたんだ。……ミア、操舵を任せる。雷撃をあえて「避雷針」で受け止めるぞ』
俺は即座に、屋上のアンテナを改造し、バベルの超伝導材を用いた「蓄電式・巨大避雷針」をDIYで突き出した。
「了解、店長! ……突入します!」
ミアの操作により、家が大きく旋回し、黒雲の中へとダイブする。
激しい揺れ。窓を叩く凄まじい雨と風。
だが、家全体を覆う「逆位相・自己修復装甲」が、衝撃を次々と吸収し、歪みを即座に正していく。
バリバリッ!! ズドォォーン!!
「きゃああっ!!」 「きたわ、直撃よ!!」
巨大な落雷が、家の避雷針を直撃する。
だが、そのエネルギーは破壊ではなく、俺が構築した「魔導コンデンサー」へと一気に流れ込んだ。
『――エネルギーチャージ率、400%を突破。……よし、精錬開始!』
俺は溢れんばかりの雷エネルギーを使い、装甲の外側に張り付いた雲の中の微細な金属粒子――「高高度レアメタル」を一気に溶着、回収していく。地上では決して手に入らない、軽くて硬い「天空銀」の獲得だ。
嵐を抜けた時、わが家の外装は、さらに神々しい白銀色へとアップデートされていた。
「……ふぅ。死ぬかと思ったけど……見て、仙太さん。この結晶、すごく綺麗……」
ミアの手のひらには、嵐の中で回収した、パチパチと火花を散らす青いクリスタルが握られていた。
と、その時。
ミアの魔力感知が、雷雲の向こう側に「別の影」を捉えた。
「……えっ? 仙太さん、あそこ! 誰か戦ってる……?」
雲海を抜けた先にいたのは、一隻のボロボロになった飛行帆船だった。
船体には「自由商業都市メルカトル」の紋章。
それを囲むように、巨大な怪鳥――「ワイバーン」の群れが襲いかかっている。
「あれはメルカトルの商船ね。……まずいわ、エンジンが止まってる。このままだと墜落か、ワイバーンの餌食よ」
アウラが冷静に分析する。
ゼイルが地下から「助けるのか?」と短く問う。
俺は少し考え、掲示板に、ホームセンター店員としての「最高の笑顔」の顔文字を表示させた。
『……新規顧客の開拓チャンスだ。……ミア、全速前進。リリ、接舷準備(タラップのDIY)だ。アウラ、あの船のエンジンを「一分で修理するプラン」を組め』
「了解! 困ってるお客さんは、放っておけないもんね!」
空飛ぶ家が、ワイバーンの群れを「対空接着剤噴射」で蹴散らしながら、今にも落ちそうな商船へと急接近する。
商船のデッキで絶望していた商人たちが目にしたのは、雲の中から現れた、銀色に輝く「家」だった。
その家の玄関が開き、そこから見事なスロープがひとりでに伸びてくる。
「な、なんだあの家は……!? 救助か? 幻覚か!?」
『――こんにちは、メルカトルの商人さん。……お困りのようですね。わが家では現在、出張修理キャンペーンを実施中です。……お支払いは、その船に積んでいる「珍しい種」か「見たことのない鉱石」でいかがでしょうか?』
ミアを介した俺の声が、空に響き渡る。
それは、帝国でも他国でもない、全く新しい「空の経済圏」が誕生した瞬間だった。
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