第16話 呪具の無力化リフォームと、空飛ぶ家の設計図
朝日が、銀色の外装に生まれ変わった「わが家」を照らす。
庭先では、昨夜の空中暗殺者たちが、接着剤まみれのまま巨大なクッションキノコに埋もれて白目を剥いていた。
「……店長、おはよう。……あの人たち、一晩中『キノコの胞子が鼻に入ってくしゃみが止まらない』って泣いてたよ。可哀想だから、後で剥離剤をかけてあげようね」
リビングのコントロール・センター。
ミアが寝ぼけ眼をこすりながら、俺の「OS」に優しく語りかけてきた。リンクを通じて、彼女の体温や穏やかな心拍が、俺の構造体全体に心地よく伝わってくる。
『ああ、おはようミア。……だが、その前にやるべき「仕分け」がある。……アウラ、例のブツはどうだ?』
俺はアウラ専用の「地下実験室(バベルの資材を贅沢に使った、防爆・遮音完備の特注室)」に、ホログラムの文字を表示させた。
アウラは、徹夜明けとは思えないギラついた目で、ピンセットを手に「汚染の楔(呪具)」と対峙していた。
「最高よ、店長。この呪具、中に込められているのは『強制的な分子結合の崩壊』……つまり、物質を腐らせる指向性を持った超高密度の負のエネルギーだわ。……普通の魔法使いなら触れただけで発狂するけど、あなたの『真空シールド容器』のおかげで、安全に解析できているわ」
俺は、ホームセンターの「産業廃棄物処理」の知識を応用し、鉛とミスリルを多層に重ねた「高レベル放射性廃棄物……ならぬ、高レベル魔力汚染物用シールド」をDIYで即座に製作していた。
『そのエネルギー、単に封印するのはもったいないな。……アウラ、これを「逆位相」で出力できないか?』
「……っ! つまり、崩壊を『再生』に変換するのね? ……天才的ね、あなた。この楔のエネルギーを微弱なパルスとして家中に循環させれば、外壁の傷や歪みを自動的に元通りにする『自己修復型・スマート建材』が完成するわ!」
アウラが狂喜乱舞しながら、設計図を書き換えていく。
敵が放った「滅びの道具」が、俺の【超絶DIY】によって「永遠の美しさを保つための建材」へとリサイクルされる瞬間だ。
その時。
モニター越しに地下のゼイルが、真剣な表情で口を開いた。
「……仙太殿、聞こえるか。……『イーター』が失敗したとなれば、帝国はもはやなりふり構わず、他国との軍事境界線を越えてでも本隊を送り込んでくるだろう。……だが、それ以上に厄介なのは『冒険者ギルド』や、隣国の『商業都市国家』が動くことだ。……空飛ぶバベルを墜とした『不落の館』。その情報を得た連中が、ここを中立地帯の『聖域』、あるいは『略奪の対象』として狙い始める」
ゼイルの言葉には、元将校としての重みがあった。
もはや、俺たちは荒野の片隅でひっそりと暮らすことはできない。
『……なら、選択肢は一つだ。……ここを「誰にも干渉できない、空の上の聖域」にする』
俺がそう表示した瞬間、ミアの意識が強く揺れた。
リンクを通じて、俺の深層心理――「前世の記憶」が、濁流のようにミアの脳内に流れ込んでしまったのだ。
「……えっ? ……ここ、は……どこ?」
ミアの視界が、一瞬だけ切り替わる。
そこは、異世界の荒野ではない。
雨の降る夜。蛍光灯の下。
どこまでも続く金属製の棚。段ボールの匂い。 フォークリフトの駆動音。
そして、一人で黙々と商品を陳列する、孤独な男の背中。
「……仙太さん? ……あなたは、ずっと一人で……誰からも見られない場所で、みんなの『暮らし』を守ってたのね。……重たい荷物を運んで、傷ついても、誰にも『痛い』って言えずに……」
ミアの意識が、前世の俺――穂村仙太の孤独に触れた。
ホームセンターという巨大な「家」のような場所で、便利さを提供しながらも、自分自身の「帰る場所」を持たなかった、あの切ない日々。
「……ごめんね。寂しかったよね。……でも、今はもう一人じゃないよ。……私が、リリちゃんが、アウラさんがいる。……ここが、あなたの『お家』なんだから」
ミアの暖かい感情が、コアの深部を包み込む。
それは、どんな魔力供給よりも俺を強くし、システムの最適化を加速させた。
『……ああ。ありがとう、ミア。……おかげで、最高の「空飛ぶ設計図」が完成したぜ』
俺は、全モニターに、これまでで最も巨大なホログラムを展開した。
capturedした飛行ユニットの四基の魔導エンジン。
それを家の四隅に、油圧式可動アームと共に配置する。
制御はミアの「OSリンク」が担当し、動力源はバベル・コア。
そして外壁には、呪具を変換した「自己修復装甲」が施される。
『プロジェクト名「スカイ・ホームセンター・ホムラ」。……いや、もっとカッコよくいこう。……移動要塞都市「エデン」の第一段階だ。……諸君、増築工事を再開する! ターゲットは、この空のすべてだ!』
「了解、店長! ……高度1000メートルまで、一気にリフォームしちゃおう!」
ミアの明るい声が、二階建ての要塞に響く。
アウラは「設計図の黄金比が狂うわ!」と叫びながらも、嬉々としてエンジンマウントの計算を始め、リリは「空の上でも野菜が育つように、サンルームの気圧調整機能を強化しなきゃ!」と意気込んでいる。
地下のゼイルは、「……空を飛ぶ家、か。……帝国も、さすがに空までは追いかけてこれまい」と、ついにトレーニングの手を休め、爽やかな顔で笑っていた。
そして、俺は。
前世で果たせなかった「自分自身の幸せな暮らし」を、この異世界の空に作り上げることを誓った。
ズゥゥゥン……!
四基の魔導エンジンが火を噴き、巨大な質量が、大地という束縛を断ち切った。
荒野に、猛烈な下降気流が吹き荒れる。
接著剤でキノコにくっついた暗殺者たちが「飛んだああああ!?」と叫ぶ中。
わが家は、朝日を浴びて、悠然と大空へと舞い上がった。
目指すは、どの国にも属さない、世界で最も快適な「空の中立地帯」。
俺たちのDIY建国記は、いま、三次元の自由を手に入れ、世界を驚愕させる第二章へと突入した。
お読みいただき、ありがとうございます!
よろしければ、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです!




