第13話 二階建て増築と、設計主任アウラのこだわり
「……信じられない。この膨大な資材の山を、たった一晩で『整理整頓』してしまったというの?」
翌朝。わが家のリビング(旧・ボロ屋部分)に足を踏み入れたアウラ・マナは、昨日までの敵意をどこかへ置き忘れたような顔で、窓の外を凝視していた。
昨夜、俺が解体・仕分けを完了した移動要塞バベルの残骸は、いまや「規格化された資材」として、家の周囲に整然と積み上げられている。
厚さ50ミリのミスリル合金装甲は、防錆・防汚コーティングを施した「外壁パネル」へ。
巨大な魔導水晶の破片は、エネルギー伝導効率を高めた「魔導バスバー(母線)」へ。
そして、あの美しい大理石の尖塔は、一枚一枚丁寧にスライスされ、鏡面研磨された「フロアタイル」へと生まれ変わっていた。
『アウラ殿、おはよう。現場の朝は早いんだ。……さて、昨日言った通り、今日からわが家の「増築工事」に入る。お前には設計主任として、この図面のブラッシュアップを頼みたい』
俺は、リビングの壁面に巨大な「3D設計ホログラム」を投影した。
それは、現在のボロ屋部分を核として、その上にバベルの資材を贅沢に投入した「二階建てプラン」だ。
「……何よ、この無機質な箱は! 機能性は認めるけれど、黄金比が全く考慮されていないわ。窓の位置もバラバラ、屋根の勾配も急すぎてエレガントじゃない! 私が設計するなら、ここには螺旋階段を配置して、二階のテラスからは荒野を一望できる回廊を作るべきよ!」
アウラが眼鏡を光らせ、俺のホログラムを指先で操作し始める。
彼女の魔力が設計図に触れるたび、角張った「ホームセンター的実用建築」が、流麗なアーチを描く「王宮建築」へと上書きされていく。
(……なるほど。確かにそのアーチは荷重分散の面でも合理的だ。だが、階段を螺旋にするなら、資材の搬入動線が死ぬ。そこは『可動式のリフト』を仕込むべきだろう)
『アウラ、美学もいいが、メンテナンス性を忘れるな。外壁のアーチ部分に、清掃用のアームが届かない設計は二流だ。それと、二階にはリリのための「屋内植物園」を併設する。バベルの魔導水晶を熱源にした、全自動温湿度管理システムだ』
「メンテナンス性? 清掃アーム? ……ふん、そんなの魔法で掃除すればいいじゃない。でも、そのサンルームの案は……悪くないわね。リリの能力を建物の魔力供給源に組み込むという発想は、私にはなかったわ」
俺とアウラ。
「現代DIY工学」と「宮廷建築魔法」。
二つの異なる設計思想が、激しい火花を散らしながら、一つの建物の形へと収束していく。
ミアとリリは、その「天才(?)たちの衝突」を、朝食のトーストを齧りながら楽しそうに眺めていた。
「仙太さんとアウラさん、なんだかんだで息がぴったりだね」
「そうね、リリちゃん。二人とも、お家を良くすることしか考えてないみたい」
ミアが笑いながら言う。
俺は彼女たちの期待に応えるべく、ついに「着工」を宣言した。
『設計完了。……施工開始!』
その瞬間、わが家を支える土台から、凄まじい魔力の奔流が溢れ出した。
バベルの心臓部から回収した「無限の魔導水晶」を、俺のコアに直結した効果だ。魔力不足による制約は、もうこの家には存在しない。
ギギギギ……ッ!
家そのものが「脱皮」するように、古い外壁が剥がれ落ち、中からバベルの資材で再構成された強靭なフレームがせり上がっていく。
一階の天井が持ち上がり、その上に新しいフロアが形成される。
「すごい……! バベルの装甲が、まるで生き物みたいに形を変えて、二階の壁になっていく……!」
リリが声を上げる。
アウラが提案した流麗なアーチ状の窓枠には、俺がリサイクルした強化ガラスが吸い付くように嵌まり込む。
そして仕上げに、俺はバベルの水晶エネルギーを家庭内全体に配電する「スマート魔導グリッド」を構築した。
(これで家中どこでも、呪文なしで魔導家電が使い放題だ。……よし、二階の増築、完了だ!)
完成したのは、かつてのボロ屋の面影を「カモフラージュ」として一階の外装に一部残しつつ、その上部に白銀の装甲と大理石が輝く、異形の、しかし美しい「要塞住宅」だった。
二階の「サンルーム」に足を踏み入れたリリは、その完璧な日当たりと、床暖房が完備された栽培スペースに感涙していた。
「……あったかい。ここなら、どんな珍しいお野菜でも育てられるわ!」
一方、二階の「アウラ専用設計室」では、彼女が俺のDIYした「高さ調節機能付き製図デスク」の座り心地に、またしても屈服していた。
「……負けたわ。この椅子の『ランバーサポート』という概念……宮廷の玉座よりも快適だなんて……。これなら、三階の増築図面も一日で書き上げられそうだわ」
そして、一階のリビングでは。
地下のゼイル将校が、モニター越しに映る「要塞の残骸が豪華な内装に変わった姿」を見て、ついに考えるのをやめていた。
「……もう、どうでもいい。あのバベルの魔導水晶を『給湯器の予備電源』に使っている時点で、帝国の常識は死んだ。……仙太殿、次は、三階に私の『トレーニングルーム』を作ってくれないか? このウェア、動きやすいから鍛え甲斐があるんだ」
(……いいぜ、ゼイル。お前もだんだん「住人」らしくなってきたな)
俺は、住人たちの満足度が向上したことを確認し、新たな家の中心部に据えた『バベル・コア』の出力を安定させた。
だが、俺たちの平穏は、長くは続かない。
帝国の象徴であった移動要塞バベルが「消滅(解体)」したというニュースは、瞬く間に大陸中を駆け巡る。
次にやってくるのは、アウラのような一技術者ではない。
「国家」という名の巨大な暴力が、この「世界で最も快適な要塞」を奪い取りにくるはずだ。
『……受けて立つさ。次は、空でも飛べるように改造してやるからな』
俺は、アウラが書き始めた「三階建て(および飛行ユニット)」の設計図に目を通しながら、次の「資材調達(防衛戦)」のための在庫確認を始めた。
ボロ家から始まった俺のDIY建国記。
その二階建ての窓からは、いま、未来という名の広大な地平線が見えていた。
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