第12話:移動要塞バベル解体工事、開始!
「ターゲット確認。……デカいな。だが、デカいということは、それだけ『歩留まり』がいいってことだ」
地平線を埋め尽くす巨躯、移動要塞バベル。その質量がもたらす地響きは、俺のコーヒーカップ(自作のボーンチャイナ風)の表面を細かく揺らしていた。
地下室では、最新のタクティカル・ウェアに身を包んだゼイル将校が、壁に投影された外部モニターを見上げて絶望に染まっていた。
「バカな……バベルが、あれは帝国の最終回答だぞ。山を削り、街を一つ飲み込む移動要塞だ。……それを『歩留まりがいい』だと? 貴殿はあの巨城を、ただの資材の塊だとでも思っているのか!?」
『ゼイル将校、現場では「大きいことは良いこと」だ。一度の解体で、わが家の今後十年分のネジとボルトが手に入るんだからな。……さて、ミア、リリ。作業開始だ』
俺は掲示板の文字を鮮やかな黄色(注意喚起色)に書き換えた。
「仙太さん、見えるよ! 要塞の脚の付け根、そこにある巨大な魔力の『結節点』……ボルトが三十二本、円状に並んでる。そこが重さを支える一番の弱点!」
ミアが「魔力感知」を極限まで絞り込み、巨大な要塞の構造的急所を指し示す。
ただ「見る」だけじゃない。彼女の能力は、俺の【超絶DIY】とリンクすることで、まるでレントゲン写真のようにバベルの内部図面を暴き出していた。
(よし、そこだな。あんな巨大なものを力任せに倒す必要はない。「連結」を解除してやれば、自重で崩壊するのが物理の摂理だ)
『リリ、お前の出番だ。ハウスの横にある「圧力噴射ノズル」のバルブを開けろ』
「は、はい! これを右に回せばいいのね!?」
リリが全力でバルブを回す。
俺が地下に埋設していた高圧配管から、特製の「魔導剥離・潤滑剤」が地表に向けて噴き出した。
それは霧状になり、バベルの巨大な脚部へと吸い込まれていく。
俺が目指したのは、潤滑と腐食の同時進行。ネジ山を滑らかにしつつ、固定用の「錆び」や「癒着」を一瞬で分解する、現場泣かせの配合だ。
「……何よ、その霧は! 効かないわ、バベルの装甲は魔法耐性100%なのよ!」
頂上でアウラが叫ぶ。
だが、これは魔法じゃない。物理と化学の「DIY」だ。
ギチィィィィィィッ……!
悲鳴のような金属音が荒野に響き渡った。
バベルの右前脚、その最大荷重がかかる関節部の巨大ボルト三十二本が、潤滑剤によって「あまりにもスムーズに」回りだしたのだ。
「え……? 嘘、ボルトが……抜けていく!? 自動で!?」
アウラの驚愕を余所に、自重に耐えかねたボルトが次々と弾け飛ぶ。
一本、また一本。 三十二本のボルトが消失した瞬間、高さ五十メートルの要塞が、ガクンと膝をついた。
『ターゲット、挙動停止。……さて、ここからは「整理整頓」の時間だ』
俺は【超絶DIY】をフル稼働させ、地面から無数の「解体用魔力アーム」を触手のように伸ばした。
アームの先端には、超硬合金のチップがついた「インパクトドライバー」と「レシプロソー(電動往復鋸)」を換装。
「や、やめて! 私のバベルが、私の黄金比の結晶が、バラバラに……!」
アウラの悲鳴。
だが、俺の手に容赦はない。 外装のミスリル合金プレートを一枚ずつ丁寧に剥がし、サイズごとに仕分けして『資材倉庫』へ。
中の魔導配線は銅線と魔力回路に分離。 尖塔の大理石は、欠けがないように「クレーン吊り」の要領で優しく地面に下ろしていく。
「すごい……仙太さんのアーム、あんなに大きいものを、まるで積み木を崩すみたいに……」
リリが感嘆の声を漏らす。
地平線を埋め尽くしていた要塞は、わずか数分で「山積みの資材」へと姿を変えた。
残ったのは、中央に座座する巨大な動力源――「無限の魔導水晶」と、その横で腰を抜かしているアウラだけだ。
『アウラ殿、いい材料だった。特にこの脚部のシリンダー、わが家の「自動ドア」に流用させてもらう。……さあ、そこ(更地)に座っていても風邪を引くだけだ。中に入れ。お前には「解体後の清掃」と「図面整理」の仕事が待っている』
アウラは、目の前に現れた「玄関への誘導灯」と、俺の圧倒的な「現場力」を前に、ついに杖を落として項垂れた。
「……負けたわ。建築を『支配』だと思っていた私と、建築を『愛(DIY)』だと言い切るあなた。……その設計図、見せなさいよ。私がもっと完璧に仕上げてあげるから……!」
こうして、帝国最強の建築師アウラもまた、わが家の「設計主任」として強制雇用されることとなった。
(よし、バベルの解体完了。……ミア、リリ、アウラ。そして地下のゼイル。……住人が増えて、いよいよこのボロ屋も手狭になってきたな。……明日からは、リサイクルした資材で「二階建てへの増築」に入るぞ!)
俺の【超絶DIY】。
それは、敵すらも建材に変え、絶望さえも居心地の良さに変換する。 ボロ屋から始まった俺の城は、いま、伝説の移動要塞を飲み込んで、さらなる巨大化への産声を上げた。
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