久住くんは吸血鬼らしい
隣の席の久住くんは吸血鬼らしい。
高校に入学して、隣の席の男子生徒に挨拶をした。久住と名乗ったその人は、綺麗に日焼けをしていて運動部に入っていそうな人だった。実際運動部だった。
そんな人が挨拶を済ませた後に、まわりを気にして小声で私に語りかける。
「俺、実は吸血鬼なんだ」
……どうしよう。何故突然そんなことを? なんて返事をしよう。
悩んだ末に『そうなんだね。太陽大丈夫?』と普通に返事をしてしまった。
「血を吸う以外は人間と同じだよ」
「そうなんだ。ニンニクも食べられるの?」
「全然平気。むしろ好き」
「今どきの吸血鬼って、結構自由なんだね」
「そう。案外なんでも平気だよ」
血を吸う以外は変わらないのなら、特に問題ないのかな。まあ、そんな人もいるのだろう。
「驚かないんだね」
久住くんは落ち着いている私を見て楽しそうに言う。驚いて欲しかったのだろうか。先生が教室に入ってきたので、会話はそこで終わった。
昼食の時間、私は久住くんが何を食べているのか気になった。チラリと隣を見てみると、白米がいっぱい詰まった大きなお弁当を食べている。おかずも普通だ。主食は血液じゃないらしい。
「お昼はお弁当なんだね。いつ血を吸うの?」
「たまーに。なんか衝動的に吸いたくなる」
「そうなんだ」
「あっ、でも、学校では吸わないように気をつけるよ。クラスメイトの血を衝動的に吸ってたら怖いよね」
「うん。そうだね」
じゃあ、どこで吸うのだろう。どんな時に衝動的になるのだろう。私が色々と考えている間、久住くんはガツガツと美味しそうにお弁当を平らげていた。
◆◇◆
久住くんと知り合ってから様子を見ているけれど、本当に人間と変わらない。吸血鬼らしさが一切ない。元気にご飯を食べて、放課後は楽しそうに部活をしている。グラウンドを走りまわっている姿をよく見る。
この前の休日は友達とラーメンを食べに行ったらしい。ニンニクや野菜が大量に入ったラーメンを食べて満足だと言っていた。
夏休みは海水浴に行く予定を立てているらしい。吸血鬼は炎天下の中動いても大丈夫なんだろうか。
「久住くんは元気だね」
「そう?」
昼食のお弁当をモリモリ食べる久住くんに話しかける。運動量が多いから、これだけ食べても太らないのだろう。均整の取れた体だ。
そんなことを考えていると、久住くんが『あっ!』と声をあげた。どうしたのかな?と彼の顔を見ると、顔色が悪い。
「久住くん、大丈夫?」
「だ、大丈夫じゃない……。血が吸いたい」
「えっ!」
突然衝動が襲ってきたらしい。久住くんは口に手をあてている。額に汗が浮かんでいる。
「久住くん、何か手伝える? どうしたら良い?」
「どうしよう……」
久住くんが困っている。私も困る。こうして欲しいとか、何か言ってくれたら対処出来るのに。
「誰かの血を吸う?」
「誰の?」
長年吸血鬼をやってるなら、いざという時にどうすれば良いのかわかっているはずでしょう? それなのに久住くんは焦ってばかりで対応策が無い。久住くんの様子がおかしいので、視線が集まってきている。
「と、とにかく教室から離れたほうが良いよね? 久住くん歩ける?」
「……うん」
吸血鬼だと知られたくないだろうと思い、久住くんを連れて人がいない校舎裏に向かう。彼は歩くのもつらそうだ。
校舎裏に着くと、久住くんは地面に座り込んだ。
「ごめん、迷惑かけちゃったね」
「気にしないで。それより、どうしようね」
「ほんとにごめん」
そう言って久住くんは私に手を伸ばす。久住くんの顔が私の首に近付いてきた。これは、もしかして……。
彼の口が開き、牙が見えた。
ガチン!
「痛っ! 何? 折れるかと思った!」
「ご、ごめんね! 久住くん、大丈夫?」
「全然大丈夫じゃない! 歯痛い! 何? なんで?」
久住くんが口を押さえて痛がっている。
「……驚きすぎて、衝動おさまったかも」
涙目の久住くんが私を見た。本当にごめんね。私は自分の首に手をあてる。表面の皮膚がちょっと弛んだかもしれない。
「私、実はアンドロイドなの」
「それ、早く教えといてよ」
「いや、だって、気をつけるって言ってたじゃない。学校では吸わないって」
「そうだけど。確かに俺が悪いけど……」
「血液ないの。ごめんね」
血があげられないので謝ると、久住くんも申し訳なさそうに謝ってくる。
「俺の方こそ、勝手に血を吸おうとしてごめん。なんか首見てたら美味しそうに見えた」
「人工皮膚が貼られてるだけだから、中身機械なのよ。歯痛かったよね?」
「柔らかいと思って噛んだからビックリしたよ。帰ったら歯医者行かないと」
その歯医者は吸血鬼用なんだろうか。吸血鬼って牙のところが虫歯になったらどうするんだろう。久住くんも吸血鬼の生態も謎すぎる。いつか詳しく聞いてみたい。
「アンドロイドって本当にいるんだね。俺、初めて見たよ」
「私も吸血鬼を見たのは久住くんが初めてだよ」
「意外と人外いるもんだね」
「そうだね。うちのクラス人外ぽい生徒が何人かいそうだよ」
「気付かなかった! もしかして、人間の方が少ないのかもね」
久住くんが笑っている。私も久住くんと一緒に笑った。
後日、久住くんの言っていた通り、クラスメイトのほとんどが人間じゃなかったと知った。
もしかして世の中に人間ってあまりいないのかもしれない。そんなことを考えながら、私は隣でお弁当を頬張る久住くんを観察した。
ありがとうございました




