第11話 家庭菜園のDIYと、地平線に現れた「歩く巨大資材」
「……土が、喜んでる。仙太さん、このお庭、すごく素敵な『寝床』になりそう!」
翌朝、リリは昨夜の怯えが嘘のように、キラキラと目を輝かせて家の周囲を駆け回っていた。
彼女の足元では、荒野の硬い土が、俺の【超絶DIY】によって劇的な変貌を遂げつつあった。
(まずは土壌改良だ。ホームセンターの園芸コーナーの知識をフル回転させるぜ。リサイクルした瓦礫からリン酸とカリウムを抽出し、魔力で精製したピートモスとパーライトを混合……。仕上げに、リリの「豊穣の加護」を触媒にして、土中の有用微生物を爆発的に増殖させる!)
俺は、家の南側に広がる空き地を、等間隔に区切られた「レイズドベッド(立ち上げ花壇)」へと作り替えた。
素材は、アウラから奪った「世界樹の枝」の端材を加工した、防腐性の高い木枠。そこに、俺が調合した「異世界版・最高級培養土」をたっぷりと流し込む。
「すごい……! 私が植えた種が、もう芽吹こうとしてる。お水も、地下から魔法の管を通って、一番欲しいところに届いてるわ!」
リリが驚くのも無理はない。俺が施工したのは、イスラエル発祥の最新農業技術「点滴灌漑」のDIY版だ。蒸発ロスを最小限に抑え、必要な分だけを根元に届ける。
『リリ、さらに仕上げだ。その芽を「病気」と「害虫」から守るための、DIYビニールハウスを建設するぞ。……といっても、ただのビニールじゃないがな』
俺は、リリが種を蒔いた区画を覆うように、透明度の高い「強化魔導ポリエチレン」のドームを出現させた。
このフィルムは、有害な紫外線をカットしつつ、植物の光合成に最適な波長の光だけを透過させる。さらには、温度に応じて自動で開閉する「形状記憶合金」の天窓付きだ。
「これなら、雪が降っても嵐が来ても、お野菜たちは安心ね。……仙太さん、あなたは本当に、なんでも作っちゃうのね」
ミアが、出来立てのビニールハウスを興味深そうに指で突つく。
銀色の髪をなびかせながら笑う彼女たちの姿は、昨日までの殺伐とした荒野に、鮮やかな生命の彩りを与えていた。
(ふむ。これで「食」の自給自足体制は整いつつあるな。……だが、平穏な開拓時間はここまでだ)
俺の「超長距離・地殻振動センサー」が、地平線の彼方から響く、不気味な足音を捉えた。
ズゥゥゥン……。ズゥゥゥン……。
それは、生物の足音ではない。
数千トンの鉄と石が、大地を無理やり踏みしめる「機械的」で「傲慢」な地響きだった。
『……来たか。アウラの言っていた「移動要塞」だな』
俺はリビングの掲示板に、警告の赤文字を表示させた。
同時に、外壁のカモフラージュを透過し、北の地平線を「超望遠レンズ」の視界でメインモニターに映し出す。
「な……なに、あれ……。お城が、歩いてくるの……!?」
ミアが絶句した。
そこにあったのは、高さ五十メートルを超える、異形の構造体だった。
四本の巨大な多脚を持ち、背中には幾層にも重なる尖塔と砲門。中央にはアウラのエンブレムが刻まれた巨大な魔導水晶が鎮座している。
帝国が古代遺産を改造して作り上げた、独立侵攻型要塞『バベル』。
「……アウラ様だわ。本気でこの場所を、更地にするつもりなんだ……!」
リリが震える声で呟く。
要塞の頂上には、新調した眼鏡を光らせ、仁王立ちするアウラの姿が見えた。彼女は拡声魔法を使い、荒野にその声を轟かせる。
「聞こえるかしら、名もなき『意思持つ家』よ! あなたの小細工も、この絶対的な『質量』の前には無力よ! 跪きなさい、さもなくば私の最高傑作の重みで、その歪な構造ごと押し潰してあげるわ!」
要塞の足が一歩進むたびに、俺のレイズドベッドの土が微かに震える。 だが、俺の意識は恐怖ではなく、冷徹な「査定」モードに入っていた。
(……ほう。あの多脚の関節部、複雑な油圧……いや『魔圧シリンダー』で動いているな。装甲は古代のミスリル合金か。……あの中央の魔導水晶、あれがあれば、わが家の「全自動・全方位バリア」の出力が今の百倍は出せるな)
俺は、巨大な要塞の隅々まで「見積もり」を出し始めた。
(あの尖塔の石材、よく見ると大理石の最高級品じゃないか。わが家の玄関ホールに敷き詰めるのに丁度いい。……それから、あの脚部のベアリング。あれを分解すれば、わが家を「回転式展望台」に改造するための回転軸に転用できる……)
『ミア、リリ。心配するな。……あいつは「敵」じゃない』
俺は掲示板に、落ち着いたフォントでこう表示した。
『あいつは、向こうから歩いてきた「超大型・建材セット」だ。……よし、注文通りの品が届いた。これから、あの要塞を「全パーツ解体」して、わが家の増築資材にリサイクルする作業に入る。……現場監督(俺)の指示に従え。絶対に怪我はさせない』
「……仙太さん、あの巨大な要塞を、バラバラにして再利用するつもりなの?」
ミアが呆れたように、でもどこか期待に満ちた目で問いかける。
(ああ。DIYの真髄は、無駄なものを宝に変えることだ。……さて、まずはあの大仰な脚の「ネジ」を一気に緩めてやるとするか。潤滑油代わりに、さっきの『剥離剤』を魔導噴射で送り込んでやる!)
俺は、要塞の進路に向けて、地下から密かに「トラップ配管」を伸ばし始めた。
アウラが誇る「黄金比の要塞」が、ホームセンター店員の「解体ショー」の餌食になるまで、あとわずか。
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