第15話 空中暗殺者vs全方位防衛システム
夕闇に染まる荒野。その上空を、帝国の特殊暗殺部隊『イーター』の三人が、高機動飛行ユニットを駆って滑るように進んでいた。
彼らが跨るのは、魔導エンジンで駆動する「空飛ぶ箒」をさらに軍事転用した、鋭利なシルエットの騎行機だ。
「……目標確認。バベルを呑み込んだという『化け物屋敷』か。アウラもゼイルも無様に捕まったようだが、我ら影の仕事人には関係のないことだ」
リーダー格の男が、仮面の下で冷酷に告げる。
彼らの手には、帝国の禁忌とされる「魔力汚染の楔」が握られていた。これを家の心臓部――コアに打ち込めば、どれほど強固な建築物も、内側から腐り落ち、ただの瓦礫の山へと還る。
だが、彼らが高度を下げ、急降下体制に入った瞬間――。
『――敵影、第一防衛ラインに接触。磁場、アクティブ。ラミネート・シールド、展開!』
家のスピーカーから、ミアの凛とした声が響き渡った。
同時に、二階建ての家の周囲に、キラキラと輝く「銀の破片」が無数に舞い上がった。
「なんだ、あのキラキラした粉は……。バリアか? いや、薄い金属の板か!?」
暗殺者の一人が、空中で速度を落とさずに突っ込む。
だが、その「破片」は、単なる魔法の壁ではなかった。
(……アウラ、解説を頼む。俺は今、出力の調整で忙しい)
「ええ、任せて店長! ……いい、不届きな侵入者たち。それはバベルの外壁を厚さ0.5ミリに精密スライスし、俺が開発した『高極性絶縁体』でコーティングした物理防盾よ! それを家中を巡る磁場で制御し、多層に重ねることで……あらゆる魔法攻撃と物理衝撃を分散・減衰させる。名付けて、『DIY式・磁力多層積層装甲』!!」
アウラの誇らしげな声とともに、銀の破片は空中で幾重にも重なり合い、見えない「盾」を形成した。暗殺者が放った魔導弾は、装甲板の表面を滑るように逸らされ、空中で虚しく霧散する。
「チッ、物理的な盾だと!? ならば、その隙間を縫って潜り込むまでよ!」
暗殺者たちは、縦横無尽に機体を操り、盾の配置が薄い「死角」へと回り込む。
高度な飛行技術。だが、そこには「庭師」の罠が待ち構えていた。
『リリ、二段階目の「害虫駆除」を開始してくれ!』
ミアの声に応じ、庭に設置されたビニールハウスの天窓が一斉に開いた。
「はーい! 仙太さんが作ってくれた『超濃縮・液体肥料』と、私の『豊穣の加護』……混ぜ合わせたら、こんなにすごいことになっちゃった! ……えいっ、ひかりゴケの花粉、散布!!」
リリが魔力を込め、特製の散布機(噴霧器の改造版)のスイッチを入れる。
シュオォォォッ! という音とともに、家全体を包み込むような、黄金色の「光り輝く胞子」が大量に噴射された。
「ぐっ、なんだこの粉は……!? 目が、目が眩む! それに、魔力感知が攪乱されるぞ!」
暗殺者たちは、美しくも厄介な胞子の霧に包まれ、視界を完全に奪われた。
ただの粉ではない。リリが育てた「ひかりゴケ」の胞子は、周囲の魔力を吸収して自ら発光し、レーダーを無効化するチャフとしての機能を持っていた。
さらに、胞子は飛行ユニットの吸気口にも吸い込まれていく。
(……リリ、お前の育てたコケは、栄養が良すぎて『粘り気』がすごいな。これなら、エンジンのフィルターが詰まるのも時間の問題だ)
「あはは、ごめんね。でも、お野菜も暗殺者も、栄養がありすぎると動きが鈍くなっちゃうんだよ!」
リリの天然なセリフとは裏腹に、飛行ユニットのエンジンから「異音」が漏れ始める。
視界を失い、機動力も低下した暗殺者たち。 そこへ、ミアの「家の声」が追い打ちをかけた。
『店長より、最終施工の承認が降りました。……不法侵入者の皆様、わが家の「おもてなし」をその身でお受け取りください。……高圧噴射、セット!』
俺は、二階のテラス部分から「掃除用」として偽装されていた三門のノズルを突き出した。
中に入っているのは、以前に使用した「超強力瞬間接着剤」の、さらなる改良版だ。
今回は、空中で霧散しないよう、ゲル状に加工してある。
ビュッ、ビュッ、ビュウウゥゥッ!!
「な……っ、なんだ、この白い液体は……!? ぎゃああああっ、ベタベタする! 翼に、翼に張り付いて離れない!」
胞子の霧で立ち往生していた暗殺者たちは、空中で放たれた「超高粘度ゲル」の直撃を受けた。
ゲルは彼らの服、飛行ユニット、そして互いの機体を、空中で無慈悲に接着していく。
「バ、バカな……空中で『接着』されるだと!? 墜ちる、墜ちるぞ!!」
『安心してください。……落下地点には、リリちゃんが育てた「超柔軟性・巨大クッションキノコ」を、昨夜のうちにDIYで配置済みです』
ドスッ! ボスッ! ぐにゃん!
地面に激突する寸前、暗殺者たちは俺が庭のあちこちに増殖させていた、直径三メートルの巨大なマッシュルーム状のクッションに受け止められた。
もちろん、クッションの表面にも「接着剤」が塗布されている。
三人の暗殺者、および三機の飛行ユニットは、まるで巨大なハエ取り紙に捕まった虫のように、不恰好に絡まり合ったまま、俺の庭の「オブジェ」と化した。
静寂が戻る。
リビングでは、ミアがふぅ、と長い息を吐き、リンクを解除した。
「……お疲れ様、仙太さん。……あの子たちの心臓の音、まだドキドキしてる。……死んでないみたいで、よかった」
『ああ。死なれたら、貴重な「仕入れ先」が台無しだからな。……ミア、リリ、アウラ。見事な連携だった。店長として誇りに思うぞ』
俺は掲示板に、最高の称賛を込めた花丸のマークを描き出した。
地下室のゼイル将校は、もはや画面を直視することすらできず、黙々と腹筋運動に励んでいた。
「……イーターまでもが、キノコの上でダンスを踊らされるとはな。……帝国よ、もうここへは来るな。これ以上、情けない仲間が増えるのは、私の精神が持たない……」
(……さて、戦利品の検品だ。あの飛行ユニットの『高出力魔導エンジン』。これを分解して四つ合わせれば……わが家を浮かせるための「ホバーユニット」に改造できるんじゃないか?)
俺の中で、またしても新しい「設計図」が動き始める。
空を飛ぶ敵を捕らえたことで、わが家はついに「大地」という制約を捨て、大空へと飛翔するための素材を手に入れたのだ。
一方、回収された暗殺者たちが持っていた「汚染の楔」。
アウラがそれをピンセットでつまみ上げ、興味深そうに眺めていた。
「これ……呪いの道具だけど、極限まで圧縮された『高密度魔力』の塊だわ。……仙太。これを使えば、三階の増築どころか、この家全体に『自己修復機能』を持たせられるかもしれないわよ?」
『……最高だ。呪いの建材、大歓迎だぜ。……よし、明日の工程が決まったな。まずは、接着剤まみれの連中から「契約書(永住権)」にサインをもらうところから始めようか』
俺の家は、襲撃を受けるたびに、その傷跡を勲章に変えていく。 荒野に建つ銀色の要塞住宅は、今夜もまた、住人たちの笑い声と、DIYの槌音に包まれていた。
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