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最終章:天狼が見る夢-3

最終章:天狼が見る夢

第221話:国葬

劉星の死は、秦国全土を、深い、深い悲しみに包んだ。

その報せは、風のように、国中を駆け巡り、多くの民が、その死を、悼んだ。

長安の街には、黒い喪服を着た人々の列が、何里にもわたって続いた。その列には、漢民族だけでなく、羌族、氐族、そして、遥か西域から来た商人たちの姿もあった。彼らは、民族や、文化の違いを超え、ただ、一人の、偉大な王の死を、心から、悲しんでいた。

彼の葬儀は、国葬として、盛大に、そして、厳かに、執り行われた。

息子の秦王・劉瑤が、喪主として、父の棺の前で、弔辞を読んだ。

「…父は、皇帝ではありませんでした。その名を、天下に、轟かせることも、ありませんでした。ですが…」

劉瑤は、涙をこらえ、声を、振り絞った。

「…ですが、我ら、この西の地に生きる民にとっては、誰よりも、偉大な、そして、優しい、王でありました。父が、我らに、残してくれたもの。それは、領土でも、富でもありません。この、平和な日々、そして、誰もが、笑って暮らせる、この国そのものです。我らは、父の、その遺志を、決して、忘れることはないでしょう」

その言葉に、参列した、全ての者が、涙を流した。

遠く、晋の都・洛陽からも、皇帝・司馬炎の名で、弔意を表す、丁重な使者が、派遣された。彼は、劉星との約束を守り、その死に、最大限の、敬意を表したのだ。

狼王の、最後の旅立ちは、多くの人々の、悲しみと、そして、感謝の念に、見送られた。

第222話:晋の統治

劉星の死後、秦国は、彼と司馬炎との間の、約束通り、穏やかに、晋の統治下へと、組み込まれていった。

司馬炎は、その約束を、違えることはなかった。

彼は、秦国の、独自の法や、文化を、最大限に、尊重した。そして、劉星の息子である劉瑤を、安西将軍・長安侯として、引き続き、この西の地の、統治を、任せた。

晋から、派遣されてきた、新しい役人たちは、この秦国の、実情を、目の当たりにして、驚きを、隠せなかった。

そこには、彼らが、想像していたような、中央に反抗する、野蛮な土地など、どこにもなかった。

街は、豊かで、清潔だった。

民は、勤勉で、その顔には、活気があった。

そして、何よりも、漢民族と、多くの異民族が、互いの、文化や、習慣を、尊重し合い、ごく、当たり前のように、共存していた。

「…信じられん。…一体、あの劉星公は、どのような、魔法を使ったというのだ…」

晋の役人の一人が、呟いた。

その問いに、長く、劉星に仕えてきた、老いた文官が、静かに、答えた。

「魔法では、ございません。ただ、我が先王は、誰よりも、この地に住まう、民のことを、信じ、そして、愛しておられた。ただ、それだけのことにございます」

劉星が、生涯を懸けて築き上げたものは、軍事力でも、富でもなかった。

それは、人と人との、信頼関係。

それこそが、彼の国の、本当の、強さの源だったのだ。

第223話:最後の狼たち

劉星が、この世を去ってから、数年後。

最後まで、彼の側にいた、最後の仲間、虎痴・許褚もまた、長安の地で、その天寿を、全うした。

彼は、死の床で、劉星の息子・劉瑤の手を握り、こう、言い残したという。

「わしは、生涯、多くの、英雄に、お仕えした。その誰もが、皆、素晴らしい、お方だった。だが…」

許褚は、遠い目をして、呟いた。

「…わしの、本当の主君は、二人だけだったのかもしれん。一人は、わしに、武人としての、生きる道を示してくださった、曹操様。そして、もう一人は…」

彼の、無骨な顔に、優しい、笑みが浮かんだ。

「…わしに、人としての、守るべき、温かさを、教えてくれた、我が、たった一人の、友、劉星飛翼だ。…ああ、実に、良い、人生であった…」

虎と狼の、友情の物語もまた、ここに、静かに、その幕を、下ろした。

かつて、乱世を、その武勇と、知略で、駆け抜けた英雄たちは、皆、天へと、還っていった。

残されたのは、彼らが、紡いだ、物語だけだった。

第224話:シルクロードの伝説

歳月は、さらに、流れた。

晋の天下も、盤石ではなかった。やがて、その統治は乱れ、中原は、再び、長い、長い、混乱の時代へと、突入していくことになる。(五胡十六国時代)

多くの国が、興り、そして、滅んでいった。

だが、そんな、激動の時代の中にあって、西の地、長安を中心とした、西域との交易路だけは、不思議と、その輝きを、失うことはなかった。

隊商キャラバンたちは、その道を、安全に行き交い、東と西の文化を、繋ぎ続けた。

そして、その隊商たちの間で、一つの、伝説が、まるで、大切な、宝物のように、語り継がれていった。

それは、かつて、この西の地に、狼王と呼ばれた、一人の、偉大な英雄がいた、という物語。

彼が、いかにして、荒れ果てた、この土地を、誰もが、豊かに暮らせる、楽土へと、変えたか。

彼が、いかにして、言葉も、文化も違う、多くの民族と、手を取り合い、共存の道を、示したか。

そして、彼が、いかにして、最後まで、民の平和を願い、自らの誇りを捨てて、戦を、終わらせたか。

その物語は、親から子へ、子から孫へと、何世代にもわたって、語り継がれ、いつしか、このシルクロードを、旅する者たちの、道標のような、存在となっていた。

第225話:吟遊詩人の歌

劉星の伝説は、やがて、吟遊詩人たちの、格好の、題材となった。

彼らは、その物語に、様々な、脚色を加え、美しい、詩や、歌にして、各地の、酒場や、宮殿で、披露した。

ある詩の中では、劉星は、天から舞い降りた、麒麟の化身として、描かれた。

ある歌の中では、民を、慈しむ、伝説の、賢帝として、謳われた。

そして、ある物語の中では、どんな敵をも、打ち破る、無敵の、戦神として、その武勇が、語られた。

彼の本当の姿を知る者は、もう、この世には、いなくなっていた。

だが、長安郊外にある劉星の墓のそばには、彼が建てたという、もう一つの、小さな石碑が、静かに佇んでいた。

その石碑には、ただ一輪の、素朴な花の紋様が彫られている。

そして、その石碑の下には、劉星が、その生涯を終える直前に、自らの手で、埋めたものが、一つだけあった。

それは、彼が、十四歳の時から、肌身離さず、持ち続けてきた、一振りの、古い短剣だった。

かつては、父への憎しみの象徴であり、母の無念の証であった、その刃。

彼は、その短剣を、誰かを傷つけるためではなく、ただ、静かに、母の元へと、還したのだ。

愛も、憎しみも、全てを乗り越えた、その果てに。

彼は、ただ、一人の息子として、母への、永遠の愛と、感謝を、そこに、残した。

その、ささやかな事実を知る者は、もはや、誰もいない。

ただ、西域との交易路を渡る風だけが、その物語を、優しく、語り継いでいるかのようだった。

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