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【全自動DIY】ホームセンター店員、意思を持つ「家」に転生する。〜釘一本から始める異世界建築、気づけば究極の魔導城になっていた〜  作者: ねこあし


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第1話 積荷の下敷きからボロ屋へ、俺のDIYは異世界でも止まらない

「痛って……。いや、痛いっていうか、感覚が……消えていくのか?」


 俺、穂村仙太(ほむらせんた)の人生は、愛してやまない資材に囲まれて幕を閉じた。


 勤務先のホームセンターの大型倉庫。高さ四メートルのパレットラックから、不運にもバランスを崩した「園芸用培養土(25リットル入り)」が三十袋、一気に俺の頭上へと降り注いできたのだ。


 意識が遠のく中で最後に思ったのは、「ああ、昨日奮発して買ったマキタの最新型インパクトドライバー、まだ一度もトリガーを引いてないのに……」という、あまりに救いようのない、職人としての未練だった。


 次に目覚めたとき、俺の視界は――いや、「世界」は一変していた。


 視界が360度、全方位に広がっている。


 まるで、自分の意識が建物の図面と完全に同期しているような感覚。


 手足の感覚はない。代わりに、全身を突き抜けるような「酷い軋み」を感じた。


(なんだこれ……? 背中が、いや、柱が歪んでいるのか?)


 ひゅうひゅうと脇腹から抜ける冷たい風。それは、壁の漆喰が剥がれ、野地板が腐り落ちた隙間を通り抜ける不快な感覚だった。


 肌に当たる湿気は、シロアリに食われた土台の悲鳴として伝わってくる。


《個体名:穂村仙太。再構成を完了しました。種族:ハウス・コアに適合》

《固有能力:【超絶DIY】が起動。素材の生成・変換、構造の最適化、領域感知が可能です》


 脳内に響く無機質な声。


 ハウス・コア? 


 家、だと?


 混乱する意識を鎮め、自分の「体」を確認してみる。


 俺はどうやら、見渡す限り荒野が広がる街道沿いにポツンと建つ、一軒の「ボロ屋」そのものに転生してしまったらしい。


 だが、ホームセンター店員として、そしてDIYマニアとして、この現状は看過できなかった。


「……なんだ、この施工は! 面取りもされてない粗末な角材、ピッチがバラバラな錆びた釘、おまけに含水率を無視した未乾燥材を使っていやがる。これは『家』じゃない。資材への冒涜だ!」


 声は出ないが、職人としての魂が激しく燃え上がった。


 自分が人間でなくなった恐怖よりも先に、目の前の「不良物件」を直したくてたまらなくなったのだ。


《DIYメニュー:基礎および内装の緊急修復。実行しますか?》


(当然だ! 俺の体を……この家を、最高の手触りに仕上げろ!)


 その瞬間、俺の「体」を熱い奔流が駆け巡った。


 まるで血管を熱い血液が流れるような、あるいは乾いた木材が上質なオイルを吸い込むような快感。


 ギチギチギチッ……!


 柱が鳴る。だが、それは崩壊の音ではない。


 歪んでいた「背骨」が、レーザー墨出し器を当てたようにミリ単位の精度で垂直へと正されていく。


 地面に埋まった礎石がググッと持ち上がり、完璧な水平を取り戻す。


 次に俺は、床板に意識を向けた。


 俺の意思に呼応し、周囲の空気から抽出された魔力が物質へと変換される。


 バキバキと音を立てて腐った床板が剥がれ落ち、代わりに焼きたてのパンのような色をした、美しい木目の床板が隙間なく敷き詰められていく。


 節一つない特一等材。それを完璧な「隠し釘」の技法で固定し、仕上げに自家製の蜜蝋ワックスを塗り込んだような、しっとりとした光沢が走る。


(これだ……。この「カチッ」とハマる快感。これがDIYの醍醐味なんだよ!)


 だが、俺はふと冷静になった。


 ここがどんな世界か分からない以上、いきなり「ピカピカの豪邸」を荒野に出現させるのは、獲物として目立ちすぎる。


 DIYの基本は、現場の環境に馴染ませることだ。


(……よし。外観はあえて、ボロいままのテクスチャを維持しよう。表面の皮一枚だけ『朽ちた古木』を擬装させ、内側の構造体だけを最新の剛性へと組み替える……『カモフラージュ施工』だ)


 外から見れば、今にも崩れそうな「捨てられた家」。


 だがその中身は、王宮の寝室すら凌駕する究極の居住空間。


 この「ギャップ」こそが、男の隠れ家の美学だ。


 その時だった。 俺の「領域感知」に、かすかな振動が引っかかった。


(ん……? 南南西、距離五十メートル。この歩幅、この重心移動の乱れ……かなり衰弱しているな)


 魔力の波長を感じる。それは、俺が発している「家の魔力」に導かれるように、ふらふらとこちらへ近づいてくる小さな足音だった。


 数分後。


 今にも倒れそうな少女が一人、俺の玄関前に辿り着いた。


 ボロボロの服を纏い、泥に汚れた銀髪の少女。彼女は魔力感知の能力があるのか、俺の「中」から漏れ出す、修復したての木の香りと魔力の温もりに、驚いたように目を見開いた。


「あ……。こんなところに、家……? すごく……温かい感じがする……。お願い、一晩だけでいいから……休ませて……」


 ガチャン。


 彼女がドアノブに手をかける。


 その瞬間、俺は感じた。


 先ほど俺が「最高級の潤滑油」を差し、一分のガタもなく調整した真鍮製ノブが、吸い付くように滑らかに回る手応えを。


(いらっしゃい。……いや、ようこそ俺の「中」へ。安心しろ。表面はボロく見えても、俺の構造計算に抜かりはない。ここなら、どんな嵐が来ても、誰が襲ってきても、指一本触れさせやしないからな)


 これが、俺と彼女。


 そして、このボロ屋を「世界最強の城」へとリフォームしていく建国記の、本当の始まりだった。

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